2024.9.27

「ゴミうんち展」(21_21 DESIGN SIGHT)開幕レポート。見えないものの存在から新たな可能性を探る

21_21 DESIGN SIGHTで、企画展「ゴミうんち展」がスタートした。会期は2025年2月16日まで。

文・撮影=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より、「糞驚異の部屋」
前へ
次へ

 東京・六本木の21_21 DESIGN SIGHTで、企画展「ゴミうんち展」がスタートした。会期は2025年2月16日まで。展覧会ディレクターは佐藤卓(グラフィックデザイナー、21_21 DESIGN SIGHT ディレクター・館長)、竹村眞一(京都芸術大学教授、NPO法人ELP代表、「触れる地球」SPHERE開発者)。

 自然界の循環において「ゴミ」や「うんち」は必ず含まれるものだが、それらはブラックボックスで隠され、我々生活者が目の当たりにする機会は今日少ないだろう。本展は、そういった社会問題にもなってしまっているこのふたつの存在にフォーカス。身の回りから宇宙までの様々な「ゴミうんち」を取り上げじっくり観察することで、社会問題のみにとどまらない多様な面を提示するものとなっている。

21_21 DESIGN SIGHT エントランス

 来場者はメインビジュアルからタイトル「ゴミうんち」が消えていることに気がつくだろう。これは「自然界にはゴミやうんちが存在しない?」「ゴミうんちは見えないもの・消えてしまうもの」という認識を際立たせるためだという。見えないものに目を向ける、という展覧会の体験意図が際立つユニークかつ戦略的な試みと言えるだろう。

 本展について、ディレクターの佐藤と竹村はそれぞれ次のようにコメントしている。

 「普段デザインの仕事をしていると、大量生産品に携わることもある。それだけ資源を消費しているということであり、使い終わったらゴミ箱へ捨てられる。デザインは製品のある一部分に関わる仕事ではあるが、その素材はどこから来て、ゴミとなったあとはどこに行くのか? ということを前から気にしていた。今回は、『Water』展(2007)や『コメ』展(2014)でも企画を務められた竹村さんとの共同ディレクションとなる」(佐藤)。

 「日本のデザインミュージアムがゴミうんちを取り上げるのは非常に重要なことだ。江戸時代の日本ではゴミうんちも人の生活における循環活動のひとつ(pooploop)としてとらえられていたが、現在では汚いものとして目を背けられている。本展は、そのような循環活動を新しい視点から取り上げ、それを届けたいという意図がある。視点の転換をもたらすのがデザインの役割なのではないか」(竹村)。

展示風景より、竹村眞一「めぐる環」
展示風景より、「腐葉土標本」

 ギャラリー1に出現したのは、なんと「糞驚異の部屋」。ここでは、本展で提示される「ゴミうんち」という新しい概念について、少し視点を変えてとらえる機会が創出されている。古代エジプトにおける「フンコロガシ」の存在や日本のトイレにおける歴史・文化の変遷、微生物の「排泄」によって起こる発酵など、様々な事例やそれと関連した問題提起を通じて、根本にある「循環」の考え方にフォーカスするものとなっている。

展示風景より、「糞驚異の部屋」。本展アートディレクションは岡崎智弘、会場構成は大野友資 (DOMINO ARCHITECTS)
展示風景より、「糞驚異の部屋」

 ギャラリー2では、ものは「どこから来たのか」そして「どこへ行くのか」を意識したコンセプトで各制作者によるプロジェクトが構成されている。例えば、採集・デザイン・超特殊印刷を主な領域とする𠮷田勝信のプロジェクト「Observing Looping Doodling」では、近隣の山から採集した植物でインクを生成し利用。さらに、印刷の過程で発生したゴミを用いてキノコを栽培するなど、自身の制作活動と生活を循環させることを試みている。

展示風景より
展示風景より、𠮷田勝信「Observing Looping Doodling」
展示風景より、𠮷田勝信「Observing Looping Doodling」

 狩野佑真による、新たな着眼点から素材を生み出す2つのプロジェクトを紹介したい。まずは、錆の美しさを様々なプロダクトへ落とし込むことを実践してきた狩野による「Rust Harvest|錆の収穫」だ。これは、錆を自ら育てる新しい方法に挑戦するもので、生み出された錆はアクリル板に転写されている。錆の豊かな色合いやテクスチャーが非常に魅力的だ。

展示風景より、狩野佑真「Rust Harvest|錆の収穫」
展示風景より、狩野佑真「Rust Harvest|錆の収穫」(一部)

 もうひとつのプロジェクト「Forest Bank」は、地面に落ちていたり捨てられてしまうような枝葉を拾い集め、水性アクリル樹脂と一緒に固めて削り出すことで新たな素材としての活路が見出されるというものだ。今回はミッドタウン敷地内の剪定作業で発生した廃材を用いて出展されている。

展示風景より、狩野佑真「Forest Bank|Made in TOKYO MIDTOWN」
展示風景より、狩野佑真「Forest Bank|Made in TOKYO MIDTOWN」(一部)

 21_21 DESIGN SIGHTの中心部には三角形の屋外スペースが存在するが、本展ではここにveigによる「漏庭」が出現している。遮蔽物で影をつくることは人間にとっては木陰となるが、はたして周辺の環境にはどのような影響が出るのだろうか。そういった問いを起点に、本展では庭の空中に遮蔽物をつくり、その下に何種類もの植物を植えているという。会期中にその景観がどのように変化していくのか、見届けたいプロジェクトだ。

展示風景より、veig「漏庭」

 井原宏蕗は、ある動物の糞を採集し、それらを用いてその動物のかたちを成形し、釉薬や漆を用いて固めている。動物によって異なる糞の形状が見られるほか、その身体をつくり上げるものと排泄されるものが切り離せない関係であるとをあらためて認識させられるような作品であると感じた。

展示風景より、井原宏蕗《cycling -dead or deer-》

 グラフィック・パッケージデザイナーの清水彩香は、紙を用いるデザイナーという視点から「プラスチックは悪、紙は善」という認識が本当にそのように単純なものなのであるのか、という疑問について向き合い、そのリサーチ内容をInstagramのアカウント「Lab. for E.G.」で発表し続けている。クリエイターとしても目を背けることができない環境問題。自身が生み出すものに責任を持っていくためにも、清水の姿勢は誰しもが見習うべきものだろう。

展示風景より、清水彩香「グラフィックデザイナーと環境問題」

 なお、関連イベントとしてトーク「ゴミうんちを考える」(10月20日)が実施されるほか、Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2024の一環としてはトーク「都市の緑を歩く:建築家・造園家・研究者と散策する東京ミッドタウン」(10月26日)も予定されている。詳しくは公式ウェブサイトをチェックしてほしい。