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2026.4.25

「若冲にトリハダ! 野菜もウリ!」展(福田美術館)開幕レポート。《果蔬図巻》と《菜蟲譜》が初の並置展示

2023年にヨーロッパで発見された伊藤若冲《果蔬図巻》と、その翌年に制作された重要文化財《菜蟲譜》。この2作品を初めて並べて紹介する展覧会「若冲にトリハダ!野菜もウリ!」が、京都・福田美術館で開幕した。

文・撮影=王崇橋(編集部)

伊藤若冲《果蔬図巻》(1790以前)の展示風景
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 京都・嵐山の福田美術館で、企画展「若冲にトリハダ!野菜もウリ!」が開幕した。

 本展は、2023年にヨーロッパで存在が確認された伊藤若冲《果蔬図巻》(1790以前)と、その翌年に制作された重要文化財《菜蟲譜》(1791以前)を初めて並置することを軸に、新出作品を含む約40点の若冲作品を紹介するものだ。初公開作品はあわせて12点にのぼる。

 会場は1階と2階に分かれ、1階のギャラリー1では若冲の初期から中期にかけての作品群が並ぶ。なかでも注目されるのが、初公開となる《老松白鶴図》と《蛇図》(いずれも18世紀)だ。2025年に新たに収蔵された《老松白鶴図》は、若冲が40代頃に制作した作品と考えられ、胡粉を用いてレース状に描かれた羽毛表現が際立つ。緻密な描写は、その後の代表作《動植綵絵》へと連なる表現の萌芽を示しており、若冲の技法的展開を読み解くうえでも重要な位置を占める。

《老松白鶴図》(18世紀)の展示風景

 いっぽう、《蛇図》では、墨の滲みを活かした「筋目描き」による鱗の表現と、極度に単純化された顔貌との対比が際立つ。精緻と省略という相反する要素を一画面に同居させるその手法について、同館学芸課長の岡田秀之は「現代美術にも通じるような表現」と指摘する。

左は《蛇図》(18世紀)。墨の滲みを活かした「筋目描き」による鱗の表現などが特徴

《果蔬図巻》と《菜蟲譜》の初並置

 本展の中核を成すのは、2階のギャラリー2で展開される《果蔬図巻》と《菜蟲譜》の比較展示だ。《果蔬図巻》は約3メートルの絹本に約50種の果物と野菜が描かれた作品で、長らく所在不明とされてきた。2023年にベルギーで発見され、約1年間におよぶ修復を経て本展で公開されている。巻物の末尾には、相国寺の僧侶・梅荘顕常(ばいそうけんじょう/大典)による跋文(ばつぶん)も添えられた。

《果蔬図巻》(1790以前)。約3メートルの絹本に約50種の果物と野菜が描かれている

 いっぽう、栃木の佐野市立吉澤記念美術館に収蔵されている《菜蟲譜》は全長約10メートルにおよぶ大作で、野菜や果物に加え、昆虫や蝶、爬虫類など約160種が描かれている重要文化財だ。同作が関西で公開されるのは2018年以来、約8年ぶりとなる。

《菜蟲譜》(1791以前、部分)。野菜や果物に加え、昆虫や蝶、爬虫類など約160種が描かれている
《菜蟲譜》(1791以前、部分)
《菜蟲譜》(1791以前、部分)。後半に描かれた昆虫や蝶、爬虫類など

 両作品はこれまで個別に語られることが多かったが、本展では初めて並置され、構成やモチーフ、技法の差異を比較しながら鑑賞することが可能となった。岡田によれば、《果蔬図巻》にはレンコンを除き根菜類やキノコ類がほとんど見られないのに対し、《菜蟲譜》では山芋などの根菜や菌類が加えられ、さらに後半には昆虫が描かれるなど、主題が大きく拡張されている。すなわち《菜蟲譜》は、《果蔬図巻》を基盤としつつ内容を発展させた作品であり、両者は「姉妹作」とも呼びうる関係にある。

《果蔬図巻》(1790以前、部分)。レンコンを除き根菜類やキノコ類がほとんど見られない
《菜蟲譜》(1791以前、部分)。後半に描かれた昆虫など

 また、《菜蟲譜》は文化財保護の観点から通期展示ではなく、前期冒頭(4月25日~5月8日)と後期終盤(6月20日~7月5日)の限られた期間にのみ公開される。そのため、《果蔬図巻》と同時に鑑賞できる機会は極めて限られており、本展の大きな見どころとなっている。

 その中間期間(5月9日~6月19日)には、近年その存在が確認された、野菜や果物によって涅槃図を構成した《果蔬涅槃図》(1792以前)が展示されるなど、展示替えを通じて若冲の晩年の多様な試みも紹介される。

若冲と同時代の画家たち

 さらに本展では、同館が所蔵する与謝蕪村、円山応挙長沢芦雪など、若冲と同時代に京都で活躍した画家たちの作品も紹介される。2階のギャラリー3では、応挙の《群犬図》(1773)に見られる写実性や、芦雪による動物表現に代表される奔放な筆致など、多様な絵画表現が並置されることで、若冲の特異性がより立体的に浮かび上がる構成となっている。

ギャラリー3の展示風景。右は円山応挙《群犬図》(1773)

 《果蔬図巻》と《菜蟲譜》という2つの大作が並ぶ本展は、若冲芸術の核心に迫ると同時に、その制作のプロセスや思考の変遷を可視化する貴重な機会となっている。若冲の世界をあらためて見つめ直す場として、またとない展覧会といえるだろう。

ギャラリー1の展示風景。30代から《動植綵絵》を制作する前の40代初めに描かれた作品も並ぶ
ギャラリー2の展示風景。左は伊藤若冲《鶏図押絵貼屏風》(1795以前、右隻)