2026.2.21

「ARTISTS' FAIR KYOTO 2026」開幕レポート。アーティストと「直接」出会う、京都の熱狂

京都の早春を彩る恒例のイベントとなったアートフェア「ARTISTS' FAIR KYOTO(AFK)」が、今年も幕を開けた。

文=橋爪勇介(編集部)

メイン会場となった京都国立博物館の明治古都館 Photo by Kenryou Gu
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 京都の早春を彩る恒例のイベントとなった「ARTISTS' FAIR KYOTO」(以下、AFK)が、今年も幕を開けた。9回目を迎える2026年のコンセプトは、これまで同様「Art Singularity(アートシンギュラリティ)」。アーティスト自らが企画・運営の主体となり、作家に利益が100パーセント還元されるスキームをとる。通常のアートフェアとは異なる独自の路線は、回を重ねるごとに進化を遂げている。初回からディレクターを務めるのはアーティストで京都芸術大学教授の椿昇。

 このAFKでは、参加アーティストの支援を目的としたアワード「マイナビ ART AWARD」を実施。今年は審査員を一新し、神谷幸江(国立新美術館学芸課長)、牧口千夏(京都国立近代美術館主任学芸員)、山本浩貴(文化研究者・実践女子大学准教授)、そして椿が審査委員となり、最優秀賞(賞金100万円)に中西凛が選出。また優秀賞には、伊地知七絵、白籏花呼、高橋凛、リベッカ・ドローレンの4名が選ばれた。これらの作家を含む40組(+アドバイザリーボード)が集う各会場を紹介したい。

重要文化財に広がる「特異点」。拡大した明治古都館での新たな空間体験

 メイン会場となるのは、昨年同様、京都国立博物館の「明治古都館」だ。同館は、1897年に「帝国京都博物館」として開館したもので、宮内省内匠寮の技師・片山東熊設計による重厚な空間が大きな特徴。その内部に、ドットアーキテクツによる現代的な展示空間が広がる。また今回は展示室の使用エリアを拡大。通常は非公開となっている中央ホールから続く空間に、公募とアドバイザリーボードの推薦によって選ばれた40組の若手アーティストたち(*)の作品が並んでおり、見応えは十分だ。

明治古都館会場 Photo by Kenryou Gu

 会場に入ってまず圧倒されるのは、その「ライブ感」だろう。AFKの最大の特徴は、会場に作家本人が常駐していること。コレクターも、初めてアートに触れる観客も、作品の背景や制作のプロセスを作家から直接聞くことができる。昨今のマーケットの過熱とは一線を画した、アーティストと観客の熱を帯びた「対話」が、この重要文化財の中に満ちている。

会場風景より。左に見えるのは中西凛の作品群。洋菓子の材料を作品に用いる中西は、鳩と羊の彫刻を中心に展示を構成。日常的に見過ごされるグロテスクな循環を見事に表現した Photo by Kenryou Gu
会場風景より、白籏花呼の作品群。歴史的に長く描かれてきた「女性のポートレイト」というテーマを、自画像を一貫して利用することで更新する Photo by Kenryou Gu

 なお、同館敷地内にある茶室「堪庵」では、AFKから羽ばたいた画家・品川亮が「旅」をテーマに個展を開催。山水画の構図になぞらえて、様々な絵を配置しており、鑑賞者は旅をするように、茶室内のあちこちに配された墨絵を楽しむことができる。

薄暗い茶室の中で品川亮の作品と対峙する Photo by Kenryou Gu

*──参加アーティストは以下([]は推薦者)。會見明也[薄久保香]、綾野文麿[田村友一郎]、安藤項司[公募]、イケナナ[ロバート・プラット]、伊地知七絵[公募]、井上息吹[薄久保香]、彌永ゆり子[公募]、小笠原周[ヤノベケンジ]、岡田真由美[津田道子]、小林太郎[名和晃平]、酒井千明[加藤泉]、澤あも愛紅[公募]、品川美香[公募]、白石効栽[鬼頭健吾]、白簱花呼[池田光弘]、髙橋凜[田村友一郎]、チョ・ウニョン[公募]、辻大輝[笹岡由梨子]、椿野成身[大庭大介]、Thomas Pepito Vauthier(トマ・ペピト・ヴォティエ)[公募]、中田愛美里[大巻伸嗣]、ナガタダイスケ[鷹野隆大]、中西凜[Yotta]、中谷優希[公募]、成山亜衣[ミヤケマイ]、恥ヵ9↙まなか[椿昇]、長谷川翔[公募]、春田紗良[大庭大介]、広瀬里美[大巻伸嗣]、広田郁也[名和晃平]、堀江たくみ[津田道子]、真崎茜[ロバート・プラット]、松岡日菜子[公募]、松岡柚歩[鬼頭健吾]、見島澪佳[笹岡由梨子]、閔麗珊(ミン・リセン)[ミヤケマイ]、矢部もなみ[椿昇]、山下雅己[池田光弘]、Rebecca Drolen(リベッカ・ドローレン)[オサム・ジェームズ・中川]、Liliana Guzmán(リリアナ・グスマン)[オサム・ジェームズ・中川]。

東福寺へ拡張する「共鳴(Resonance)」

 もうひとつの主要会場である東福寺では、「AFK Resonance Exhibition」が開催されている(~3月1日)。

 国宝の三門や本堂、名勝・八相庭園で知られる方丈に加え、今回は竹林や紅葉の名所として知られる「通天橋」周辺の庭園にまで展示エリアが拡張された。ここではアドバイザリーボードと、過去にAFKを沸かせたアーティスト5組による特別展が展開されている。

 とくに注目すべきは、AFK2020参加作家・黒川岳による新作《竹鳴林》(2026)だ。展示の舞台となったのは、東福寺の敷地で何十年も放置されていた竹林。黒川はここに生えていた1000本を超える竹を切り、方丈にちなんだ櫓や壁を含む巨大なインスタレーションをつくりあげた。なお、本作は会期後も継続展示が検討されているという。

黒川岳による新作《竹鳴林》(2026)の一部 撮影=筆者
方丈前ではYottaとヤノベケンジの大作が共演 Photo by Kenryou Gu
展示風景より、手前から名和晃平《PixCell-Carp#9》(2025)、大庭大介《M》(2025) Photo by Kenryou Gu
展示風景より、手前はロバート・ブラッド《The Rambling Figure》(2026) Photo by Kenryou Gu

 方丈に隣接する大書院では、昨年のマイナビART AWARDで最優秀賞を受賞した本岡景太の展示が個展形式で開催。昨年のAFKでは「歪曲張り子」という独自技法の作品で注目を集めた本岡だが、今年はまったく異なる手法に挑戦。ビニールプールやマンガ、辞書をレファレンスした新作を数多く手がけた。絵画と彫刻の関係を独自の視点で問い直す試みに、さらなる注目が集まることだろう。 

展示風景より、本岡景太《IMMANENT FOLD(inflatable pool, large)》(2026) Photo by Mikoto Yamagami
展示風景より、本岡景太《IMMANENT FOLD(on the generation of sculpture)》(2026) Photo by Mikoto Yamagami

「アートを買う文化」を日常へ

 本フェアが掲げる目標は一貫している。それは、京都を起点に「アートを買う文化」を当たり前のものにすること。会場には、数万円で購入できる作品から、これからの成長が期待される意欲作まで、多種多様な「出会い」が用意されている。

 椿はこう語る。「『アート』という言葉はあちこちで聞くが、作家は大きな展覧会に選ばれたとしても、ご飯が食べていけないという課題が未だ残り続けている。日本経済が停滞する以前から、アーティストたちの経済状況は水面下だ。アートフェアはアーティストとコレクターのマッチングの場。ひとりでも多くの人にアートの楽しみを味わってもらい、アートの『当事者』になってもらいたい」。

 アーティストが主体となって道を切り拓き、強力な体制がそれを支える。「ARTISTS' FAIR KYOTO 2026」はたんなる作品販売の場ではなく、アーティストを中心としたエコシステムを担う貴重な場となっている。

明治古都館の会場風景 Photo by Kenryou Gu