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2026.1.17

「ロックフェラー・コレクション花鳥版画展 北斎、広重を中心に」(千葉市美術館)開幕レポート。ひとりのコレクターが魅せられた花鳥版画の世界

千葉市美術館で、開館30周年記念 ロードアイランド・スクール・オブ・デザイン所蔵「ロックフェラー・コレクション花鳥版画展 北斎、広重を中心に」が開幕した。会期は3月1日まで。

文・撮影=大橋ひな子(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展覧会風景より、プロローグの様子
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 千葉市美術館で、開館30周年記念 ロードアイランド・スクール・オブ・デザイン所蔵「ロックフェラー・コレクション花鳥版画展 北斎、広重を中心に」が開幕した。会期は3月1日まで。担当学芸員は田部井栞里(千葉市美術館学芸員)。なお本展は同館での開催後、山口県立萩美術館・浦上記念館(4月18日~5月31日)、三重県立美術館(6月13日~7月26日)、北斎館(8月8日~10月12日)を巡回する予定だ。

 「花鳥版画」とは、花や鳥を主題とした浮世絵のこと。季節のうつろいとともに花や鳥が描かれたこれらの作品は、葛飾北斎歌川広重が活躍した時代に数多く制作された。米国ロードアイランド州に位置するロードアイランド・スクール・オブ・デザイン(通称・RISD 美術館)には、そんな花鳥版画が大半を占める「ロックフェラー・コレクション」が所蔵されている。これはロックフェラー家のひとり、 アビー・オルドリッチ・ロックフェラー(1874〜1948)によって1916〜20年代後半に収集・寄贈されたもので、浮世絵のなかでも役者絵や風景画、 美人画ではなく花鳥版画を中心にした点において、世界的にも稀有なコレクションだと言われている。

 本展では、同コレクション約700点のうち163点が紹介される。北斎、広重をはじめとする浮世絵師たちによる花鳥版画を一堂に鑑賞することができる、貴重な機会である。

 本展は全6章構成となるが、アビーが1916年に収集した初めての花鳥版画である歌川広重《水葵に鴛鴦》《紫陽花に川蝉》がプロローグとして紹介されるところからはじまる。

展覧会風景より、プロローグの様子

 第1章「花鳥版画を手がけた浮世絵師たち」は、花鳥版画がもっとも興隆した天保期(1830〜44)以前の浮世絵師による希少なものを中心に、その歴史を紐解く構成である。花鳥という同一のテーマを扱いながらも、絵師によってその表現方法が大きく異なることを感じられる内容だ。

 会場では、明和(1764〜72)初期に絵暦(えごよみ)交換会で美しい絵暦を手がけた絵師として知られる鈴木晴信の《秋海棠に蝶と猫》が紹介されている。当時はまだ高級品であった多色摺の錦絵の上質な紙を使用しているところにも注目したい。またロックフェラー・コレクションにある9点のいけばな図のうち、7点を制作されたとされる喜多川歌麿の作品も紹介されている。

第1章「花鳥版画を手がけた浮世絵師たち」の会場風景
展示風景より、無款(鈴木晴信)《秋海棠に蝶と猫》(1767頃)

 第2章「広重花鳥版画の華ー大短冊判花鳥版画を中心に」では、歌川広重の作品が展覧される。じつは花鳥版画の分野において随一の作画量を誇るのが広重であり、本展で紹介される163点のうち、約110点は広重のものである。なかでも大短冊判(おおたんざくばん)と呼ばれる判型の作品は、広重の花鳥画を代表するものとして評価が高い。本展のメインビジュアルに使われている《雪中椿に雀》も、大短冊判の作品だ。

展示風景より、左右どちらも、歌川広重《雪中椿に雀》(1832〜35)

 第3章「北斎と北斎派の花鳥版画」は、タイトルの通り葛飾北斎が描いた花鳥版画に着目した内容だ。作画量では広重が随一ではあるが、花鳥版画人気の足がかりをつくったひとりとしては北斎も特筆すべき存在である。《芥子》《鷽 垂桜》といった現代でも高く評価されている作品は、錦絵の揃物として花鳥を主題とした先駆的な作例である。また本章では、北斎作品だけでなく、二代載斗(にだいたいと)、魚屋北渓(ととやほっけい)といった北斎派の絵師による作品も展覧されている。

第3章「北斎と北斎派の花鳥版画」の会場風景
展示風景より、葛飾北斎《鷽 垂桜》(1834)

 第4章「季節の風情『団扇絵』の名品」では、「団扇(うちわ)」の骨に貼るために制作された浮世絵版画が取り上げられる。夏の風物詩として親しまれた団扇は、実用的な消耗品でありながら、夏の装いを彩るファッションアイテムのひとつとしても求められていたという。消耗品であることから現存数は少ないが、ロックフェラー・コレクションには30点ほどの花鳥団扇絵が良好な状態で収蔵されている。絵柄の異なる色鮮やかな団扇を眺めているだけで、夏という季節を楽しもうとしていた当時の人々の様子が想像できる。

第4章「季節の風情『団扇絵』の名品」の会場風景
展示風景より、葛飾北斎《露草に鶏》(1832頃)

 第5章「詩歌と絵を楽しむ 広重の短冊判花鳥画」では、広重の花鳥版画のなかでも短冊判という形式で出版されたものに焦点が当てられる。これらの作品には俳諧などの讃が記されており、描かれた絵だけでなくその讃の内容を紐解くことで、より広重作品に対して理解を深めることができる。会場では、記念切手の図柄としても選ばれたことのある《月に雁》も紹介されている。また、ほかに所在が知られていない唯一の版と言われている伊藤若冲の作品も日本初公開となっている。こちらも合わせて注目してほしい。

展示風景より、歌川広重《月に雁》(1832〜35)
展示風景より、伊藤若冲《雌雄鶏図》(18〜19世紀)

 最後の第6章「小さく愛しき花と鳥」では、ロックフェラー・コレクションならではの、小画面の花鳥版画に注目した内容となっている。本章で紹介される作品のなかに、いくつか未裁断のものがある点に触れたい。例えば歌川広重の《鳥瓜に自白/芍薬に小鳥》は、本来上下で裁断され、2つの作品として出版されるはずだったが、裁断前の状態で残っている。同じく広重の《鰹/蝶/蝙蝠》は3つに裁断される予定だったものだ。制作途中ともいえる未裁断の状態で見られる貴重な機会だと言えるだろう。

 本章では、改めて、今回紹介された作品がアビーの目を通して収集されたものであることが強調され、花鳥版画を愛したひとりのコレクターの姿を思い起こさせる工夫がなされているように感じる。

展示風景より、歌川広重《鳥瓜に自白/芍薬に小鳥》(1832〜35)
展示風景より、歌川広重《鳥瓜に自白/芍薬に小鳥》(1835〜38)

 開館30周年を締めくくる展覧会として開催された本展は、海外の美術館との交流を積極的に行ってきた同館ならではの企画に挑んだものだと言えるだろう。なお同館では、本展にあわせ、同館のコレクションより選りすぐった摺物を紹介する展覧会「うるわしき摺物一縁をつむぐ浮世絵」も開催されている。こちらもあわせて注目してほしい。