2026.1.20

下呂市を舞台にした新たな国際芸術祭「下呂 Art Discovery 2026」が開催決定。その見どころとは?

今秋、岐阜県下呂市で新たな芸術祭「下呂 Art Discovery 2026」が開催される。豊かな森や古い町並み、木造校舎の廃校を舞台にした本芸術祭の見どころを紹介する。

文・撮影=大橋ひな子(ウェブ版「美術手帖」編集部)

アートフロントギャラリーで開催された「下呂 Art Discovery 2026」の記者会見の様子
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 今秋、岐阜県下呂市の市内各所を舞台に、新たな芸術祭「下呂 Art Discovery 2026」が開催される。本芸術祭に先立ち、東京・代官山にあるアートフロントギャラリーで企画発表会が行われた。

 下呂市の人口は約2万8000人。総面積の約9割が森林を占める自然豊かな地域で、日本三名泉のひとつである下呂温泉で知られる。いっぽうで、過疎高齢化が課題となっており、下呂市全体の活性化が望まれている状況でもある。そんななか、2024年秋に、日本国内のアーティスト21組による現代アートとパフォーミングアーツ、岐阜の伝統産業や食を紹介するマルシェ「楽市楽座」からなる、清流の国文化探訪「南飛騨 Art Discovery」が開催された。同イベントの成功を受け、今回新たに市内の各エリアに会場を拡大し開催されるのが、「下呂 Art Discovery 2026」である。

 総合ディレクターを務めるのは、「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」「瀬戸内国際芸術祭」などで総合ディレクターを務めてきた北川フラム。北川は岐阜という土地を、日本の歴史上重要な戦いの場であった歴史的背景や、日本列島における中心部といった地理的背景をもとに、「日本最深部」と呼称する。そんな日本最深部の国際芸術祭となる本芸術祭には、11の国と地域から40〜50組ほどのアーティストが参加予定だ。現在決定している20組は次の通り。

 EAT & ART TARO、スタシス・エイドリゲヴィチウス、遠藤利克、鬼太鼓座、坂田桃歌、鈴木初音、竹腰耕平、竹中美幸、トゥ・ウェイチェン、バルトロメイ・トグオ、トザキケイコ、西澤利高、橋本雅也、原倫太郎+原游、マッシモ・バルトリーニ、パンクロック・スゥラップ、ムニール・ファトゥミ、マデリン・フリン+ティム・ハンフリー、村上力、弓指寛治

 会場は大きく3つのエリアから構成される。飛騨川沿いの温泉街の街並みや合掌村がある「下呂エリア」、自然豊かな南飛騨健康増進センターと萩原商店街を舞台とした「萩原エリア」、築70年の旧湯屋小学校が舞台となる御嶽山の麓の「小坂エリア」だ。

 現在予定されている作品プランをいくつか紹介したい。「下呂エリア」内の下呂温泉街で作品を展開するのは、「南飛騨 Art Discovery」にも参加していた弓指寛治だ。温泉街の地下2階建ての会場を舞台とし、その土地に生息する魚や動物、さらに下呂で生きる人々をモチーフとした絵画や立体作品が展開される。下呂温泉に訪れた人が、下呂という土地の面白さに気づけるような作品を目指すという。また台湾出身のアーティストであるトゥ・ウェイチェンは、飛騨の伝説に出てくる神様と龍の骨が化石として発掘された遺跡を表現する巨大な作品を手がける予定だ。

弓指寛治

 続いて、宿場町として栄えた側面もある「萩原エリア」では、「南飛騨 Art Discovery」の会場でもあった県営の施設「南飛騨健康増進センター」が会場のひとつとなる。ここでは、食をテーマに制作を行うEAT&ART TAROの作品が展開される予定だ。今回は会場の名前にもある「健康」に着目した作品を手がけるという。また、自然との共生をテーマに制作を行う鈴木初音、自分に影響を与えた人物を木に見立て森をつくる彫刻家・村上力も作品を発表予定だ。飛騨高山出身の橋本雅也は、森の中で木彫作品を制作することを試みる。

村上力

 同じエリア内の萩原商店街でも複数のアーティストが作品を展開する。諏訪神社を舞台に発表するのは、リトアニア出身のアーティストであるスタシス・エイドリゲヴィチウスだ。世界各国で100回以上の個展を開催してきたスタシスは、諏訪神社に伝わる蛇の伝説を参照した彫刻作品を制作する。じつはリトアニアと岐阜県は、ユダヤ人避難民を救うための「命のビザ」をリトアニアで発行した岐阜県出身の元外交官・杉原千畝を縁に、様々な分野において交流を進めている。ほかにも、商店街のなかにある旧楽器店、旧銀行、旧理容店を会場とした、この土地でしか見ることのできない展示が展開される予定だ。

 そして「小坂エリア」では、築70年を超える旧湯屋小学校が会場となる。ここでは、本芸術祭にあわせて実施されているアートプロジェクト「みんなの学校」が開催される。少子化や廃校の増加、教育制度や現場での様々な課題を背景に出発した本プロジェクトは、授業、給食、休み時間、入学式、運動会、自由研究といった学校にまつわる様々な切り口から、「こんな学校あったらいいな」と思うアイディアを公募し、実現するもの。「学校」という誰もが身近に感じやすいテーマをもとに集まった250件ものユニークなアイデアのなかから、何がどのように旧湯屋小学校に展開されるか要注目である。

 なお本芸術祭のメインビジュアル・ロゴデザインはデザイナーの岡崎真理子、メインビジュアルに使われた写真の撮影は写真家の川谷光平が担当した。岡崎は、下呂を訪れた際もっとも印象に残ったのは自然物から得られる五感を通じた感覚情報の多さだという。そんな下呂という土地の魅力を伝えるべく、下呂で撮影された複数の写真を用いて、写真とグラフィックが組み合わさったメインビジュアルとロゴをデザインした。

メインビジュアル

 北川は、首都圏から訪れる場合、本芸術祭を楽しむためには1泊2日ほどの日程を想定することを勧めるという。午前中に到着できれば1日で見ることも可能ではあるが、アートとともに下呂の温泉や食事、自然を堪能することで、さらに下呂の魅力に気づく機会となるだろう。

 アートと温泉に浸りながら心身・五感を開放し、 地域と自分自身を発見する機会となることを目指す本芸術祭。今後の最新情報にも注目したい。