2026.7.21

「開館50周年記念 山口華楊展」(SOMPO美術館)開幕レポート。現代の京都画壇を率いた「動物画家」の全貌に迫る

東京・新宿のSOMPO美術館で、同館の開館50周年を記念した展覧会「開館50周年記念 山口華楊展」が開幕した。会期は8月30日まで。会場の様子をレポートする。

文・撮影=三澤麦(編集部)

4章「大成 『偉大なる動物画家』として」の展示風景。左から山口華楊《幻化》(1979)、《月夜野》(1971)
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 東京・新宿のSOMPO美術館で、「開館50周年記念 山口華楊展」が開幕した。会期は8月30日まで。担当は、同館学芸員の古舘遼。

 山口華楊(1899〜1984)は、長きにわたり京都画壇を牽引してきた日本画家だ。京都の友禅職人の家に生まれ、画家・西村五雲(1877〜1938)に入門。その後、五雲の勧めもあり、1916年に京都市立絵画専門学校に入学する。主に動物を主題とした作品で頭角を現し、同年には文展に初入選を果たした。五雲亡き後の38年には、画塾・研究団体である晨鳥社(しんちょうしゃ)を再興。44年には海軍省派遣画家としてビルマ方面に従軍した。戦後は日展を主な発表の場とし、81年に文化勲章を受章。その翌年には、パリのチェルヌスキ美術館で個展が開催され、「偉大なる現代の動物画家」と評された。

山口華楊

 本展は、同館が収蔵する華楊の代表作《葉桜》《猿》《幻化》の3点を中心として、初期から晩年までの画業を通覧するものとなる。担当学芸員の古舘は、本展の開幕に際して次のようにコメントを寄せた。「京都画壇を70年にわたって率いてきた華楊の作品が、東京でこれほどまとまって見られるのはじつに27年ぶり。華楊は動物画家としても評されているが、本展の出展作品に登場する動物を数えたところ221であった。巡回なしの展覧会のため、ぜひ足を運んでいただきたい」。

3章「探究 植物表現の生命力」の展示風景

若き華楊の着眼点と徹底した「写生」に注目

 会場では、全4章の構成で華楊の画業をたどる。まず1章「初期作品」では、その名の通り華楊の瑞々しい初期作の数々が並ぶ。

1章「初期作品」。左から《葉桜》(1921)とその大下絵。これらを並べて展示するのは史上初とのこと
左から《鹿》(1927)、《耕牛》(1934)。動物の静かな佇まいと画面に配された植物の対比にも注目したい

 13歳で生涯の師となる西村五雲の私塾に入門し、早々にして画家のキャリアをスタートさせた華楊。その若き日の作品群には、確かな才能のなかに試行錯誤を重ねた形跡が見受けられる点も興味深い。京都画壇の特徴であり、華楊自身もつねに心がけていたという「写生」は、師から受け継いだ生涯の教えとなった。本章では、華楊が22歳頃に手がけた初期の代表作で、同館が収蔵する《葉桜》(1921)が、貴重な大下絵と並べて展示されている。

2章「系譜 師・五雲から華楊へ」。右の《洋犬図》(1937)では3匹のボルゾイが緊張感のある構図で描かれる
同じく2章「系譜 師・五雲から華楊へ」の展示風景

 専門学校の研究科を卒業した華楊は、画家としてのキャリアを順調に築くとともに、母校の助教授にも就任した。しかし、その矢先に五雲が急逝し、大きな喪失感を味わうこととなる。華楊は五雲が創設した晨鳥社の再興や遺作展の開催に奮闘するいっぽう、「いかに師の教えを受け継ぎながら、自身の表現を追求していくか」という大きな課題に向き合うこととなった。

華楊が海軍省派遣画家として従軍中に描いた「南方スケッチ」(1943)

 続く2章「系譜 師・五雲から華楊へ」では、師を失った華楊が見せた新たな展開を紹介。師の教えを根底に宿しながらも、独自のリアリティと動物への優しいまなざしが共存する動物画や、海軍省派遣画家として従軍中に描かれたスケッチなどが展示されている。また、本章では華楊作品に登場する動物たちの「かわいさ」の秘密を探る小特集も用意されており、視覚的な緩急が楽しい空間となっている。

「生命力」を描き出す

 華楊の作品を鑑賞していると、主役である動物たちを静かに支える「植物」の存在感に目を見張る。1章の《葉桜》に見られる瑞々しい描写はもちろん、例えば《耕牛》(1934)の足元でひっそりと、しかし確かな存在感を放つドクダミの花などもその好例だ。主役を引き立てる対比として植物を効果的に配し、画面全体を調和させる構成からは、華楊の自然に対する深い観察と慈しみが感じられる。

3章「探究 植物表現の生命力」の展示風景。手前にある《白露》(1974)は、萎れた向日葵(夏の花)と勢いよく伸びる鶏頭(秋の花)が描かれており、季節の移り変わりを感じさせる
左から《鶏頭の庭》(1977)、《青柿》(1978)

 3章「探究 植物表現の生命力」では、華楊が描く植物に焦点を当て、その卓越した作家性を改めて浮き彫りにする。静かでありながらも、内側から満ちる確かな生命力を感じられる作品群によって、華楊の表現の深奥に触れられる。あわせて本章で展示されている下絵やスケッチの数々からもそれが見受けられる。

4章「大成 『偉大なる動物画家』として」では、同館所蔵の《猿》(1959)も展示される

 最終章となる4章「大成 『偉大なる動物画家』として」では、まさに画業の集大成とも言える晩年の傑作が一堂に会する。戦後、華楊は日本芸術院会員や日展顧問を歴任し、1981年には文化勲章を受章。翌年のパリ個展では「偉大なる現代の動物画家」と評された。この時期の作品は、これまでの生き生きとした写実描写がさらに深まりを見せ、どこか幻想的な画面づくりへと昇華しているのが特徴だ。

左から《幻化》(1979)、《月夜野》(1971)

 なかでも同館所蔵の《幻化》(1979)は、本展のハイライトのひとつだ。古来、人を化かすと言われる狐を、なんとも気品あふれる姿で描き出している。2匹の狐が夢の世界で追いかけっこをするように遊ぶ姿はファンタジーのようでありながら、長年培った徹底的な「写生」の力が宿るからこそ、圧倒的な説得力をもって鑑賞者に迫ってくる。まさに華楊の到達点を示す作品と言えるだろう。

 およそ70年にわたり、京都画壇の最前線で活躍し続けた山口華楊。本展はその歩みを、初期から最晩年まで丁寧にたどっている。たしかな技術に裏付けされた写生の力がもたらす愛らしい動物たちの描写は、迫力に圧倒されるとともに、鑑賞者の心を解きほぐすような柔らかさも宿っている。東京でこれだけ多くの華楊作品に出会えるこの貴重な機会を見逃さないでほしい。

ミュージアムショップでは本展ならではのグッズも販売されている
《幻化》をモチーフとしたTシャツ

 なお、同館のミュージアムショップでは、本展の開催にあわせたオリジナルグッズも多数販売中。図録をはじめ、華楊作品に描かれた愛らしい動物たちをあしらったTシャツやトートバッグなど、日常使いしたくなるアイテムが揃っている。鑑賞の余韻とともに、ぜひこちらも手に取ってみてはいかがだろうか。