2026.5.26

ジャコメッティ、砂澤ビッキ、谷川俊太郎ら5名による「世界との対話」展が開催へ。東京都美術館の100周年を締め括り

東京都美術館で、開館100周年記念事業の締め括りとなる企画展「東京都美術館開館100周年記念 あなたが世界を読むために」が開催される。会期は11月19日〜2027年1月11日。

谷川俊太郎《自写像》(1951) ゼラチン・シルバー・プリント 17.3×17.3cm 株式会社谷川俊太郎事務所
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 東京・上野の東京都美術館で、開館100周年記念事業の締め括りとなる企画展「東京都美術館開館100周年記念 あなたが世界を読むために」が開催される。会期は11月19日〜2027年1月11日。

 1926年に日本初の公立美術館として誕生し、2026年に大きな節目を迎えた東京都美術館。同館がミッションとして掲げる「自己を見つめ、世界との絆が深まる創造と共生の場」を礎とした本展では、多様な「読み方」による「世界との対話」をテーマに、時代や表現の背景が異なる5人のアーティストの作品を紹介する。

 出品作家は、アルベルト・ジャコメッティ(1901〜1966)、砂澤ビッキ(1931〜1989)、谷川俊太郎(1931〜2024)、エレナ・トゥタッチコワ(1984〜)、山西もも(1995〜)の5名。彫刻、写真、言葉、絵画といったジャンルを横断する作品の連鎖を通して、「光で読む」「時で読む」「言葉で読む」「自然から読む」「全身で想像する」という5つの「読み方」を提示する。

「光で読む」「時で読む」

 「光で読む──アルベルト・ジャコメッティ」では、20世紀彫刻の巨匠、ジャコメッティを紹介。ジャコメッティは1901年スイス生まれ、シュルレアリスム運動を経て、実存を主題とした細長い人体像を生涯にわたり追求した。

アルベルト・ジャコメッティ《裸婦小立像》(1946頃)石膏に彩色 8.9×3.7×2.3cm 神奈川県立近代美術館 撮影:菅谷守良
アルベルト・ジャコメッティ《裸婦立像》(1950頃)ブロンズ(着色) 21×5×7.2cm  富山県美術館(旧矢内原伊作コレクション)

 ジャコメッティの彫刻は、当たる光によって表情を変え、20年以上その作品を撮影し続けた写真家、エルンスト・シャイデッガー(1923〜2016)は「光の遊びがある」と評した。本章ではジャコメッティと深い親交のあった哲学者・矢内原伊作(1918〜1989)とフランス文学者で美術批評家の宇佐見英治(1918〜2002)の旧蔵品を紹介。

 「時で読む──山西もも」では鋳造作品とピンホール写真を組み合わせる山西ももの作品で「時」を読む。山西ももは1995年大阪府生まれ。東京藝術大学工芸科で鋳造を学び、アンモナイトの化石による鋳造作品と洞窟に着想を得たピンホール写真の組み合わせで「ZOOMS Japan 2024 グランプリ」を受賞した。

山西もも「光の王国」(2025)より 発色現像方式印画(Cプリント) 作家蔵
山西もも「光の王国」(2025)より 発色現像方式印画(Cプリント) 作家蔵

 本展で山西は自作のピンホール・カメラで撮影したネパールの新作と、鋳造作品の新作をあわせて展示する。を展示する。山西はヒマラヤ山脈等で出会ったアンモナイトの化石を「時間の鋳造物」と直感。型の中で金属が形を得る「鋳造」、そして箱の中に光を取り込んで像を結ぶ「写真」のプロセスを、数千万年の時を経て石へと変じた化石のプロセスと重ね合わせる。時の作用によって生成される「変容したイメージ(光の鋳造物)」としての写真と鋳造を通して、重層的な時間のあり方を紐解く。

「言葉で読む」「自然から読む」

 「言葉で読む──谷川俊太郎」 では戦後日本を代表する詩人・谷川俊太郎の試みを紹介。谷川は1931年東京都生まれ。1952年に詩集『二十億光年の孤独』でデビューし、以降長きにわたって日本を代表する詩人のひとりとして活躍。2023年には1950年代初頭に撮影していた写真コレクションを発表し、大きな話題を呼んだ。 

谷川俊太郎《自写像》(1951) ゼラチン・シルバー・プリント 17.3×17.3cm 株式会社谷川俊太郎事務所
谷川俊太郎作品(1952) ゼラチン・シルバー・プリント 17.3×17.3cm 株式会社谷川俊太郎事務所

 本展では、谷川が19歳当時、詩作と並行して写真撮影やラジオの組立に熱中していたことに着目。「世界と、すなわち言葉とたわむれたい」と語った谷川にとって、詩、写真、そして想像の世界へと人を誘うラジオは、すべて「世界に焦点を合わせる装置」であり、言葉が立ち上がる瞬間と深く結びついていた。本章では、初公開を含む若き日の写真、直筆ノート、そして旧蔵のヴィンテージ・ラジオを通し、若き詩人の「創造と想像の時」を辿る。

 「自然から読む──砂澤ビッキ」では音威子府村の廃校を拠点に、巨木を素材とした彫刻を展開し生命感溢れる世界観を表現した砂澤ビッキを取り上げる。

砂澤ビッキ《神の舌》(1980)ナラ 203×120×60cm 札幌芸術の森美術館
砂澤ビッキ《午前三時の玩具(試作)》(1985) クルミ、セン 41.5×34×10.2cm 神奈川県立近代美術館 Photo:Tadasu Yamamoto

 「自然のなかに芸術があって、芸術のなかに自然がある」と語った砂澤は、自身の木彫が自然のなかで風雪に晒され、朽ちていくことさえも受け入れていたという。砂澤にとって彫刻とは自然と自分との距離を「ゼロ」にするための行為であり、その意志は作品の力強いのみあととして刻まれていった。本展では東京では初公開となる個人コレクションを含む展示によりその作品を紹介。

「全身で想像する」

 本展を締めくくる「全身で想像する──エレナ・トゥタッチコワ」では、多用なメディアで知覚や想像力を追求するアーティスト、エレナ・トゥタッチコワを紹介。トゥタッチコワは1984年、ロシア・モスクワ生まれ。東京藝術大学大学院博士後期課程修了。現在は京都を拠点に、セラミック、ペインティング、ドローイング、言葉などの作品を通じて知覚や想像力の探求を行っている。

エレナ・トゥタッチコワ《Timelines, #3》(2025-26)セラミック(ポーセリンを含む)に釉薬とスリップ、テラ・シジラータによる表面加工 35×84×5cm 作家  撮影:エレナ・トゥタッチコワ
エレナ・トゥタッチコワ《Time Spiral》(2025-26) セラミック(ポーセリンを含む)に釉薬とスリップ、テラ・シジラータによる表面加工 61.4×35.5×3cm 作家蔵 撮影:エレナ・トゥタッチコワ

 トゥタッチコワは、思考、想像、身体経験の循環をひとつながりのプロセスとして表現している。近年、トゥタッチコワが取り組むセラミック作品は、粘土や釉薬の層という物質の変容を通して「世界の手触り」を体現したものだ。今回は、すべて新作となるセラミック彫刻「Islands」の連作をはじめ、レリーフ、ペインティング、アニメーションを組み合わせた空間全体で、想像の地図をたどるようなインスタレーションを展開する。

 本展における「読む」とは、未知の領域に向かい、感覚を研ぎ澄まし、手探りで認識を深めていく行為を指す。5人の作家による身体や言葉、自然を手がかりに表現された作品群は、鑑賞者に自身の存在の核心やそれを支える「何か」に触れるような、多様な対話のあり方を体感させる機会となりそうだ。