2025.11.6

「版画家レンブラント 挑戦、継承、インパクト」が来夏、国立西洋美術館で開催。レンブラントのエッチングの魅力とその影響に迫る

東京・上野の国立西洋美術館で、レンブラントのエッチング作品に焦点を当てる展覧会「版画家レンブラント 挑戦、継承、インパクト」が開催される。会期は2026年7月7日〜9月23日。

レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン 病人たちを癒すキリスト 1649頃 和紙にエッチング、ドライポイント、ビュラン 国立西洋美術館
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 東京・上野の国立西洋美術館で、レンブラント・ファン・レイン(1606〜1669)のエッチング作品に焦点を当てる展覧会「版画家レンブラント 挑戦、継承、インパクト」が開催される。会期は2026年7月7日〜9月23日。

 オランダ・アムステルダムの中心に位置するレンブラント・ハウス美術館は、レンブラントが実際に暮らした家を利用した世界唯一のレンブラント専門の美術館だ。レンブラントのエッチングの世界有数のコレクションを中心に、素描や関連する芸術家の作品を収蔵している。いっぽう、国立西洋美術館もレンブラントのエッチングを重点的な収集の対象としており、20点あまりを有する。

レンブラント・ハウス美術館外観

 本展は、このふたつのコレクションを組み合わせ、国内美術館、大学図書館、海外コレクターの作品や書籍も加えて、レンブラントのエッチングとその影響を総覧するものだ。

 展覧会は3章構成で、レンブラントのエッチングに対する挑戦とその継承を紹介する。第1章「版画家レンブラント」では、17世紀初頭、銅版に直接線を刻んで版をつくるエングレーヴィングの代替とみなされてきたエッチングは、その技法ならではの表現が追求されるようになる。レンブラントもそのひとりだ。

 レンブラントはやがてエッチング技法の牽引者として主題の選択や表現において様々な探求を行った。本章ではこうしたレンブラントのエッチング制作を「肖像と頭部習作」「無宿者と市井の人々」「キリスト教主題」「スケッチ」「風景」の5セクションにもとづいて見ていく。

レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン エジプトへの逃避 1645 エッチング、ドライポイント レンブラント・ハウス美術館
レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン 夜間のエジプトへの逃避 1651 エッチング、ビュラン、ドライポイント レンブラント・ハウス美術館

 本章ではとくに、エッチング制作開始当初のレンブラントの対象の表情をいかにエッチングに落とし込むかという表現の追求や、その後より深化していく豊かな階調などに注目したい。なかでもエッチングの歴史に残る傑作《病人たちを癒すキリスト》(1649頃)は、緻密に重ねた線の集積がつくり出す闇と光の厳かな空気感は圧巻だ。

レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン イタリア風景の中の聖ヒエロニムス 1653頃 和紙にエッチング、ドライポイント レンブラント・ハウス美術館
レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン 驚いた表情の自画像 1630 エッチング、ドライポイント レンブラント・ハウス美術館
レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン 病人たちを癒すキリスト 1649頃 和紙にエッチング、ドライポイント、ビュラン 国立西洋美術館

 第2章「レンブラント版画の影響:17-18世紀」は、レンブラントがエッチングで残した功績が、17〜18世紀の芸術家にいかなる影響を与えたのかを探る。

 新作当時から高い人気を博したレンブラントの版画であるが、17世紀におけるその影響の広がりは限定的だったという。しかし、そのなかでもイタリアのジョヴァンニ・ベネデット・カスティリオーネやステファーノ・デッラ・ベッラといったその影響を受けた作品が生み出された。

ジョヴァンニ・ベネデット・カスティリオーネ 箱舟に入る動物たち 1650-55 エッチング 国立西洋美術館
ステファーノ・デッラ・ベッラ 『素描の法則』(23) ターバンをかぶった男性の頭部習作 1641 エッチング 国立西洋美術館

 18世紀にレンブラントのエッチングに注目したのは、ドイツの芸術家たちだった。模倣作がつくられるだけでなく、レンブラントの未完の作品を完成させるなどの試みが行われ、また美術愛好家たちは作品を積極的に収集。カタログ・レゾネ(全作品目録)の編纂も始まり、今日のレンブラント研究の礎となっていった。

レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン 窓辺でエッチングを制作する自画像 1648 エッチング、ドライポイント レンブラント・ハウス美術館
ゲオルク・フリードリヒ・シュミット 窓辺で素描する自画像 1758 エッチング、ドライポイント レンブラント・ハウス美術館

 本章では、こうしたイタリアやドイツを中心としたレンブラントのエッチングに影響を受けた作家たちの作品を展示。その影響関係をたどることができる。

 第3章「レンブラント版画の影響:19-20世紀」は、前章に続くかたちで19〜20世紀のレンブラントのエッチングの影響をたどる。最初に注目するのはスペインの画家、フランシスコ・ホセ・デ・ゴヤによるレンブラントのエッチング研究だ。その成果を積極的に取り入れた作品が展示される。

レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン 使徒たちに現れるキリスト 1656 エッチング レンブラント・ハウス美術館
フランシスコ・ホセ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテス 「戦争の惨禍」79番 真理は死んだ 1810-20頃 ウォーヴ紙にエッチング、バーニッシャー 国立西洋美術館

 19世紀の半ばから後半にかけてのフランスでも「エッチング復興」の機運が高まった。芸術家のみならず文学者や批評家も参加したこのムーブメントにおいて、理想的とされたのがレンブラントだった。こうした動きについても本章では取り上げる。

レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン 書斎の学者(またはファウスト) 1652 エッチング、ドライポイント、ビュラン 国立西洋美術館
フレデリック・レガメー 『エッチングのパリ』誌ポスター 1876 青色紙にリトグラフ レンブラント・ハウス美術館

 そして章の後半では、レンブラントの影響のもとで制作された作品群を紹介。レンブラントがその可能性を試みた手法を取り入れたフェリックス・ビュオやメアリー・カサットの作品を紹介。さらにレンブラントを直接的に引用したアンリ・マティスの自画像などを通じて、現在に至るまでのレンブラントへの敬意の系譜を照らし出す。

フェリックス・ビュオ ウェストミンスター・ブリッジ 1884頃 エッチング、ドライポイント、ルーレット 国立西洋美術館
アンリ・マティス 版画を彫るアンリ・マティス 1900/03 ドライポイント 国立西洋美術館

 レンブラントがエッチングにおいて何を試み、何を目指したのか。そして、なぜレンブラントのエッチングが今日まで高い評価を得てきたのか。西洋版画の歴史をひも解きつつ、その問いに迫る展覧会となりそうだ。