2024.9.7

「内藤礼 生まれておいで 生きておいで」(銀座メゾンエルメス フォーラム)開幕レポート。感情や記憶、人の生を静かに見つめる

銀座メゾンエルメス フォーラムで「内藤礼 生まれておいで 生きておいで」がスタートした。会期は2025年1月13日まで。本展は、東京国立博物館で開催中の展覧会(〜9月23日)との連携企画となっている。

文=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部) 画像提供=銀座メゾンエルメス フォーラム

「内藤礼 生まれておいで 生きておいで」(2024)銀座メゾンエルメス フォーラム展示風景より
撮影=畠山直哉
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 東京都中央区の銀座メゾンエルメス フォーラムで、「内藤礼 生まれておいで 生きておいで」がスタートした。

 本展は、東京国立博物館(以下、東博)で開催されている同名の展覧会(〜9月23日)と一連の流れを持って構想されたものだ(東博での内藤礼インタビューはこちら)。歴史と文化が宿る東博とは対照的に、銀座メゾンエルメスフォーラムは都市に佇む近代的な建築。しかしながら内藤は、ガラスブロックから差し込む自然光や都市の人工的な光と色彩に包まれるこの空間に、「生の没入」を見出すことを予感したという。

 「東博の場で生じている生まれてくることと往くことは、私の心には近く、生の私には遠く、その遠さは物語とすることで関係を持ちうる。そういうものであったと感じております」(内藤)。

「内藤礼 生まれておいで 生きておいで」(2024)銀座メゾンエルメス フォーラム展示風景より
撮影=畠山直哉
「内藤礼 生まれておいで 生きておいで」(2024)銀座メゾンエルメス フォーラム展示風景より
撮影=畠山直哉

 このふたつの会場は、作品によってつながりを持つような構成となっている。例えば、本展の中軸ともなっている絵画シリーズ「color beginning / breath」においては、東博本館の特別5室に展示されている最後の1枚と、銀座メゾンエルメス フォーラムの始まりの1枚は同じキャンバスで描かれ、つながっていたものだという。

 また、本展で見られるふたつの風船は、生まれてくる生の魂と、生の外側に行こうとする魂であると内藤は語る。「color beginning / breath」とともに時間の不可逆性を示しながら、時折、鑑賞者の動きや空気の振動によってゆらりと揺れるのが印象的であった。

 「生の只中において、生の往還は分けようもなくひとつで、言うまでもないことなのですが、 生は生きながら還っているのでした。あの花も、今日という日も、私もです」(内藤)。

「内藤礼 生まれておいで 生きておいで」(2024)銀座メゾンエルメス フォーラム展示風景より
撮影=畠山直哉

 いっぽう、東博では見られないモチーフも銀座メゾンエルメス フォーラムには存在している。ひとつは一輪の花。花瓶に生けられたこの花はいまは美しく咲いているが、いつかは必ず枯れ、なくなってしまうだろう。もうひとつは笑顔のモデルが写されたくしゃくしゃの雑誌の1ページ、そして「生の光景」を静かに見つめる、木の人の存在だ。

「内藤礼 生まれておいで 生きておいで」(2024)銀座メゾンエルメス フォーラム展示風景より
撮影=畠山直哉
「内藤礼 生まれておいで 生きておいで」(2024)銀座メゾンエルメス フォーラム展示風景より
撮影=畠山直哉

 このふたつ目の作品空間の誕生に、内藤はその心境を次のように語った。「作家は自分の作品と初めて出会うという瞬間を最初から奪われていますが、それでも私はこれから制作時とは別の、もうひとつの純粋な体験を受け取ることができるのだろうと思っています」。

 東京国立博物館の展覧会と会期が重なる17日間、ふたつの会場を円環する体験をぜひ味わってほしい。

「内藤礼 生まれておいで 生きておいで」(2024)銀座メゾンエルメス フォーラム展示風景より
撮影=畠山直哉