2025.6.2

横浜に新たな芸術複合施設「Art Center NEW」がオープン。「新しさとは何か」を問い続ける場所に

横浜・みなとみらいに、新たな芸術複合施設「Art Center NEW」が誕生する。その第一弾企画として開催されているグランドオープン記念展覧会「NEW Days」についてレポートする。

文・撮影=大橋ひな子(ウェブ版「美術手帖」編集部)

Art Center NEWの受付
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 6月1日、みなとみらい線新高島駅地下一階に、新たな芸術複合施設「Art Center NEW」がオープンした。「新しさ」とは何かを様々な角度から模索するための場所として設立。この施設は、BankART1929に代わって吉祥寺の「Art Center Ongoing」を運営する一般社団法人Ongoingが新たに手がけている。

 新高島駅改札から地上出口に向かう動線上にあるこの施設は、駅の中の大空間が特徴だ。もともと施設を区切っていた壁を切断し、ところどころに扉を挟み込むことで、公共空間へさらに開かれた空間づくりが行われた。今後この施設では現代アートの展覧会、アートフェスティバル、オルタナティブスペースが集まるプラットフォーム、アートスクールやワークショップなど、芸術や文化に関する様々な取り組みが展開されていく。

施設外観

 施設は大きく3つのパートに分かれており、入り口から向かって右奥はニューギャラリー、受付があるスペースはニューホール、そして左側はニュースタジオとなる。ニューホールは誰でも無料で入れるスペースとなっており、ZINEやアートグッズを取りそろえたショップや、展示鑑賞のあとにゆっくりくつろげるカフェも併設され、様々な用途で誰もが立ち寄れるようになっている。また小上がりになっているスペースもあり、子供が靴を脱いで自由にくつろげるような工夫もされている。

ZINEが並ぶ施設内の様子
ショップコーナー

 そして今回オープンを記念して、本施設ではグランドオープン記念展覧会「NEW Days」が開催されている。会期は6月1日~7月20日。

 本展は、若手からベテランまで幅広い年代のアーティスト8名による展示となっており、展示タイトルにある「NEW Days」を、それぞれが解釈し、多様な表現方法によって制作された作品が展示されている。

 右奥のニューギャラリーでは、下司悠太の作品が展開されている。下司は1994年生まれ。2017 年東京造形大学造形学部デザイン学科グラフィックデザイン専攻を卒業後、会社に就職しながら家事代行業を兼業していた。しかしどちらも辞めたのちに、米と味噌汁で生活を成立させる、ボイコットのために服を自作する等の行動を発表し始めた。

 《生を使う可能性》(2025)では、家事代行を行っていた経験が作品に反映されている。もともと下司は家事労働を好んで行っていたが、当時自分が「使われる側」となっている構造に疑問を抱いていたという。生を続けるための重要な動きである家事労働の価値を、どのように伝えたらいいかを模索して制作したものとなる。

展示風景より、下司悠太《生を使う可能性》(2025)

 続いて、新しい都市の使い方をテーマに制作を続けるトモトシの作品が並ぶ。1983年山口県生まれで、大学を卒業後建築設計に携わり、2014年より制作を開始した。2020年からトモ都市美術館を運営し、ワークショップを通じて都市に主体的に関わる提案を行っている。

 トモトシは一貫して、「当たり前に続いていくはずのものが突然終わってしまう瞬間」をとらえた作品をつくる。本展では、いまにも倒れそうな傾いた壁に3つの映像作品が展示されている。《閉店のトレーニング》(2025)は、複数のコンビニエンスストアが映された8分間の映像作品だ。コンビニエンスストアは24時間365日営業しているもの、というイメージがあるが、実際最近では24時間営業せずに途中で閉店するところもある。本作は、消えることが予期されないコンビニエンスストアの消灯の瞬間をとらえた作品となっている。なんてことのない一場面でありつつ、当たり前の灯りが消える瞬間に不安を感じざるを得ない。

トモトシ《閉店のトレーニング》(2025)

 尾﨑藍は1991年生まれ。東京造形大学絵画専攻卒業後、2022~2024年にライクスアカデミーのレジデンスプログラムに参加。ビデオ、立体、テキスト、ドローイング、インスタレーションなど多様な手法で制作を行う。

 尾崎は、性をテーマにした作品をつくる。尾崎の生い立ちもそのテーマに関係しているが、誰の身体にとっても関係のある「性」が、隠すべきものとして扱われていることに注目する。本展では、レジデンスプログラムに参加していたときの経験も活かされた、モザイクに関する作品を展示。性を違う視点でとらえなおす機会を提案している。

展示風景より、尾﨑藍作品

 東野哲史の作品は、ニューギャラリーの会場を跨ぎ、来場者が入ることのできない倉庫にまで拡張されている。東野は1976年滋賀県生まれ。武蔵野美術大学造形学部空間演出デザイン学科を卒業。「非生産的生産活動」という名目のもと、日常の取るに足らないものごとやたんなる思いつきに対してのレスポンスを制作の起点としている。

 本展では、《新しい日々のための第二の手たちの水の話》(2025)というインスタレーションを発表。倉庫の中では、東野はゲームをしたり、動画配信をしたり、日常のルーティーンワークを続けるが、背中についた長い綱を誰かが引くことで、身体を宙に浮かせるパフォーマンスを行うこともある(タイミングは不定期)。さらにライフワークとして行っている東野の鼻毛の水耕栽培も会場に展示され、会期中に成長を記録する。

展示風景より、東野哲史《新しい日々のための第二の手たちの水の話》(2025)の一部

 キンマキの作品は、3つのスペースを横断するかたちで、全24作品が展示されている。キンマキは1995年三重県生まれで、2020年に武蔵野美術大学 大学院 造形研究科 修士課程美術専攻 油絵コースを修了。現在は家族が書いた買い物メモや、iPhoneで撮影した日常の写真といった何気ないものを、自身のカメラロールのなかから選んで油絵作品のモチーフとしている。会場には日常のものをモチーフに描いた初めての作品も展示されている。

キンマキ《fasting and walking》(2020)

 続いて施設左のニュースタジオには、3名の作家の作品が並ぶ。

 手前に展示されるのは、三田村光土里のインスタレーション作品。三田村は1964年愛知県生まれ、東京在住で、フィールドワークから得られる私小説的な追憶を題材に、多様なメディアを組み合わせた空間作品を国内外で発表している。

 今回本展のために横浜に滞在し、公開制作《NEW DAYSのための終わらないインスタレーション》(2025)を行う。会期中つくり続け、日々その様子は変化していく。5月27日から制作は始まっており、現在作品の一部にはバナナの皮が使われている。三田村は会期中毎日バナナを食べ、新しい皮に交換していく。

展示風景より、三田村光土里《NEW DAYSのための終わらないインスタレーション》(2025)の一部

 続いて、庭師でもある中野岳の作品が展示されている。中野は1987年愛知県生まれ。2017年シュトュットガルド国立美術大学ファインアート科ディプロマ課程を修了。滞在する国や地域の特色を取り入れ、生活を反映した彫刻やパフォーマンス、映像作品などを制作している。

 本展に出品している《Sandbagged Roots》(2025)は、名古屋城で土嚢袋に土をつめているときに思いついたという。当時中野が住む名古屋で、不発弾が見つかるニュースが相次いで起きた。そしてその出土した不発弾のかたちがサンドバッグに見えたことから、土嚢袋でサンドバッグをつくる作品を制作。不発弾の存在を知ることで日常の見え方が変わってしまった経験が、今回の展示テーマとつながっている。さらに地下空間である本施設にこの作品を置くことで、地下に眠る異常性を誰もが想像する機会をつくり出している。

中野岳《Sandbagged Roots》(2025)

 本展最年少の大和楓は1998 年徳島県生まれ、沖縄県在住。2024年金沢美術工芸大学彫刻専攻を卒業。日常の中に埋もれている些細な身振りから、一つの型を掘り起こすことをテーマに作品を制作している。

 本展では、《フィット》(2025)というインスタレーションを展示。新しい平和学習を提案したいという想いで制作された本作は、沖縄県公文書館に所蔵されている6枚の日本軍捕虜の写真がもとになっている。空間にはそれぞれの写真をもとに制作したイラストと、その付近に構造物や道具がある。来場者は作品に触れながら、パネルに顔をはめる、スイカを動かす、呼び鈴を押す、縄跳びを飛ぶ、飴をすくう、壁の線に腰を揃えるといった動きをすることになるが、それらはすべて、写真に写る日本軍捕虜の姿勢を再現するものとなる。80年前といまここに生きている我々が、動作を通じて接続されるように感じるだろう。何気ない動きひとつから、記憶すべき他人ごとではない出来事を想像するきっかけを与えられる。

展示風景より、大和楓《フィット》(2025)の一部

 今回「NEW Days」をキュレーションした秋葉大介は、本施設のこけら落としとして、「新しさとは何か」を問い続けるスペースの態度を示す展示を企画した。あらゆる世代の様々な人に向けて開かれたこの空間で、今後も「新しさ」への問いかけに挑戦していく本施設の展開に注目してほしい。