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2026.4.14

特別展「百万石!加賀前田家」(東京国立博物館)開幕レポート。甲冑から刀剣、ルノワールまで、約60年ぶりに東京で公開される至宝の数々

東京国立博物館 平成館で、前田育徳会創立100周年を記念する特別展「百万石!加賀前田家」が開幕した。会期は6月7日まで。

文・撮影=橋爪勇介(編集部)

展示の冒頭を飾る《金小札白糸素懸威胴丸具足》(16世紀)
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 上野にある東京国立博物館 平成館で、前田育徳会創立100周年を記念する特別展「百万石!加賀前田家」が開幕した。会期は6月7日まで。

 加賀前田家は、初代・前田利家が北陸に領地を得て以来、金沢を本拠に、江戸時代を通じて加賀・越中・能登の三国、百万石以上の規模を誇る大名家として領国を統治。16代・利為は、1926年に育徳財団(現在の前田育徳会)を設立するなど、現在に至るまで文化芸術の支援を続ける名門だ

 本展は、その前田育徳会の創立百周年を記念し、加賀前田家歴代当主の事績を振り返るとともに、文化事業や旧蔵品を含めた「加賀前田家伝来」文化財の全貌を紹介。東京での大規模公開は約60年ぶりとなる。

 展示は、戦国期に活躍した初代・前田利家から近代の侯爵前田家に至るまでの系譜を軸に構成。圧倒的な財力を背景に花開いた加賀文化の全貌を、「武」と「美」「知」の三層から浮かび上がらせる内容となっている。

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第1章 加賀前田家歴代

 加賀前田家は、江戸時代、最大規模の石高を誇る大名家として、徳川一門との関係を重視しつつ領国統治に努め、14代にわたり家名を繋いた。本章では、前田家の歴史と血脈を、歴代当主ゆかりの武具や肖像、工芸品を通してたどる。

展示の冒頭を飾る「金小札白糸素懸威胴丸具足」

 なかでも注目は、初代・前田利家が所用したと伝わる《金小札白糸素懸威胴丸具足》(16世紀)。金箔押と白糸威で装飾された華やかな甲冑は、戦国武将としての威厳と美意識を象徴する一点だ。

修復後の初公開となった陣羽織

 利家着用とされる陣羽織は、背面に鍾馗、前面に菊花が立体的に表現されており、今回が修理後初公開。このほかにも歴代当主たちが身につけた甲冑や陣羽織が一堂に展覧。武家としての出自と権威を強く印象づける導入部となっている。

第1章展示風景より、歴代当主の甲冑
第1章展示風景より、鮮やかな陣羽織の数々

第2章 百万石の文化大名

 江戸時代に入り、前田家は「文化大名」としての側面を強める。本章は、その文化的営為に焦点を当てるもの。3代・利常以降、京都から職人を招いて整備された「御細工所(おさいくしょ)」による工芸制作や、5代・綱紀の時代に頂点を迎える蒐集活動が紹介される。

《荏柄天神縁起》(1319)

 例えば重要文化財の絵巻《荏柄天神縁起》(1319)は綱紀の頃に所蔵されたもの。天神として広く信仰を集めた菅原道真の生涯と、北野天満宮(現京都市)の由来などを描いた絵巻だ。

 また、《古今和歌集(清輔本)》《十五番歌合》《十巻本歌合》《金沢万葉集》などの会場に並ぶ多数の国宝は、積極的な書画蒐集の営みをいまに伝える。

源氏物語に登場する歌を主題とする歌絵の扇面を散らした、重要文化財の《扇流蒔絵手箱》(16世紀)
重要文化財のニカシウス・アエルツ《アエネアス物語図毛綴壁掛》(16〜17世紀)

 なお、本章では16〜17世紀にベルギーで制作されたタペストリー《アエネアス物語図毛綴壁掛》といった舶来美術も展示。古筆とともにこのようなタペストリーを展示することで、前田家の蒐集方針の幅広さ、奥深さを示している。

第3章 加賀前田家の武と茶の湯

 前田家の美意識を象徴するのが、刀剣と茶道具だ。刀剣はその贈答で主従関係が結ばれる、いわば権力の象徴。そのため、前田家は名刀のコレクションに注力したという。

刀剣が並ぶ展示室
国宝《太刀 銘 光世(名物大典太)》(12世紀)

 本章では「名物」と称される名品群が集結。なかでも白眉が、「天下五剣」のひとつに数えられる国宝《太刀 銘 光世作(名物大典太)》(12世紀)だろう。本作は数ある加賀前田家の刀剣のなかでも「最高峰」とされるもの。足利将軍家の伝来品で、豊臣秀吉から前田利家が譲り受けたという由緒が刀剣鑑定の権威・本阿弥家がまとめた『享保名物帳』に記されているという。作者の光世は筑後国三池(福岡県大牟田市)の名工。現存作はわずかで、本品はその最高傑作とされている。

重要文化財の《短刀 銘 吉光(名物 前田藤四郎)》(13世紀)

 重要文化財の《短刀 銘 吉光(名物 前田藤四郎)》(13世紀)も注目の名刀だ。作者の吉光は京・粟田口派の名工で、通称・藤四郎。短刀を得意とした。本品はその代表作のひとつで、青黒い精美な地鉄と白く冴えた直刃の刃文が見所だ。

 3章後半は茶道具が数多く並ぶ。茶道具も刀剣と同じように、名物を所持することは文化的な階層の高さを示すものだった。

重要文化財《大名物 唐物茄子茶入 銘 富士》(13世紀)と千利休が手がけた茶杓

 その象徴となるのが、重要文化財《大名物 唐物茄子茶入 銘 富士》(13世紀)だ。茄子のような丸みのある形状は、室町時代に最高の格とされた。本作は室町将軍家や織田信長、豊臣秀吉らが所有し、前田利家へと下賜された由来をもつ。

第4章 天下の書府

 4章は「天下の書府」と称された前田家の蔵書文化に焦点を当てるもの。歴代当主、とりわけ綱紀による古典籍蒐集は質量ともに突出している。この章にも《日本書紀》《秘府略》《北山抄》《東寺百合文書》などの国宝が並ぶが、それ以上に注目したいのが、綱紀が自ら整理分類し、命名した工芸標本《百工比照(ひゃっこうひしょう)》(17〜18世紀)だ。

展示風景より、《百工比照》(17〜18世紀)
第一号箱に収められた「金色之類 第二重」

 加賀前田家を代表する一大文化事業ともいえる《百工比照》は全10箱からなるもので、当時の工芸水準や室内装飾の様相など多彩な情報を伝える。

 例えば第一号箱は紙、金工、漆工、染織などの技術の見本帳。第三号箱は3代・利常時代の引手金具等を保存。第五〜十号箱は中核をなすもので、実物資料が集積しており、優美な意匠と緻密な金工技術が凝縮されている。

 この《百工比照》からは、前田家がたんなる収集にとどまらず、美と技の体系化も志向してきたことが浮かび上がる。

第三号箱の中身
第五号箱の中身

第5章 侯爵前田家のコレクション

 終章となる第5章は、近代以降、侯爵家となった前田家の活動とコレクション形成を扱う。分家から前田家を引き継いだ16代・利為は5代・綱紀の偉業にならい、美術工芸品の蒐集や伝来品の整理に努め、前田家伝来品を確実に後世へ存続させるべく、大正15年(1926)に育徳財団(現在の前田育徳会)を創立した。

中央がフェルディナン・ウンベールが描いた前田利為の肖像画
中央のケースにあるのがフランソワ・ポンポンの《シロクマ》と《バン》(ともに1930)

 本章では、いまも駒場にある洋館・旧前田家本邸を飾った美術品群や、西洋美術の受容が紹介され、近代以降の美意識の変容を示している。例えばフランソワ・ポンポンの《シロクマ》(1930)は、旧前田家本邸の洋館1階にある大客室の窓際に飾られた。

展示風景より、ピエール=オーギュスト・ルノワールの《アネモネ》(19〜20世紀)
展示風景より、ラファエル・コラン《庭の隅》(1895)
展示風景より、コナン・ドイル、ナイチンゲール、ルイ十四世の書簡

 このほか、パリの画商からポール・ゴーガン《パラウ・パラウ)とともに購入したピエール=オーギュスト・ルノワールの《アネモネ》(19〜20世紀)や、美術商・林忠正の遺族から購入したラファエル・コラン《庭の隅》(1895)などの美術品のみならず、コナン・ドイルやルイ14世、ナイチンゲールとの書簡など貴重な品々が並ぶ。

 なお最後の展示室を飾る壁は、旧前田家本邸の大客室の壁紙を復元したもの。1940年頃に撮影されたモノクロ写真をもとに、AIによるカラー色彩復元を行い、壁紙の再現が実現したという。

 本展の報道内覧会に登壇した前田家19代当主・前田利宣は会場を振り返り、「(出品されてるものは)ほぼ初めて見たものばかりだ」と驚きの声をあげた。刀剣、甲冑、茶道具、書画、工芸、さらには西洋由来の美術品まで、きわめて多彩な文化資産が一堂に会する本展。あらためて、歴代当主が果たしてきた事績と、文化事業としての役割に目を凝らしてほしい。