「藤本壮介の建築:原初・未来・森」(森美術館)開幕レポート。多様性を包み込み、共に生きる場所をつくる
2025年大阪・関西万博の《大屋根リング》をはじめとする様々なプロジェクトで注目を集める建築家・藤本壮介。その初の大規模個展が、東京・森美術館で開幕した。その様子をレポートする。

日本を代表する建築家のひとり、藤本壮介の初の大規模個展「藤本壮介の建築:原初・未来・森」が、東京・六本木の森美術館で開幕した。会期は11月9日まで。
現在開催中の2025年大阪・関西万博において《大屋根リング》を設計し、会場デザインプロデューサーを務める藤本。本展は、約30年にわたる藤本の活動を8つのセクションに分けて網羅的に紹介しながら、建築の本質を身体で体験できる空間として構成されている。担当キュレーターは、近藤健一(森美術館シニア・キュレーター)と椿玲子(森美術館キュレーター)。
森美術館では、これまで様々な建築展を開催してきた。館長の片岡真実は開幕の記者会見で「建築は本来、身体で感じる空間である」と語り、本展ではそれを起点に、模型や図面、写真といった建築展の枠を超え、インスタレーションや大型模型、モックアップなどを駆使し、鑑賞者が空間に身を置きながら藤本建築の本質に迫ることを試みている。

また藤本は、初期から一貫して取り組んできたテーマを「多様な人々の多様性をリスペクトしながら、それらが共存できる場所をつくる」「ときには全く異なる個性が響き合い、つながる瞬間を生み出す」ことだと話す。展覧会タイトルに含まれる「森」という言葉は、その故郷である北海道の森からインスピレーションを得ており、自然豊かな東神楽町で育った藤本にとって、重要な概念だ。
藤本は、「森のような場所こそが、多様性を包み込み、受け止める空間になり得る」と述べている。木々が茂る森だけでなく、東京の路地のように複雑で雑多な都市空間にすら、彼は森のような「ゆるやかな秩序」を見出す。「森的な場所」という概念こそが、その創造における核であり、本展の副題「原初・未来・森」にもその思想が色濃く反映されている。

展覧会の入口に広がるのは、300平米を超える広大な空間を用いた大型インスタレーション《思考の森》。ここでは、藤本の活動初期から現在計画中のものまで、合計116件にも及ぶプロジェクトの模型や素材、スケッチ、アイデアの断片が一堂に展示されている。
藤本が「模型の森」「試作の森」と呼ぶこの空間は、その建築を貫く3つの系譜──「ひらかれ かこわれ」「未分化」「たくさんのたくさん」──に基づいて、緩やかな分類とともに構成されている。囲われた空間が外部へと開かれる「ひらかれ かこわれ」、用途や意味が曖昧で多義的な「未分化」、似た形状のパーツが集積してひとつの建築を構成する「たくさんのたくさん」。ひとつのプロジェクトに複数の要素が内包されることもあり、その複層性が「森」として空間に立ち現れている。


「森」という言葉について、セクション1〜4を担当した椿玲子キュレーターは「藤本さんにとって『まわり』=『周囲の環境』という概念がいかに重要かを示す」と話す。「3つの『系譜』から展示をご覧いただくと、藤本建築の考え方がより明確に見えてくるかと思います」。
