上野の森美術館で「五大浮世絵師展―歌麿 写楽 北斎 広重 国芳」が開幕した。会期は7月6日まで。
文・撮影=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)
東京・上野にある上野の森美術館で「五大浮世絵師展―歌麿 写楽 北斎 広重 国芳」が開幕した。会期は7月6日まで。
現在NHKの大河ドラマでも注目を集めている、江戸時代の文化を担った「浮世絵」。本展では、美人画を代表する喜多川歌麿、ダイナミックな役者絵で人気を博した東洲斎写楽、森羅万象を独自の手法で描いた葛飾北斎、名所絵を中心に浮世絵に新風を吹き込んだ歌川広重、迫力ある武者絵などで大きな存在感を示した歌川国芳といった、5人による代表作を中心に約140点を展示。特色あふれる表現やその功績の数々を紹介するものとなっている。
喜多川歌麿は、女性の多様な姿を描くことに長けた、美人画の旗手とも言える浮世絵師だ。会場には、江戸の人々の憧れの的でもあった遊女たちのプライベートな様子を描いた「五人美人愛敬競」シリーズや、女性に対する教訓が絵とともに記される「教訓親の目鑑」シリーズなどが展示されている。美しく淑やかな女性のみならず、時には悪女のような人物も魅力的に描くなど、その多面的な姿をリアリティをもって表現している点が、歌麿の大きな特徴と言えるだろう。
東洲斎写楽といえば、「大首絵」というインパクトある手法で数多くの役者絵を手がけたことで有名な人物であるが、その活動期間はたったの10ヶ月ほどしかないのはご存知だろうか。役者の美しさよりも、指先や口元の力のこもる表情など、あたかも間近で演技を見ているような臨場感をも描きだすところに大きな特徴があると言える。あまりにリアリティを追求したため当時の人々のあいだでは賛否両論があったようだが、浮世絵を語るうえで、写楽の存在を語らずにはいられないだろう。
昨今、新紙幣やパスポートにその作品が起用されるなど、国内外においてつねに話題の中心であり続ける浮世絵師・葛飾北斎。その卓越した画力は浮世絵の制作のみにとどまらず、図案、指南書などをも手がけ、その功績からもアメリカの『LIFE』誌では「この1000年でもっとも重要な功績を残した世界の100人」に唯一の日本人として選ばれている。
会場では、代表シリーズ「冨嶽三十六景」をはじめとする作品群が展示。鑑賞者の視点移動を意識した北斎による構図の妙をぜひ味わってみてほしい。
北斎と年齢は離れているものの、よく対の存在として語られるのが歌川広重だ。「冨嶽三十六景」とほぼ同時期に発表された「東海道五十三次」は、旅を通じて人々の暮らしや風俗を描く、広重の出世作とも言えるシリーズ。江戸の日本橋から京の三条大橋をつないだ東海道での旅路のなかでうかがえる、風景と人々の息づかいが一体となっている点に魅力がある。
また、晩年に手がけた「名所江戸百景」では、いままでにない縦画面にも挑戦し、自由自在に空間をとらえたダイナミックな表現を模索した。
最後に紹介されるのは、広重と同い年で幕末に活躍した浮世絵師のひとり・歌川国芳だ。国芳といえばシリーズ作品「通俗水滸伝豪傑百八人之一個」(1827)で一斉を風靡し、その後「武者絵」のジャンルにおいてその地位を確立した。迫力ある構図や力強い描写力によって描かれた作品の数々は、いまなお老若男女に愛されているといっても過言ではないだろう。三枚続きのワイド画面を用いた作品からも、モチーフを劇的に演出しようとした国芳の工夫が見受けられる。
絵師としてのみならず、メディアとして流行の最先端をも担ってきた江戸時代の浮世絵師。新たな表現を追い続けた、この五大浮世絵師による挑戦の軌跡をぜひ会場で俯瞰してみてほしい。なお、会場には本展の音声ガイドナビゲーターを務める歌舞伎俳優・尾上松也を描いた石川真澄による《挑む》も特別展示されているため、あわせてご覧いただきたい。