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2026.3.5

女性アーティストの国際的な認知向上を目指す。国際プログラム「Women to Watch」の連動展が表参道で開幕

ワシントンD.C.の国立女性美術館(National Museum of Women in the Arts、NMWA)が主催する展覧会シリーズ「Women to Watch」。その連動公式展「A Book Arts Revolution」が、東京・青山の表参道ヒルズで開幕した。会期は3月29日まで。

文・撮影=三澤麦(編集部)

「A Book Arts Revolution」の展示風景。ギャラリー入口に展示されるのは米田知子《見えるものと見えないもののあいだ 藤田嗣治の眼鏡―日本出国を助けたシャーマンGHQ民政官に送った電報を見る》(2015)
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 ワシントンD.C.の国立女性美術館(National Museum of Women in the Arts、以下NMWA)が主催する展覧会シリーズ「Women to Watch」。その連動公式展「A Book Arts Revolution」が、東京・青山の表参道ヒルズにあるAND COLLECTION Contemporary Artで開幕した。会期は3月29日まで。

 「Women to Watch」は、女性アーティストの国際的な可視化を目的に、世界各地のNMWA委員会と連携して2〜3年ごとに開催されているプログラムだ。前回(2024年展)は長谷川愛が日本代表としてグループ展に出展し、『ワシントン・ポスト』や『ザ・ガーディアン』など海外主要紙でも大きく取り上げられた。

 NMWA開館40周年を記念する2027年展のテーマは「A Book Arts Revolution」。同館が長年収集してきたブックアーツの今日的意義を再考する内容となる。今回の東京展には、日本から選出された5人の女性現代美術作家が参加しており、その選定は国立新美術館学芸課長の神谷幸江が務めた。会場では、入江早耶(1983〜)、風間サチコ(1972〜)、宮永愛子(1974〜)、村上華子(1984〜)、米田知子(1965〜)らがそれぞれ作品を展示している。

 NMWA日本委員会の代表理事を務める柏木式子は、本展の意義を次のように語る。「NMWA日本委員会は『日本の女性作家を世界へ発信』『国際ネットワークの拡大』『アートを通じたジェンダー平等、多様性の推進』をミッションとして掲げている。これらを軸に、Women to Watchへの参加やジェンダーサーベイなどをより推進していきたい」。

入江早耶の再生、風間サチコの社会、宮永愛子の時間──作品を通じて編み直される物語

 会場に並ぶ5人の作家の選定趣旨について、「活動拠点からライフステージまで、多様なバックグラウンドを持つ作家のなかから、『本』にまつわるテーマで制作される方々に参加いただいた」と神谷。続けて、「本とは人間と知識の密な体験を提供するものであり、他者を知るツールでもある。昨今、知らない他者に目を向けない風潮があるなかで、女性の立場だからこそ見えるものを追いかけることができれば」とそのねらいについても語った。

 今回の展示作家と作品をそれぞれ紹介したい。岡山県出身で広島を拠点に活動する入江早耶は、博物画に描かれた鳥の図を消しゴムで消し、その消しカスと樹脂粘土を用いて、その鳥の立体作品を制作している。学生時代より広島で制作を行っていたことから、作品にはレジリエンス(回復力)の文脈が通底していると入江は語る。また、実を食べて種子を運ぶ鳥に、新しい物事を生み出す象徴としての役割を見出している。

入江早耶《バードダスト(ハチドリ Ⅱ)》(2024)
入江早耶《インディアナバードダスト》(2024)

 東京都内にアトリエを構える風間サチコは、ダイナミックな木版画作品で知られる作家だ。直視しがたい社会的事象を捉え、書籍や絵葉書、インターネットの情報などから空想のストーリーを構築し、それに沿った絵づくりを行っている。

 今回は、東日本大震災の爪痕が残る東北にインスピレーションを受けた作品2点を出品。風間は本企画への参加に関し、「自分自身、ジェンダーの意識を強く持っているわけではなく、制作にあたってあえてイデオロギーを問わないようにしている。しかし、このポジティブな個人主義が認められていくことで、世界の平和につながれば」と語った。

手前から、風間サチコ《FLOW(袖の渡り/涙川)》(2023)、《FLOW(雄島/誰まつしまぞ)》

 京都を拠点に活動する宮永愛子は、潮の満ち引きを記録した「大潮の暦」を10年分以上をガラスに綴り、焼きしめた《Strata》(2018-19)を出品している。本のなかに閉じ込められた時間の経過と変化の痕跡。ミクロな世界に内包された大きなうねりを体感させる作品となっている。

宮永愛子《Strata》(2018-19)の展示風景

村上華子の再解釈、米田知子の視線──パリとロンドンから照射する「本」の役割

 写真の起源や古典技法を探究する村上華子は、パリを拠点に活動している。本企画への参加について村上は、「なぜいまだにこの活動が必要とされているのかを考えるきっかけになった。教育機関におけるロールモデルの不在や、美術館収蔵品の多くを男性作家の作品が占める現状など、パリでもジェンダーギャップ是正の動きを肌で感じている」と語っている。

 本展では、写真技術を完成させたルイ・ダゲールの著作を通じて「本」の要素を再解釈。会場のBGMに至るまで、多様なメディアを用いて「読む」という行為を捉え直している。

村上華子による展示の様子
村上の《Untitled (Notice)》(2022)は手に取って持ち帰ることが可能だ

 ロンドンで制作活動を行う米田知子は、20世紀を代表する人物たちが愛用した眼鏡を通じ、ゆかりのある書物や手紙をのぞき見る代表的シリーズ「見えるものと見えないもののあいだ」から3作品を出品している。米田自身、男性中心のカメラマン社会でハラスメントを目撃・経験したという。「NMWAの活動によって、アーティストが存分に活躍できる場が生まれれば」と期待を寄せる。

米田知子《見えるものと見えないもののあいだ マハトマ・ガンジーの眼鏡-『沈黙の日』の最後のノートを見る》(2015)

 3月8日の「国際女性デー」を前に開幕した本展。これを通じて、5人の作家による重層的な表現に触れるとともに、アート業界に根強く残るジェンダーギャップの現状と、それを是正する国際的な動きに目を向ける機会としてほしい。

 なお、本展終了後の2026年4月初旬には、出展作家5名のなかから日本代表として1名を選出。2027年にワシントンで開催される第8回「Women to Watch」に参加する予定となっている。