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2025.6.14

「時をかける名刀」(徳川美術館)開幕レポート。前期展は《本作長義》《山姥切国広》の同時公開も

徳川美術館で、同館所蔵の日本刀コレクションを中心に公開する展覧会「時をかける名刀」がスタート。その前期展(~7月27日)の様子をレポートする。

文・撮影=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)

「第二部 刀剣」展示風景より、長船長義《刀 銘 本作長義》 重要文化財
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 名古屋にある徳川美術館で、同館が所蔵する日本刀コレクションを公開する夏季特別展「時をかける名刀」がスタートした。会期は9月7日まで。担当学芸員は安藤香織(徳川美術館 学芸員)。

 徳川美術館は尾張徳川家伝来の日本刀を約700振所蔵しており、美術館が所蔵する刀剣数としては最大を誇る。うち、国宝10振、重要文化財19振、重要美術品23振、名物刀剣(固有名称を付けられた刀剣)23振が含まれている。

 刀剣といえば武家社会において重要な贈答品でもあり、将軍家に次ぐ格式を誇った尾張徳川家には自然と当時の最高級品が集まった。また、同家は徳川家康の遺品を多く相続したこともあり、織田信長や豊臣秀吉といった歴代の為政者や戦国武将ゆかりの名刀も継承、今日においてその歴史を伝える重要な文化財となっている。

徳川美術館 外観

尾張徳川家の名刀は何を語るのか

 本展は、徳川美術館と蓬左文庫の開館90周年を記念して開催される特別展であり、同館が所蔵する刀剣・刀装を中心に、その作品の持つ物語に注目しながら紹介するものとなる。

 会場は、蓬左文庫 展示室と徳川美術館 本展示室を利用した二部構成。まず第一部では、刀剣の装飾具である「刀装」に注目。3つの視点から見どころを紹介している。

「第一部 刀装」展示風景より
「第一部 刀装」展示風景より、《金熨斗刻鞘大小拵》 重要文化財

 刀剣というと武器のイメージが強いかもしれないが、平時であった江戸時代においてはTPOに合わせて身につけるものであった。ここでは、拵(こしらえ)や鐔(つば)など刀装の様々なデザインに注目することで、当時の武家文化の様相を探ることを試みる。また、当時は格式を示すエピソードを持つ刀剣が家宝として重視された時代でもあり、尾張徳川家では《物吉貞宗》が代々家宝として継承されている。

「第一部 刀装」展示風景より、《名物 物吉貞宗》付属品
「第一部 刀装」展示風景より、「本阿弥光温折紙」(1654)

 このような多種多様な刀装を支えてきた職人集団のなかでも、とくに注目されるのが幕府お抱えの金工師として活躍した「後藤家」だ。室町時代から足利将軍家に仕えた同家は、その後江戸幕府に仕えながらも各地で分家を立てて活動の幅を広げていった。ここでは、後藤家による作である「御家彫(おいえぼり)」と、それ以外の「町彫(まちぼり)」の優品をそれぞれ紹介している。

「第一部 刀装」展示風景より、後藤祐乗《獅子図三所物 銘 紋祐乗 光美》
「第一部 刀装」展示風景より、「町彫」による刀装

 ほかにも、明治時代初期の尾張家14代当主・徳川慶勝が所持していた様々な拵もあわせて展示。慶勝がどのように装具をカスタマイズし、使用していたのか。そして、これらの道具がどのように管理されてきたのかといった側面にも注目したい。

「第一部 刀装」展示風景より、手前は《名物 一庵正宗》付属品
「第一部 刀装」展示風景より、《名物 大左文字》付属品

本館展示室には名刀がずらり

 第二部は、徳川美術館の本館展示室にて「刀剣」をメインに展示。ここでは、4つの視点から尾張家にまつわる刀剣を紹介している。

「第二部 刀剣」展示風景より。国の登録有形文化財である本館建築にも注目
「第二部 刀剣」展示風景より、長船長光《太刀 銘 長光 名物 津田遠江守長光》 国宝
「第二部 刀剣」展示風景より、粟田口吉光作・初代越前康継再刃《脇指 銘 吉光 名物 鯰尾藤四郎》

 前期展のうち、とくに注目されるのは徳川美術館と足利市が合同で企画した《本作長義》と《山姥切国広》の同時公開だろう。この2振といえば、本歌である本作長義と写しである山姥切国広の双方が現存し、ともに重要文化財に指定されている唯一の事例であるが、これまで並べて公開される機会はほとんどなかったという。「伯仲燦然」と銘打ち、この2振を比較しながら鑑賞できるのは名古屋史上初。昨今の刀剣ブームを牽引してきた「刀剣乱舞ONLINE」のストーリーも相まって、刀剣ファンには嬉しい機会となるだろう。

「第二部 刀剣」展示風景より、長船長義《刀 銘 本作長義》 重要文化財

 ほかにもこの展示室では、「贈答品」としての切り口から刀剣を取り上げ、様々なやり取りを経て尾張家へやってきた刀のストーリーもあわせて紹介している。数多くの刀剣が一堂に会することで、比較しながらの鑑賞が可能となり、より一層各々の個性や魅力に気づくことができるだろう。

「第二部 刀剣」展示風景より、長船光忠《太刀 銘 光忠》 国宝
「第二部 刀剣」展示風景より、粟田口吉光《短刀 銘 吉光 名物 後藤藤四郎》 国宝
「第二部 刀剣」展示風景より、手前は「駿府御分物御道具帳 御腰物之帳・目貫かうかい帳」(1618)
「第二部 刀剣」展示風景より

 なお、本展はゲーム「刀剣乱舞ONLINE」とのコラボレーションも実施。キャラクターの描き下ろしイラストや等身大パネル、コラボレーショングッズの販売なども行われるためチェックを忘れずに。前期展はオンラインチケットの購入が必須となっており、すでに6月分は完売しているとのことだ。こちらも公式ウェブサイトをチェックのうえ来館予定を立ててほしい。