また、1980年代後半、ニューヨークのクラブカルチャーに触れた古橋と山中は、そこでドラァグクイーンやハウス・ミュージックの強烈な洗礼を受ける。大阪の堂山町にあったゲイ・ディスコ「クリストファー」や、ミナミのゲイバーに通い詰めていた2人は、そのストリートの熱量を日本のアートシーンに持ち込むべく、ワンナイトクラブイベント「Diamonds Are Forever」を始動させた。
しかし、ブブと山中が共通して感じているのは、医療がこれほど進歩したいっぽうで、社会における差別の構造や、人々の意識がまったく進歩していない、という事実だ。ブブは「むしろ逆行している、あるいは複雑化して悪質になっている部分もある」と指摘する。作品内で繰り返し登場する「沈黙の共謀(Conspiracy of Silence)」というフレーズが示すように、現代社会において「不都合なことを言わない、沈黙する」という空気は、むしろ強まっているのではないか。ふたりが指摘する本作の批評性は、現代の観客にも重く突き刺さる。
ブブ、山中はともに現在もそれぞれ旺盛な活動を続けている。山中はまもなくソロ・アルバムのマスターアップを控えており、ブブは美術家・嶋田美子とのコラボレーションおよびそれぞれのソロ作品を、第61回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展の企画展「In Minor Keys」(〜11月22日)に出展中である。山中とブブは「若手アーティストの支援だけでなく、60代を迎えた『シニア・アーティスト』の活動やアーカイブを継続的にサポートしていく社会的なシステムが、これからの日本には必要だ」と語り、トークを締めくくった。