2025.9.13

「HOKUSAI - ぜんぶ、北斎のしわざでした。展」(CREATIVE MUSEUM TOKYO)開幕レポート

東京・京橋に昨年オープンした複合施設「TODA BUILDING」。その6階にあるCREATIVE MUSEUM TOKYOで、「HOKUSAI - ぜんぶ、北斎のしわざでした。展」がスタートした。なお、本展の公式アンバサダーは、髙橋海人(King & Prince)が務めている。

文・撮影=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より、『北斎漫画』
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 東京・京橋に昨年11月オープンした芸術文化を核とした複合施設「TODA BUILDING」。その6階にあるCREATIVE MUSEUM TOKYOで、「HOKUSAI - ぜんぶ、北斎のしわざでした。展」がスタートした。会期は11月30日まで。

 本展は、『北斎漫画』1700冊を所蔵する浦上満(浦上蒼穹堂)の全面協力のもと開催される。質・量ともに世界一として知られる浦上コレクションの『北斎漫画』全15編をはじめ、多彩な読本(よみほん)の挿絵、『冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏』(通称:大波)、自らを“画狂人”と称した晩年の傑作『富嶽百景』全3編・102図、さらには初公開となる幻の肉筆画16図など、総数約450点もの作品が一堂に会している。

展示風景より、『椿説弓張月』『新編水滸画伝』『釈迦御一代記図会』
展示風景より、『椿説弓張月』続編(1807〜11)

 本展の公式アンバサダーは、髙橋海人(King & Prince)が務める。開幕に先立ち、髙橋は次のようにコメントを述べた。「これまでの準備期間にたくさんの絵を勉強し、絵にまつわるストーリーも教えていただいた。作品の一つひとつに魅力が詰まっている」。また、今回初挑戦となる音声ガイドについては、「(自身のファンはもちろん)たくさんの方々に展覧会をご覧いただきたいので、鑑賞のペースを崩さないよう心がけた。音声ガイドは展覧会の鑑賞をリードする役割でもあるので、貴重な機会となった」。

展覧会公式アンバサダーの髙橋海人(King & Prince)。北斎ブルー(ベロ藍)で摺られた大波と髙橋が身に纏うスーツが呼応する
髙橋のイチオシ作品は、『略画早指南』初編の猿
左から、髙橋海人(King & Prince)、浦上満(浦上蒼穹堂、本展特別協力)

 本展は全6章立ての構成となるため、そのハイライトをお届けしたい。

 メインとなるのは、やはり浦上コレクションによる圧倒的な作品数による展示だろう。北斎の数ある代表作のなかでも国内外でとくに知られている「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」をはじめ、森羅万象を描いた絵手本『北斎漫画』、北斎絵本の傑作『富嶽百景』が一堂に会しているほか、曲亭馬琴らとの共作で、巷に読本ブームを巻き起こした『椿説弓張月』『新編水滸画伝』『釈迦御一代記図会』の挿絵などもあわせて紹介されている。

展示風景より、《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》

 とくにこだわりを感じるのはその空間演出だ。壁面やタペストリーとして配された北斎作品の数々はおよそ100倍にも引き延ばされており、空間に迫力をもたらしている。かつ、作品の細やかなポイントも見ることができ、本来小さな絵にもかかわらず、細かな筆致で描かれていることにも気がつくことができるだろう。

 また、北斎の取り組みや各作品の見どころを“北斎のしわざ”としてピックアップしている点も、本展ならではの試みだ。音声ガイド内でも紹介しているため、あわせて楽しみたい。

展示風景より、『北斎漫画』
展示風景より、『北斎漫画』
展示風景より、『富嶽百景』
展示風景より、『富嶽百景』初編「宝永山出現」(1834)

 北斎作品が人気である理由には、その卓越した画力や発想力、ダイナミックな構図、そして思わず笑ってしまうようなユーモアセンスが挙げられるだろう。集中線・効果線、爆発や閃光、波や風などの自然現象、時間の経過、妖怪や幽霊、略画と一筆画、ギャグ描写、アニメ風原画など、様々な切口から森羅万象を描き尽くそうとした江戸時代の巨匠。いまから200年も前の作品群を通じて、現代におけるマンガやアニメのルーツとも言える表現の数々にも本展ではとくに光を当てている。

展示風景より
展示風景より、『新編水滸画伝』
展示風景より、『釈迦御一代記図会』

 また、「北斎が現代も生きていたら、アニメーションを制作していたのではないか」という発想から、本展では北斎作品をもとにしたアニメーションを制作。特設のミニシアターで『踊独稽古』や『北斎漫画』の「雀踊り」、そして「武芸(棒術)」の3本を上映している。

展示風景より、『踊独稽古』(1815)
展示風景より、特設ミニシアター。『踊独稽古』を踊るのは十三代目市川團十郎白猿。「雀踊り」や「武芸(棒術)」は、スタジオジブリでも作画などを務める田辺修、大塚伸治が担当している

 さらに本展では、北斎最晩年の肉筆画である『日新除魔図』16図を初公開している(会期中、展示替えあり)。北斎は80代前半に「毎日、新たに魔物を蹴散らす」ことを願い、獅子や獅子舞などを日課として描き続けたという。200図以上が残される本作に加え、新たに発見された16図が見られるのも、本展ならではだ。迫力のある筆使いにはとくに注目したい。

展示風景より、『日新除魔図』
展示風景より、『日新除魔図』
展示風景より、『富嶽百景』に書かれた跋文。絵を描くことに対する、北斎の並々ならぬ気概を感じさせる文章として知られている

 なお、本展では10月17日より公開される映画『おーい、応為』とのコラボレーションとしてフォトスポットが用意されているほか、展示室横にスペースを構えるテーマカフェ「北斎食堂」では、北斎作品にちなんだメニューが数多く展開されている。鑑賞後はぜひこちらも楽しんでみてはいかがだろうか。

展示風景より
展覧会テーマカフェ「北斎食堂」より
展覧会テーマカフェ「北斎食堂」より