2024.9.13

「ムーンアートナイト下北沢2024」開幕レポート。シモキタにアートという核を

下北沢の街を舞台に、「月」をテーマにしたアートフェスティバル「ムーンアートナイト下北沢2024」が今年も開幕した。

文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

展示風景より、ルーク・ジェラム《Museum of the Moon》
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 下北沢の街が、今年もアートフェスティバルで盛り上がりを見せる。小田急電鉄と下北沢商店連合会、スタートバーンが主催する、「月」をテーマにしたアートフェスティバル「ムーンアートナイト下北沢2024」が開幕を迎えた。

 同フェスの開催は今年で3回目。昨年は約40万人が来場するなど、シモキタの秋の風物詩となりつつある。今年は企画に賛同する地域団体が昨年の倍となる約70に、総企画数が約90に増えるなど、パワーアップを見せる。下北沢商店連合会の大木弘人会長は、これまでの2回を振り返りつつ、「下北沢にアートという核をつくっていきたい」と3回目の開催に対する意気込みを語った。

 フェスの中心でありシンボルとなる作品は、ルーク・ジェラムによる《Museum of the Moon》だ。下北線路街の空き地に展示された本作は、NASAの月面写真をもとにつくられた直径7メートルの大作。50万分の1の縮尺で再現された月は1センチが実際の月の5kmを表す。国や地域で様々な意味を持つ月。展示される場所によって意味や解釈を変える作品だ。

下北沢駅方面から見た《Museum of the Moon》
展示風景より、ルーク・ジェラム《Museum of the Moon》

 「しもきた商店街内 道路予定地」では、アマンダ・パーラーが手がけるウサギの姿を模した《Intrude》が、昨年とは異なるバージョンで登場。人々を惹きつけるための愛らしさを持つウサギだが、その反面、オーストラリアでは入植者が持ち込み、繁殖したウサギが環境に影響を及ぼしている。本作は、そうした人間が環境に及ぼす影響や、環境破壊、サステナビリティについて考えるきっかけを提示するものだ。

展示風景より、アマンダ・パーラー《Intrude》

 今回、日本初展示の作品も登場した。それが「BONUS TRACK」隣接駐車場に展示された《Elysian Arcs》だ。同作は、ペルー出身の立体造形作家でデザイナーのレンゾB.ラリヴィエールと、空間建築家でアーティストのザラ・パズフィールドが率いる、シドニー拠点のアーティストグループ「Atelier Sisu(アトリエ・シス)」よるもの。「Elysian」とは、ギリシャ神話に登場する天上の人々の死後の居場所である「Elysian field」から着想されたもの。特殊なフィルムを使った3つの巨大アーチは刻々と色を変え、月虹を連想させる幻想的な光を放つ。見るだけでなく、その中を通り抜けることで、没入感も得られる作品だ。

下北沢駅側から見たAtelier Sisu《Elysian Arcs》
展示風景より、Atelier Sisu《Elysian Arcs》
展示風景より、Atelier Sisu《Elysian Arcs》

 有料会場となる「東北沢駅屋上」では、ベルリン拠点のアーティスト・三家俊彦によるインスタレーション《"The Aluminum Garden-Structural Studies of Plants-"》が展開されている。工業用アルミホイルによってつくりだされた植物は、植物の構造を参照し、植物らしいしなやかさや脆弱性を残したもの。風に吹かれる場所に置くことで、環境に影響されて植物のように姿を変える。都市の中に置かれることで、人と自然の共存のかたちを探ろうとするものだ。

 また普段は非公開のコンクリート空間「世田谷代田駅地下」では、ウェイド・アンド・レタによる太陽系のビッグバンから着想を得た新作《Shapes in the Night》が眩い光を放つ。下北沢にいるとは思えない体験を得られるだろう。

展示風景より、ウェイド・アンド・レタ《Shapes in the Night》
展示風景より、ウェイド・アンド・レタ《Shapes in the Night》

 期間中、シモキタエリアの施設・店舗では、展示、ワークショップ、グルメ、映画など様々なジャンルで「月」や「ウサギ」などをテーマにした商品や企画を展開。地域のアートギャラリーでは初年度から参加している「SRR Project Space」「下北沢アーツ」に加え、「ギャラリーHANA 下北沢」「Such As, Gallery」「DDD ART」が新たに参加する。

 シモキタ - エキマエ - シネマ「K2」ではK2アートウィーク特集上映「都市とヴィジョン(幻影)2024」と称してアートが街に与える影響を深く掘り下げた作品の上映と、一部上映回にてゲストトークショーも開催される。

 同フェスを特徴づけるNFTスタンプラリーも今年は継続。新たにうさぎがモチーフのキャラクターを用いたNFTとして、下北沢に予約制の書店を構える夢眠ねむのたぬきゅん&フレンズ「ラビやん」や、小田急電鉄の子育て応援マスコットキャラクター「もころん」を題材に、ここでしか手に入らない限定NFTが全10種登場した。下北沢の街を散策しながら、アートフェスティバルを楽しんではいかがだろうか。