2025.11.15

「Perfume COSTUME MUSEUM FINAL EDITION」(そごう美術館)開幕レポート。Perfumeの歴代衣装から見る20年間の活動の軌跡

横浜にあるそごう美術館で「Perfume COSTUME MUSEUM FINAL EDITION」が開幕した。会期は2026年1月12日まで。

文・撮影=大橋ひな子(ウェブ版「美術手帖」編集部)

「Perfume COSTUME MUSEUM FINAL EDITION」の展示風景より
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 横浜にあるそごう美術館で「Perfume COSTUME MUSEUM FINAL EDITION」が開幕した。会期は2026年1月12日まで。

 今年の9月21日にコールドスリープを宣言したことでも知られるPerfumeは、あ〜ちゃん・かしゆか・のっちからなる3人組のテクノポップユニットである。1999年に広島で結成し、2005年にメジャーデビューを果たした。以来20年間、世界を舞台に第一線で活躍を続けてきたPerfumeにとって、美しく独創的な数々の衣装も、パフォーマンスをかたちづくるうえで欠かせない魅力のひとつとなっている。

 本展は『Perfume COSTUME BOOK 2005-2020』(文化出版局、2020年)を起点に、メジャーデビュー以降の選りすぐりの衣装を紹介する大規模衣装展として、23年から全国を巡回してきた。グランドフィナーレとなる横浜会場では、特別な演出として「FINAL EDITION」仕様で展示が構成される。

 全部で54セット、162点の衣装が紹介される本展は、過去の同展では展示されなかった最新の衣装が出展されるほか、全4章を通じてミュージックビデオとツアーの衣装が、年代順に並べられている点が特徴だ。

入り口の様子。3人を象徴するハイヒールが展示されている

 1章「近未来型の挑戦者」では、デビューした05年から11年までの衣装が並ぶ。このときスタイリングを担当していたのは内澤研。じつは当時、Perfumeの衣装のほとんどは既成服でつくられていた。これは、ファンが同じ服を買ってPerfumeと同じスタイルをできるように、という内澤の戦略によるスタイリングであった。衣装もファンとのコミュニケーション手段のひとつだと考えていたPerfumeのスタンスに合わせた画期的なアイディアである。会場では、今回初出展となる、初の武道館ライブの衣装や初のNHK紅白歌合戦出場時(第59回)の衣装も並んでいる。

 2章「止まらない進化」では、12〜15年の衣装が紹介される。11年から、内澤に代わってToshio Takedaと三田真一が衣装デザインを手がけている。この頃から、既成服を用いた衣装ではなく、服の構造を一からつくり出す、完全にオリジナルな衣装づくりへと変化していく。

 12年にユニバーサルミュージックへ移籍したのが大きな転機となり、13年の「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル」で、Perfumeはクリエイティブ集団Rhizomatiksの映像技術をかけ合わせた舞台を披露し、高い評価を得た。会場では、再帰性反射素材を使ったプロジェクションマッピングを映し出す衣装も展示されている。このまったく新しい技術を用いた舞台を、12年前に実現させていたという先進性は特筆に値するだろう。

 この頃より、ファッション×テクノロジーといった分野を開拓していくが、そのスタンスを示すひとつに「Spring of Life」のミュージックビデオで使われた衣装がある。LEDが仕込まれたものとなっており、楽曲のリズムと振り付けに連動して発光する仕組みになっている。本来は楽器をコントロールするために使う端末を、衣装に用いるという新しい試みであった。

展示風景より、「Spring of Life」のミュージックビデオで使われた衣装

 またPerfumeの世界観を、幾何学図形模様のデザインで表現し始めたのもこの頃だ。13年の「Magic of Love」のミュージックビデオで使われた2種類の衣装にも、幾何学図形模様があしらわれている。三角のパターンが連続しているように見えるデザインも、肩の部分と肘の部分ではつくられ方が異なり、激しく踊ることを想定された「衣装」である前提を踏まえた工夫にも要注目だ。

展示風景より、「Magic of Love」のミュージックビデオで使われた2種類の衣装

 Perfumeの衣装づくりには、一度つくった衣装のデザインの一部を、次の衣装に継承するという特徴がある。「Magic of Love」の衣装は、これ以降つくられる宇宙服を模した衣装たちの、一番はじめのモデルである。年代順に衣装が並ぶ本展だからこそ、Perfumeの衣装史の系譜をたどるといった楽しみ方もできる。

 3章「『未来』を超えて」では、15年以降の衣装が紹介される。幾何学図形模様からシックな雰囲気の3人揃えのデザインが多くなってくるのがこの時期だ。会場の中央に置かれた展示台には、近年のライブ衣装が複数セット並べられている。ひとつのライブのなかでいくつもの衣装を「早着替え」するPerfumeは、重ね着をして舞台に立つことも多いという。会場では重ね着されていた衣装とともに、それを実現させるための工夫が見られる型紙などの貴重な資料も展覧されている。

展示風景より、Perfume 8th Tour 2020 "P Cubed" in Domeの衣装
展示風景より、Perfume 8th Tour 2020 "P Cubed" in Domeの衣装
3章の展示風景より

 最終章「巡りのとき──それぞれの時代へ」では、24年、25年の最新の衣装が紹介される。大阪・関西万博のNTTパビリオンで披露された衣装や、コンセプトアルバム『ネビュラロマンス』(前編/ 後編)の衣装も展示されているが、なかでも「コールドスリープ」宣言後すぐの、東京ドーム公演の最後で着用した衣装は必見だ。装飾のあまりないシンプルな白い生地でつくられた立体的なフォルムの衣装は、1章の会場で展示されていた11年の初の東京ドームライブの衣装にインスパイアされたものだ。「コールドスリープ」に入ったPerfumeの20年間の活動を「衣装」という切り口で振り返る本展の、締めくくりに相応しい構成だと言えるだろう。

最終章の展示風景より
最終章の展示風景より、Perfume Z0/Z5 Anniversary "ネビュラロマンス" Episode TOKYO DOMEの衣装

 なお本展の音声ガイド(800円)では、Perfumeの3人が衣装に関するエピソードを話しながら展覧会の内容を説明するものとなっている。3人の声を聞きながら、20年間のPerfumeの衣装の変遷を辿ってみてはいかがだろうか。

会場風景より、Perfumeの3人からのサイン