2026.5.30

「ART OSAKA 2026」開幕レポート。新たな試みがもたらすマーケットの展望とは

現代美術のアートフェア「ART OSAKA 2026」が、コングレスクエア グラングリーン大阪とクリエイティブセンター大阪の2拠点で開幕した。各会場の様子をレポートする。

文・取材=大橋ひな子(編集部)

西本剛己《ノア:復活の製図室》(2026)帆布に染色、足場材、回転灯、古い製図台のアーム、木に塗装、化粧板ほか
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 関西を代表する現代美術のアートフェア「ART OSAKA 2026」が、コングレスクエア グラングリーン大阪(5月29日〜31日)と、クリエイティブセンター大阪(5月28日〜6月1日)で開幕した。

 2002年の創設以来、関西を拠点に活動を継続してきた「ART OSAKA」は、国内最長の歴史を持つ現代美術のアートフェアのひとつだ。今年で24回目となる本フェアは、「Galleriesセクション」と「Expanded セクション」の2つで構成されている。

Galleriesセクション 新会場での開催とセクションの再編

 今回「Galleriesセクション」は、うめきたエリアに位置するコングレスクエア グラングリーン大阪を会場に開催された。アクセスの利便性を高めることで、これまで以上に幅広い層の来場を促す狙いがある。国内外から52ギャラリーが参加し、「Galleries」「Focus」「Wall」「Screening」の4つのサブセクションに分かれて作品の展示販売を実施。この再編の背景には、従来の画一的なブース形式中心の構成から、ギャラリーのキュレーション力や作家の世界観をより鮮明に提示できる形式へと転換を図る意図がある。

TEZUKAYAMA GALLERYのブース

 大阪を拠点とするTEZUKAYAMA GALLERYは、30〜40代の中堅作家4名を紹介。鮮やかな青色の壁面で構成されたブースは、美術館の一角を模して設えられている。同ギャラリーは、現在活動する作家を紹介しながらも、その作品が将来にわたり残り続けるという「時間的な継続性」を意識した提示を行っている。自らの人生よりも長く残っていく作品を手にし、後世へとつないでいくというコレクションの面白さを伝える試みだ。出展作家である和田直祐石井佑果の作品は、それぞれ美術史を参照したアプローチをとり、歴史のなかに自らを位置づけようと試みる。

西村画廊のブース
√K Contemporaryのブース

 東京に拠点を置く老舗画廊の西村画廊は、舟越桂の木彫や版画作品をはじめ、デイヴィッド・ホックニー町田久美三沢厚彦、押江千衣子、小林孝亘などの作品を展開。同じく東京拠点の√K Contemporaryでは、マレーシア出身のネルソン・ホーと台湾出身のリャオ・ユエン・イーの2名を紹介している。イーは、布の上に刺繍やスタンプ、コラージュなどの技法を施し、人間同士の曖昧な関係性を表現する作家だ。明るさと暗さの間に位置する「グレー」の状態を模索する作品群には、作家自身の個人的な経験が反映されている。会場では、日本留学時代に友人と銭湯を訪れた記憶を起点とした作品などが展示されている。

ギャラリーノマルのブース。上田佳奈の「particle」シリーズが並ぶ

 個展または2人展形式のセクション「Focus」では、ギャラリーノマルが今年度の「咲くやこの花賞」を受賞した上田佳奈の展示を実施。会場に並ぶ「particle」シリーズは、ドットで表現された複数の肖像を、アクリル板の上に何重にも刷り重ねた作品群だ。あらゆる存在が粒子で構成されているという科学的視点をもとに、ミクロとマクロを行き来する世界の新たな知覚体験を提示していた。

「Wall」セクションの様子。手前はYu Haradaのブース

 壁面展示に特化した「Wall」には6ギャラリーが出展。なかでもYu Haradaは、写真や映像を用いて「光」の新たな表現を探求する前谷康太郎の作品を紹介している。身近な存在である車のボディを接写した作品群は、一見しただけでは被写体の判別が困難な抽象性を持つ。会場に設置されたQRコードから映像作品へもアクセス可能となっており、前谷の実践を多角的に知ることができる構成だ。

gallerychosunのブース。Bona Park《Phwee Phwee Sweet Fweet》(2024)4Kビデオ、サウンド 22分52秒

 映像作品をメインに扱う「Screening」では、韓国・ソウルを拠点とするgallerychosunがBona Parkの作品などを紹介。一般のアートフェアでは取り上げることが難しいとされる映像メディアの専門セクションを設けることで、フェアの形式そのものの拡張を試みている。

 なお、会場入り口には企画展「もうひとつの90年代ー時代を超える関西の作家たち」が展開されている。キュレトリアルアドバイザーに加藤義夫(APCA/加藤義夫芸術計画室)を迎え、ギャラリストの視点から関西ゆかりの作家による1990年代の作品を紹介するものだ。会場では作品とともに、出品作家が当時を振り返るテキストも掲載されており、大阪に根づいていた美術の潮流を再考することができる。

Expandedセクション 空間の特性を生かした大型展示

 大型作品やインスタレーションを展開する「Expandedセクション」には13組のアーティストが参加。北加賀屋にある4階建ての造船所跡地「クリエイティブセンター大阪」の空間特性を生かした展示が行われている。本セクションは、従来のマーケット構造では扱いづらかった規模の作品に出展の道筋を拓くことで、アートフェアにおける発表や販売のあり方を拡張する取り組みである。

アンチテイル《視線と夢》(2026)ネオン管、ミクストメディア

 1階では、アンチテイル(国谷隆志、はしもとともこ)のインスタレーション《視線と夢》(2026)が展開されている。会場中央にネオン管で矩形の空間を構築し、その内部に立体作品を配置した本作は、2階からの鑑賞も可能であり、視点の変化による見え方の違いを体感できる。

YOD Galleryのブース。宮田彩加の作品が紹介されている

 YOD Galleryからは、宮田彩加の作品が出展されている。宮田は、日常のモチーフにバグを加えることで生まれるイメージを、ミシンを用いた糸の表現によって構築する。鮭をモチーフにした《千鮭万来》(2025)は空間に浮遊するように設置され、表面とは異なる印象を持つ裏面も同時に鑑賞できるようになっている。

AIN SOPH DISPATCHのブース。紹介されている鈴木淳夫は、期間中公開制作を行う

 名古屋を拠点とするAIN SOPH DISPATCHでは、鈴木淳夫の作品を展示。鈴木は、木製パネルに重ねた絵具を彫る「彫る絵画(Carved Painting)」を実践しており、平面でありながら立体的な性質をあわせ持つ作品を制作している。彫るプロセスで生じたピースを用いた立体作品も並び、平面作品との連続性を示した。この凹凸から見出される「表と裏」の関係性を空間全体で表現するため、会場には仮設壁が設置され、その両面に作品を展開。裏面のスペースでは、会期中の4日間にわたり鈴木による公開制作が行われ、その場で制作された作品も販売対象となっている。

Wa.galleryのブース

 大阪のWa.galleryは、兵庫県神戸市を拠点に伝統民家から文化財、現代的な内装までを手がける茅葺き職人でもある相良育弥を紹介。相良は職人としての技術を用いて稲藁などによる作品を制作しており、本フェアでは自身の暮らしを結晶化した新作《名付けられる前の風景》(2026)などを出品。会場には稲藁を用いた大型インスタレーションが立ち現れ、素材の香りが空間に広がっている。

 Wa.galleryの竹井良は、本フェアの独自性について次のように指摘する。「Expandedセクションでは、ホワイトキューブではないスケルトンの空間が会場だからこそ、ギャラリーによる空間づくりやプレゼンテーションを見てもらいやすい。作家や作品の紹介だけでなく、ギャラリーごとの特色や姿勢を見てもらえる機会は、ギャラリーにとって非常に意義がある」。

MUGのブース。村本剛毅《いくつかの媒体/視るもの》(2020〜26)ミクストメディア

 MUGからは、独自の「媒体」を発明・彫刻する実践を通じて「媒介」とは何かを探求する「媒体芸術(メディウムアート)」を手がける村本剛毅が紹介されている。《いくつかの媒体/視るもの》(2020〜26)は、天井から吊るされたLEDディスプレイボードから伸びる光ファイバーの束を通じて、目を瞑った瞼に画像を投影する作品だ。鑑賞者は会場に仰向けに寝転ぶことで本作を体験できる。アートフェアにおいては珍しい実験的な試みである。

TEZUKAYAMA GALLERYのブース。西本剛己《ノア:復活の製図室》(2026)帆布に染色、足場材、回転灯、古い製図台のアーム、木に塗装、化粧板ほか

 4階では、TEZUKAYAMA GALLERYから、西本剛己による全長30メートルに及ぶサイトスペシフィックなインスタレーション《ノア:復活の製図室》(2026)が展開されている。本作は、かつて造船所の製図室であった会場の、床に残る製図跡に着想を得たという。巨大な船を思わせる本作は、1200平米もある空間に浮遊している。素材には船の帆に使われる帆布が用いられ、当時使用されていた製図道具を取り入れた作品も配置されている。

 今回、双方のセクションに参加している同ギャラリーのディレクター・岡田慎平は、それぞれの意義について次のように述べる。「Galleriesセクションは作品販売を中心に行う場。いっぽうExpandedセクションは、普段この広さでは作品を展開する機会の少ない作家の力を存分に示す場となっている。ギャラリーが持つ多様な側面を、プレゼンテーションの方法を変えて提示できる機会となっている」。

 そのほか、FUKUGAN GALLERYとの共催による特別企画も実施。関西のストリートカルチャーの拠点である大阪・心斎橋のアメリカ村に位置する立ち飲み屋「ムラタ酒店」を軸に、その変遷を辿る構成となっている。同会場では9人のアーティストが紹介され、関西のアンダーグラウンドなカルチャーシーンを多面的に検証する機会となっている。

新たな試みがもたらす、今後のマーケットへの視座

 本フェアの全体像を振り返るうえで、重要な論点となるのが会場の移転とほかイベントとの連携強化である。ART OSAKAのコ・ディレクターを務める櫻岡聡は、今回の試みとこれからの展望について次のように語る。

 「Galleriesセクション」会場を従来の「大阪市中央公会堂(中之島)」から「うめきたエリア」へと移したことについて、櫻岡は「より良い展示環境を求めていたことも移動を決定した理由のひとつ」と説明する。これまでの会場に比べ、新会場は天井高などの物理的な利点がある。会場を遮る柱もなく、通路が広くなったことで会場全体の視認性が向上。空間全体が明るくなったことで、「作品の見え方が変わっていると思う」と、展示環境の変化に対する効果を語る。

「Galleriesセクション」の様子

 また、立地がもたらす波及効果への懸念と期待もある。優れたアクセス性に加え、「うめきた」というアート以外の新しいカルチャーが生まれる領域に集まる層へのアプローチは大きな利点になり得る。北加賀屋会場との2拠点間の距離は離れたものの、移動が発生することでむしろ「大阪という都市の多面性を感じてもらえるきっかけになるのではないか」と櫻岡は付言する。会期中は無料のシャトルバスを運行するなど、アクセス面でのサポート体制も敷かれている。

 いっぽうで、歴史的な情緒を湛えた国指定重要文化財である大阪市中央公会堂が会場だったことで、フェアに独自性が生まれていたという声もある。ほかのアートフェアとの差別化という観点において、この「うめきた」への移転が今後どのように作用していくかは、これからの検証課題と言える。

 さらに、出展ギャラリーの顔ぶれにおける「ローカリティとグローバル」のバランスも今後の焦点となる。国内外からギャラリーが集結しているとはいえ、海外からの参加はフィリピンと韓国の計4軒に留まり、国内勢も関西圏と東京拠点のギャラリーが大半を占めている。櫻岡は本フェアの根幹を「大阪を含めた関西圏を拠点に活動するギャラリーを中心に取り上げることでローカリティを打ち出していきたい」としつつも、「今後は海外を含め、ほかのエリアで興味深い活動を展開しているギャラリーも積極的に紹介していきたい」と語る。フェアとしてのアイデンティティを保ちながら、いかにして国際的な展開を両立させていくかが、次なるステップへの課題となりそうだ。

 加えて、今回は同時期に開催されている「Osaka Art & Design 2026」との連携をより強固なものにするという試みもなされた。大阪市内全体を巻き込んだアートイベントを仕掛けることで、地域社会におけるアートのタッチポイントを増やし、新たな関心層の裾野を広げる狙いがある。

 新会場での開催、そして地域連携の深化。今回ART OSAKAが試みた新しいアプローチが、今後の関西のアートマーケットやエコシステムにどのような変化や影響を及ぼしていくのか、その動向を注視していきたい。