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2026.5.27

見どころは「見える収蔵庫」。前川國男建築の宮城県美術館、26年6月にリニューアルオープン

1981年の開館以来、地域の美術発信の拠点として親しまれてきた宮城県美術館。施設の老朽化や、美術館に求められる役割の多様化を背景に進められていた大規模な改修工事が完了し、リニューアルオープンを迎える。

文・撮影=橋爪勇介(編集部)

新設された「見える収蔵庫」
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市民と専門家が守った前川國男の名建築

 老朽化対策工事や設備の新設を経て、宮城県美術館が2026年6月20日に待望の再開館を果たす。今回のリニューアルで目指されたのは、「記憶に残る」「また訪れたくなる」「常に新しい発見のある」美術館。だが、このリニューアルたどり着くまでには、美術館の存在意義や建築の保存をめぐる大きな議論の経緯があった。

リニューアルオープンを迎える宮城県美術館

 同館をめぐっては、2018年に一度「宮城県美術館リニューアル基本方針」が策定され、現在の改修案に近い具体的な内容が発表されていた。しかし翌2019年11月、事態は急展開を迎える。宮城県は、建て替えを検討中だった宮城県民会館の新建設予定地(旧仙台医療センター跡地)へ同館を移転・集約するという方針を固めたのだ。

 これに対し、近代建築の巨匠・前川國男が設計したモダニズム建築としての価値、そして長年培われてきた文教地区での歴史や環境を守ろうと、多くの反対の声が上がった。市民団体「宮城県美術館の現地存続を求める県民ネットワーク」が立ち上がったほか、建築界や大学の研究者らも連帯して現地存続を要望。この大きな反対のうねりを受け、2020年11月、当時の村井嘉浩宮城県知事は移転案を断念し、当初の計画通り「現在地での存続・現地改修」を行う方針を示した。多くの人々の声によって守られた空間が、いよいよ26年夏、新たな姿を現す。

 「子どもたちの豊かな体験を創出する」「人々が憩い、くつろぎ、集い、つながる」「国内外の人々が魅了される」「ともに築きあう」という4つの改修コンセプトのもと、ハード・ソフトの両面から大胆なアップデートが施された「新生・宮城県美術館」の主な見どころを紹介する。

回廊が特徴的な宮城県美術館

バックヤードをオープンに。作品の息づかいを感じる

 今回のリニューアルの目玉のひとつが、新たに誕生する「見える収蔵庫」だ。

 美術館の重要な役割である「作品の収集・保存」の舞台裏は、通常であれば一般の来館者が立ち入ることはできない。しかし今回の改修により、開館中であれば誰でもいつでも無料で、作品が保管されている様子をガラス越しに見学できるようになる。

「見える収蔵庫」は誰でも無料で鑑賞できる

 安全な環境が徹底管理された50平米の収蔵庫内には、専用の絵画ラックに約80点の作品(主に洲之内コレクション)が掛けられており、その様子は壮観だ。普段は見ることのできない美術館の「裏側」に触れることで、特別な臨場感や知的好奇心を味わうことができる。さらに、この部屋を活用した、見える収蔵庫の中に入って行う新しいプログラムの実施も予定されている。

 多くの美術館が収蔵庫の逼迫という課題を抱えるいま、収蔵と展示を両立させ、誰もが無料で見られる宮城県美術館のこの試みは全国的に見ても珍しい。美術館の本質的な役割を可視化させることは、社会に対して美術館をより開くことであり、その重要性をアピールすることにつながるだろう。

感性と想像力を育む「キッズスタジオ」の拡充

 子供たちの豊かな体験を創出する場として、「キッズスタジオ」が新設された。

新設された「キッズスタジオ」

 ここでは、鑑賞や素材に触れる遊び、造形活動など、美術体験へと誘う様々なプログラムが展開される。子供たちが絵を描いたり、多様な材料を組み合わせたりして自発的に創作体験ができる空間だ。

 スタジオ内には、未就学児を対象に、物語や昔話、図鑑や創作系などの絵本約850冊を配架し、自由に読むことができる「えほんのへや」も併設。特定のプログラムが開催されていない日は無料で開放される。

 今後は、「チャレンジ・キッズ・プログラム」(月1回程度)、「ミュージアム探検」(月1回程度)、「キッズ・ワークショップ」(年1回程度)など、美術館主催の定期プログラムも実施される予定だ。

北庭を望み、アートと出会う「アート・ラウンジ」

 展示室とその他の部屋をつなぐ、北庭が眺められる場所には「アート・ラウンジ」が新設された。もとは図書室だったこの場所が、来館者が自由に滞在し、美術館の心地よい雰囲気を楽しみながらゆったりと寛げるスペースとなっている。

外光が入る「アート・ラウンジ」

 ラウンジ内にはデジタル端末が活用されており、所蔵作品の高精細画像での鑑賞や、所蔵作品データの検索が可能。美術雑誌なども配架され、気軽にアートの深い情報にアクセスできる。

 美術と美術館に関わる多様な情報に触れながら、人々が憩い、集い、つながる、新しいコミュニティの場としての活躍が期待される。

快適性を追求した細やかなアップデート

 来館者の利便性と鑑賞環境の質を向上させるため、館内全体にわたって細やかな意匠変更や新サービスの導入が行われた。

絵本原画等を収蔵展示する「展示室5」
低反射合わせガラスを用いた壁面展示ケースを備えた「展示室6」

 展示室では、絵本原画等を収蔵展示する「展示室5」と、低反射合わせガラスを用いた壁面展示ケースを備えた「展示室6」が地下1階に新設。より質の高い鑑賞体験を提供する。

真新しい「県民ギャラリー」

 また個人やグループの展示会に対応する「県民ギャラリー」が、来館者の利便性向上のため、従来の地階から正面入口近くへと移設された。

 そのほか、アクセシビリティの観点では、本館常用エレベーターの向きを変更し、視認性を向上。また、エレベーターの隣には、地階へと続く美しい「らせん階段」が新設されている。加えてスマートフォンなどで所蔵作品の解説や画像などを無料で閲覧できるアプリサービス「ポケット学芸員」を新たに導入するなど、サービス面の向上も図られている。

 前川國男が設計に込めた「開かれた美術館」という精神、そしてそれを受け継ぎ守ろうとした市民の記憶。それらを大切に残しながらも、現代、そして未来のミュージアムに求められるオープンさと優しさを備えて生まれ変わる宮城県美術館。夏の再開館の日を心待ちにしたい。