2026.9.28

「川内理香子 LOVE, Wild Grape, Tiger, heart」(大田区立龍子記念館)開幕レポート。絵画のなかに線と身体の交歓を見る

東京・大森の大田区立龍子記念館で、高橋龍太郎コレクション連携企画「川端龍子プラスワン」の前期展「川内理香子 LOVE, Wild Grape, Tiger, heart」が開幕した。会期は11月8日まで。会場の様子をレポートする。

文・撮影=安原真広(編集部)

左から川内理香子《The tiger jumps over a dancing pretzel》(2024)キャンバスに油彩 181.8×227.3cm、川端龍子《秋縁》(1947)紙本彩色・額 249.0×146.5cm、 川内理香子《limb limb》(2018)パネルに針金、アクリルボックス 140×110×15cm
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 東京・大森の大田区立龍子記念館で、高橋龍太郎コレクション連携企画「川端龍子プラスワン」の前期展「川内理香子 LOVE, Wild Grape, Tiger, heart」が開幕した。会期は11月8日まで。担当は同館学芸員の木村拓也と青木愛未。

 龍子記念館では2021年以降、アートコレクターとして知られる精神科医・高橋龍太郎のコレクションと連携した展覧会企画を行ってきた。今回の「川端龍子プラスワン」は高橋のコレクションと日本画家・川端龍子(1885〜1966)の作品をともに紹介することで、龍子の作品をとらえ直そうという試みだ。

川内理香子《heart》(2018)キャンバスに油彩 36×26.5cm

 龍子記念館では2021年以降、高橋龍太郎コレクションとのコラボレーション企画を継続してきた。今回は前期に川内理香子、後期に近藤亜樹を迎え、それぞれの作品と龍子の作品との対話を通じて、まもなく没後60年を迎える龍子の表現を再解釈する。

 川内理香子は1990年東京生まれ。2015年多摩美術大学美術学部絵画学科油画専攻卒業、2017年同大学大学院美術学部絵画学科油画専攻修了。食や神話を起点に身体、生命、他者性といったテーマを表現してきた。

川内理香子と川端龍子、交錯する互いの絵画

 展示室に入ると、まずは川内の油彩画《LOVE》(2024)が目に入る。赤や紫、白の絵具で描かれたハート型の厚塗りに、植物や身体、文字などが絵具を削り取るようにドローイングされている。赤紫の壁紙と暗がりから浮かび上がるような照明によって、川内が身体性をともないながら平面へ向き合う作家であることを来館者に強い印象をもって伝える作品といえるだろう。

川内理香子《LOVE》(2024)。暗い展示室のなかで作品が浮かび上がるように照明が演出されていた
川内理香子《Baby》(2022)キャンバスに水彩 299×140.9cm。約3メートルの迫力ある紙に水彩と鉛筆のみで強度を持った画面をつくり出している

 続いて展示されている川内の《Baby》(2022)は、高さ約3メートルにもなる巨大な紙に、水彩と鉛筆を組み合わせ、手や乳房、性器、頭部といった身体の部位を思わせるかたちがドローイングされている。しなやかな線描と、水彩のにじみをいかした彩色によって、少ない要素で巨大な画面に負けない強度を成立させており、川内の作品において重要な要素であるドローイングの魅力を感じることができる作品だ。

左から川端龍子《虎の間》(1947)245.4×727.2cm、《水牛》(1961)81×100cm ともに紙本彩色・額

 続いて《水牛》(1961)、《虎の間》(1947)、《獺祭》(1949)、《賭博者》(1923)と、川端龍子の日本画が並ぶ。いずれも緑青の鮮やかな発色が目を引く植物の描写が印象的な作品で、川内の植物描写と対比しながら見ると興味深い。また、龍子が南洋(1934)や中国(1937~40)で描いたスケッチが並ぶガラスケースがあり、その背後の壁面には川内のドローイングが並んでいる。それぞれが対象をどのように線によって写し取ろうとしていたのかを比べることができる。

左から川内理香子《The tiger jumps over a dancing pretzel》(2024)キャンバスに油彩 181.8×227.3cm、川端龍子《山葡萄》(1933)絹本彩色・額 174×220cm
ガラスケースの中が川端龍子の南洋でのスケッチ、壁面が川内理香子のドローイング作品

 また、豹が描かれた《Forest of the night》(2019)や虎がモチーフとなっている《The tiger jumps over a dancing pretzel》(2024)といった川内の油彩画と、龍子の《秋縁》(1947)を比較することで、それぞれの動物描写の違いを汲み取ることもできるだろう。また、龍子には珍しい裸婦を描いた《山葡萄》(1933)の身体を表現する描線には、川内と共通するものが見て取れる。

右の下駄箱の上に展示されているのが川内理香子《Strata》(2025)石 26×19×3cm
川内理香子《touch of volume》(2021)ネオン管、鉄製の額 78×340×29cm

旧川端龍子邸やアトリエでも作品を展示

 さらに本展では龍子記念館に隣接する龍子公園にある旧川端龍子邸(1951年築)とアトリエ(1938年築)にも川内の作品を展示している。邸宅の玄関に置かれた《Strata》(2025)は、川内が近年取り組んでいる石彫作品、和室の壁に設置された《touch of volume》(2021)はネオン管を使用した作品だ。いずれもドローイングという川内の興味は、バリエーション豊かなメディウムに結実していると感じられる作品だ。邸宅に展示されることで、作品が住空間とどのような関係を取り持つのか、という点も本展示の魅力だろう。蒐集した作品を飾るという行為が、高橋のコレクションを借りながらここで行われている。

川端龍子のアトリエの外観。内部は事前に予約することで見学が可能
川端龍子のアトリエの展示風景、左奥壁の作品が川内理香子《queen of heart》(2024)キャンバスに油彩 162×130.3cm

 アトリエには、龍子が使用していた机や椅子、絵筆が展示され、休憩に使っていた小部屋などもそのまま残っている。ここでも油彩や石彫、ネオンなどの作品が、龍子が作品を描いていたときと同様の、豊かな自然光を浴びて展示室とは異なる表情を見せている。なお、邸宅とアトリエは開館日の10時、11時、14時からの公園案内で外周から見ることができるほか、事前予約制でアトリエ内に入って作品を鑑賞することもできる。こ

 川内と龍子の作品を往還することで、様々な発見とともに「線」や「身体」といった共通するおもしろさを感じることができる展覧会となっている。