2025.6.11

松田将英個展「『Great Reset』ーポスト太陽フレア時代における再起動プロトコルー」(マイナビアートスクエア)開幕レポート

東京・銀座にあるマイナビアートスクエアで、松田将英の個展「『Great Reset』ーポスト太陽フレア時代における再起動プロトコルー」が始まった。

文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

展示風景より
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「2025年某日、太陽活動の活性期に伴う強力な太陽フレアが発生。衛星通信、GPS、電力網、クラウドなどの現代社会を支える中枢インフラが次々とシャットダウンした。わずか数時間のうちに、人々はSNSもAIも地図も失い、日常を包んでいた透明な接続の網から強制的に切り離されてしまった」。

 そんな終末のシナリオを「フレア禍」と仮定し、パラレル・リアリティとしての現在をインスタレーションによって可視化するのが、マイナビアートスクエアで始まった松田将英の個展「『Great Reset』ーポスト太陽フレア時代における再起動プロトコルー」だ。

展示風景より

 松田は1986年生まれ、静岡市出身。東京都在住。近年は、現代文化に定着した集合的言語や記号を攪乱的に転用し、既存の認識や解釈を揺さぶる手法=「テクノイマジネーション」を通じて、人々に知覚・思考の再構築を促している。

 そもそもタイトルにある「Great Reset」とは、2020年に世界経済フォーラムが打ち出した経済再構築構想「Great Reset」に由来するもの。「Great Reset」は「より良い未来」を志向するビジョンとして提示されたが、次第に陰謀論を含む多様な解釈をまとい、複雑に入り組んだ語りへと変容していった。本展では、そうした重層的な意味の広がりに着目し、4つの作品から構成された。

展示風景より
展示風景より、《Great Reset》(2025、部分)

 なかでも本展の中心的な存在となるのが、会場中心にあるスマートフォンを模した巨大な立体作品《Ask Anything》(2025)だ。

 AIとの対話がすでに日常となった現代。しかしなんらかの原因によって電気がダウンしてしまえば、AIもスマートフォンも使うことはできなくなる。そうしたデジタルツールへの依存、あるいは「すぐに答えを得ることができる状況」への依存を見つめ直すことを、モノリスのような本作は問いかけている。

展示風景より、中央が《Ask Anything》(2025)

 コロナ禍の前にコロナ禍を想像できなかったように、これから先に起こるかもしれない厄災を想像することは難しい。しかし本展は、あえて「太陽フレア以降」という設定をつくることで、「そのときどうするべなのか」という問いを考えるひとつのきっかけを提示するものだ。