2026.3.9

「能登とartists 能登とともにある、アーティストの思考と行動」(そごう美術館)開幕レポート。アーティストと見つめる能登の現在とこれから

神奈川・横浜にあるそごう美術館で、「能登とartists 能登とともにある、アーティストの思考と行動」が開幕した。会期は4月2日まで。会場の様子をレポートする。

文・撮影=三澤麦(編集部)

金沢美術工芸大学アートプロジェクトチーム[スズプロ]による《奥能登曼荼羅》(2017〜)
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 神奈川・横浜にあるそごう美術館で、展覧会「能登とartists 能登とともにある、アーティストの思考と行動」が開幕した。会期は4月2日まで。担当はゲストキュレーターの高橋律子。

 2024年1月1日の能登半島地震から2年。復興が道半ばにあるなか、能登に想いを寄せる人々が現地を訪れ、新たな関係を結び直す動きが続いている。本展に参加するのは、石川県を拠点とする10組に、石川出身で現在は県外を拠点とする前本彰子を加えた計11組。長年能登で活動してきた作家や、自身も被災し自宅を失った作家など、当事者としての眼差しを持つ表現者たちが名を連ねる。

 展示は「揺れる」「芽吹く」「重ねる」「変わる」「祈る」「歩む」という6つのキーワードで構成。震災という断絶を起点としつつ、それ以前から続く日常や、震災後も積み重なる時間の層を可視化する試みとなっている。

 開幕に際し、高橋は「自身も金沢で地震を経験し、(被害のために何ができないかと)いても立ってもいられない思いだった。この状況下でのアートの役割を問いながら、一年かけて準備を進めてきた。それぞれのやり方で能登に寄り添うアーティストの声に、ぜひ耳を傾けてほしい」と言葉を寄せた。

あの日を忘れず、再び立ち上がるために

 冒頭の「揺れる」セクションでは、髙橋稜(2002〜)の染色作品が来場者を迎える。機織り技法を用いて制作された7つのタペストリー《What Happy Days!!!》(2024)には、髙橋が過ごしてきた時間の流れが反映されている。所々には自身の日常が羊毛フェルトで記録されており、工業としての機織りの先に豊かなアイデンティティが宿る。

 《What Happy Days!!!》の向かいには緊急地震速報のテレビ画面を模した刺繍作品《あの日みたもの》(2024)を配置。日常の暮らしを突如襲った震災の恐ろしさを伝え、被災の事実を忘れないという強い意志を感じさせる。

髙橋稜による7つのタペストリー《What Happy Days!!!》(2024)と、テレビ画面の作品《あの日みたもの》(2024)
髙橋稜《What Happy Days!!!》(部分、2024)。縦糸と横糸の色はそのままに、1マスごとに織り方を変えることで、色面の変化や立体感を生み出している

 続く「芽吹く」では、高橋治希(1971〜)の陶磁器作品《伏流水の庭》(2023)が暗闇に浮かび上がる。輪島市黒島地区の被災後に流れ込んだ真水から、新たな植物が芽吹く様子を表現した本作は、繊細さゆえに、人のいのちや営みの儚さを強く想起させる。

高橋治希《伏流水の庭ー能登・黒島地区 海岸隆起の雨ー》(2026)
高橋治希《伏流水の庭ー能登・黒島地区 海岸隆起の雨ー》(部分、2026)

時間の蓄積を可視化し、未来へとつなぐ

 「重ねる」をキーワードに展示を行うのは、金沢美術工芸大学アートプロジェクトチーム[スズプロ]だ。2017年の奥能登国際芸術祭にて発表された《奥能登曼荼羅》は、たんなる「被災地」としての側面だけでなく、能登に根ざした豊かな文化の広がりを提示する。

金沢美術工芸大学アートプロジェクトチーム[スズプロ]による《奥能登曼荼羅》(2017〜)。2024年の地震で作品も被災し、現在はプロジェクトの展開とともにこの曼荼羅の修復も進められている

 「変わる」セクションでは、4人の作家が変容する現実と向き合う。山本基(1966〜)は、奥能登国際芸術祭で発表したものの、震災で倒壊した塩のインスタレーション《記憶への回廊》(2021)を起点に、被災した能登瓦などを用いた新作へとプロジェクトを展開させた。記憶のなかの能登の心象風景をコラージュのように描き出す画家・眞壁陸二(1971〜)は、本展のための新作も披露している。

山本基の作品群
眞壁陸二による作品群

 「古着」をモチーフとした粘土彫刻を手がける山本優美(1983〜)は、震災の影響で損壊した作品をあえてそのままの姿で展示。人智を超えた力の痕跡を、身体的なリアリティとして提示している。

 また、写真家の石川幸史(1978〜)は、海側からの視点で能登を捉え直した。隆起した海岸や波の循環など、陸地からは見えない自然の圧倒的な力を突きつける。

山本優美による「わたしのひふはおもたい」シリーズ。奥に見えるのは震災の被害を受けた作品。当時の状態を再現し展示している
石川幸史による「汀の光、時の轍 能登」シリーズ(2025)

人々や土地への祈りを捧げ、また歩き出す

 石川県出身で現在は県外で活動をする前本彰子(1957〜)は、「祈る」というキーワードを象徴するようなアーティストだ。震災直後に制作された「宝珠神棚」シリーズの《青の天使》(2024)には、故郷への切実な祈りが込められている。

 また、復興ソング「HOME〜Grace for All〜」を核とした金沢21世紀歌劇団による記録映像と舞台美術は、音楽と演劇が人々の心をつなぐ過程を伝えている。

前本彰子による「宝珠神棚」シリーズ。中央は震災の直後に制作された《青の天使》(2024)
金沢21世紀歌劇団+VOX OF JOYによる「HOME〜Grace for All〜」記録映像と舞台美術。上映時間は75分で、会期中は1日7回上映されている

 最後のキーワード「歩む」では、珠洲市を拠点に活動するアーティストユニット「仮()-karikakko-」(新谷健太、楓大海 / ともに1991〜)のプロジェクトを紹介している。2人が活動の場とするのは、市内の銭湯「海浜あみだ湯」であり、現在この銭湯の湯を沸かす燃料には、地震で倒壊した家屋の廃材が使われている。2人はこの行為を街の「仮葬(弔い)」と位置づけ、失われた風景を弔いながら、同時にいまを生きる人々の憩いの場を守り続けている。

仮()-karikakko-による展示の様子。会場ではあみだ湯での生活や珠洲市の復興にまつわるストーリーが写真やインスタレーションなどを通じて伝えられる
仮()-karikakko-《災害ごみ仮置き場》(2025)

 展覧会を締めくくるのは、モンデンエミコ(1979〜)による「刺繍日記」だ。自身の娘が生まれた2016年から綴られるこの記録には、震災という非常事態も日常の断片として縫い込まれている。ひとりの表現者の眼差しを通じて、災害と暮らしが地続きであること、そして困難のなかでも続いていく日々の尊さを、改めて胸に刻むことができる。

モンデンエミコによる「刺繍日記」(2016〜2026)

 本展では、震災を悲劇として完結させるのではなく、震災という経験に向き合いながら、いまも進行しているアーティストたちの思考や対話に焦点を当てている。能登に息づく豊かな文化や、そこで育まれてきた人々の日常。彼らの眼差しが捉えたその姿は、報道とはまた異なるリアリティと体温を感じさせるものであった。