EXHIBITIONS

グレゴール・ヒルデブラント「...それでも4月に桜は咲く」

2025.04.03 - 06.21

Gregor Hildebrandt April 2025 Cut records, canvas, aluminium, wood 228 × 174 cm Courtesy of the artist and Perrotin

 ペロタン東京で、ドイツ人アーティスト、グレゴール・ヒルデブラントによる個展「...それでも4月に桜は咲く」が開催されている。

 グレゴール・ヒルデブラントは1974年ドイツ、バート・ホンブルク生まれ。ベルリン在住。ヒルデブラントが用いる代表的な素材はカセットテープとレコードであり、それらをコラージュしたり、組みあわせたりすることによって、一見ミニマルでありながら潜在的にロマンティックな絵画や彫刻、インスタレーションを制作。

 アナログ的美学が映し出される光沢のある表面は、限りなく白黒のモノクロームに近いが、その裏で静かに佇む音楽と映画の要素が、つねに作品をとりまいている。絵画であれ彫刻であれ、ヒルデブラントの作品にはすべて録音を施した素材が含まれており、その音が何であるかは作品のタイトルに反映されている。大抵それは一曲の楽曲で、ポップカルチャーからのこうした参照は、集団的かつ個人的な記憶を呼び起こす意図があるという。アナログな記録媒体のように、ヒルデブラント独自の「剥がし」の技法は、記憶のプロセスそのものを象徴している。

 以下は、本展に際して、キュレーター、アンドレアス・シュレーゲルが執筆したエッセイだ。

「グレゴール・ヒルデブラントが芸術、詩、音楽に対して抱く情熱は、まわりに伝染するように広がっていく。見るもの、読むもの、聴くものを自分に取り入れて文脈づける彼の能力が、作品の厳密で独特な物質的形態に表われる『つながり』をつくり出している。それは詩的で、可能性に開かれ、観る者に思考を促すような結びつきだ。

『...それでも4月に桜は咲く』は、グレゴール・ヒルデブラントの日本で初となる個展のタイトルだ。これは、ドイツのシンガーソングライターであるコンスタンティン・ヴェッカーが1980年代初頭に発表した、あまり知られていない歌の一節である。曲のなかでヴェッカーは、型にはまらない思考をすることや、想像の世界に身を委ねることを阻む些細な悩みについて歌う。しかし、ピアノの旋律が感情をかき立てるように咲き乱れると、歌は突如として一変する。にわかに桜が花開き、生きている感覚が再び湧き起こり、変化と創造、そして新しい夢への窓が開かれるのだ。

 私たちが目にするヒルデブラントの作品イメージは、ほとんどの場合音楽との緊密な対話、つまり強調された存在感と顕著な不在という均衡状態のなかで生み出されている。音楽を単純に図解したり、直接的に視覚的な要素に置き換えたりするのではなく、カセットテープやレコードなど、音楽が録音される素材そのものを用いてイメージをつくり出す。そうした素材が持つ物質性、質感、色を存分に活かしつつ、音楽自体を暗示する要素を溶け込ませることもある」(展覧会ウェブサイトより)。