2024.9.27

「六本木アートナイト2024」はここに注目

「都市とアートとミライのお祭り」をテーマとした「六本木アートナイト2024」がスタート。会期は9月27日〜29日の金土日の夕方から終電時間までとなる。

文・撮影=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より、アトリエ シス《エフェメラル コレクション》
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 東京・六本木で「六本木アートナイト2024」が今年もスタートした。会期は9月27日〜29日の金土日となる。

 同イベントは今年で13回目。美術館をはじめとする文化施設や大型複合施設、商店街といった六本木の街全域をフィールドに、インスタレーションやパフォーマンス、音楽、映像、トーク、デジタル作品など、約30組のアーティストによる約40のプログラムが展開されている。また、コロナ以降のライフスタイルの変化にあわせ、土日のオールナイトの実施から金土日の夕方~終電へとプログラムの時間を変更。仕事や遊びからの帰り道にも、多くの人々がアートを楽しめるようシフトチェンジされている。

 さらに、本年より「RAN Picks」と「RAN Focus」といった2つのプログラムが新設された。「RAN Picks」は、六本木アートナイトが注目するアーティストを複数選出し、展示を行うプログラムだ。「RAN Focus」では、特定の国や地域にフォーカスを当て、そこで活躍するアーティストによるプログラムを披露するものとなる。今回フォーカスされているのは、台湾のアーティストだ。

キービジュアル

 今年はインスタレーションやパフォーマンスのプログラムが多いことからも、前日に開催されたプレスツアーで見ることができたのは一部の作品だ。そのなかからいくつかピックアップして紹介したい。

 例えば、六本木ヒルズアリーナでは、「RAN Picks」として選ばれたアトリエ シスによる《エフェメラル コレクション》が目を引くだろう。アトリエ シスは、ペルー人彫刻家のレンゾ・B・ラリヴィエールとオーストラリア人アーティストのザラ・パスフィールドが率いる、シドニーを拠点としたアートスタジオだ。作品のなかをくぐり抜けながら、音と光の鑑賞体験を楽しんでほしい。昼はもちろん夜に足を運ぶのも良いだろう。

展示風景より、アトリエ シス《エフェメラル コレクション》

 六本木ヒルズ内のウェストウォークにはツァイ&ヨシカワによる色と映り込みが印象的な《豊穣の宝石 - Reflection》や、平山亮と平山匠の兄弟による2人のコミュニケーションが形となった《平山プロダクション》の作品群、そして屋外にはHajime Kinokoによるピンク色のロープを用いたインスタレーション《Link》が夜空を温かい色彩で彩っている。

展示風景より、ツァイ&ヨシカワ《豊穣の宝石 - Reflection》(2024)
展示風景より、平山亮+平山匠《平山プロダクション》(2020〜24)
展示風景より、Hajime Kinoko《Link》(2024)

 アート作品やプロジェクトは六本木の商店街にも展開され、「RAN Focus」から台湾のアーティストの作品が紹介されている。第3サンビルではジャン・ファンユー(張方禹)によるレーザー光線を用いたインスタレーション《環》が、六本木イグノポールの空間では、ウォーターメロン・シスターズ(西瓜姉妹)による映像作品《ウォーターメロン・ラブ》が展示されている。天界から舞い降りたクィア姉妹が争いをやめない人類に対し、受容しあうことの大切さを呼びかけている。

展示風景より、ジャン・ファンユー(張方禹)《環》(2024)
展示風景より、ウォーターメロン・シスターズ(西瓜姉妹)《ウォーターメロン・ラブ》(2017)

 六本木交差点にひっそりとそびえたつ時計塔があるのをご存知だろうか? 普段気づかれることのないこの時計塔に、藤村憲之はこの街で働き、生活をする人々の呼吸データを吹き込んだ。2分ごとに色が変わり明滅する光は、この街の誰かの呼吸と重なっている。

展示風景より、藤村憲之《呼吸する時計塔》(2024)

 アートナイトの会場のひとつでもある国立新美術館に向かうと、不思議な看板を掲げた看板持ちに出会うだろう。「いる派」を名乗る小寺創太は、六本木駅から国立新美術館の路上に配置された6名の看板持ちと館内の芝生、そして《フィラー》の看板で構成された作品を展開している。

 フィラーとは、Adobeなどのクリエイティブソフトでレイアウト検討の際にダミーで出てくる意味を持たないテキストを指す。このフィラーテキストのひとつを機械翻訳にかけて日本語にしたものを、看板持ちは看板として掲げている。無意味なテキストを掲げるための労働の意味とは何か? 行為を通じて行為の意味を問いかけている。

展示風景より、小寺創太《フィラー》(2024)。看板持ちは時給1480円、10時間の看板持ちを2人で5時間ずつ交代しているらしい
展示風景より、小寺創太《フィラー》(2024)。「いる派」を名乗る小寺自身は会場にはいないようだ

 東京ミッドタウン プラザB1階には、「TOKYO MIDTOWN AWARD 2024」からアートコンペ、デザインコンペのファイナリストによる作品が紹介されている。こちらは10月9日までで、10月10日からは受賞・入選作品の展示が行われる予定だ。

展示風景より、さとうくみ子《一周まわる》
展示風景より、REMA《Untitled (Cocoon mechanism)》

 また、ミッドタウン プラザ1階には「TOKYO MIDTOWN AWARD 2021」のアートコンペグランプリを受賞した丹羽優太の《疫病合戦図絵巻》がテナントの仮囲いとして展示。コロナと戦う民衆の様子をユニークな姿で描き出している。

展示風景より、丹羽優太《疫病合戦図絵巻》

 六本木アートナイトについてひとつ課題を挙げるとするならば、会場のアクセシビリティだ。プレスツアーに同席されていた車椅子利用者の方が、階段のみの展示スペースに入ることができない光景を何度か目の当たりにした。会場の選定もしくは、仮設のスロープ・サポートスタッフを設けるなど、誰もがアクセス可能となるよう、当事者の意見を取り入れながら改善していく必要があるだろう。