2025.10.6

武蔵野美術大学で「甦るポストモダン——倉俣史朗、小松誠、髙﨑正治、デザインの人間主義」が開催。ポストモダンの「異議申し立て」の精神をデザインから問う

武蔵野美術大学 美術館・図書館で、ポストモダンの「異議申し立て」の精神がデザインに与えた影響を考える「甦るポストモダン──倉俣史朗、小松誠、髙﨑正治、デザインの人間主義(ヒューマニズム)」が開催される。会期は11月24日〜12月21日。

倉俣史朗 硝子の椅子 1976 ガラス・フォトボンド100 88×90×60cm
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 東京・小平の武蔵野美術大学鷹の台キャンパスにある武蔵野美術大学 美術館・図書館で、「甦るポストモダン──倉俣史朗、小松誠、髙﨑正治、デザインの人間主義(ヒューマニズム)」が開催される。会期は11月24日〜12月21日。

小松誠 クリンクルシリーズ スーパーバック K1 1975 磁器 35.0×23.0×11.4cm
髙﨑正治 輝北天球館 模型 1992 石塑粘土・紙・芯材(金属) 67×71×101cm 作家蔵

 1970年代後半以降、建築やデザインの分野に広まった潮流「ポストモダン」は、アメリカの建築史家、チャールズ・ジェンクスの『ポスト・モダニズムの建築言語』(1977)によって提示され、この潮流は歴史的様式の引用や折衷、過度な装飾といった特徴で多く語られる。本展ではこの「ポストモダン」を「人間主義」=新しい社会と人間の生き方を求めるものづくりとして大きな文化史的見方でとらえ、半世紀後の現代からその本質を見つめ直そうとするものだ。

 本展ではまず、現状に対する「異議申し立て」の精神こそがポストモダンの本質であると仮定し、そのルーツとして2つの運動に着目。1つは18世紀アメリカのシェーカー教徒による信仰生活のデザイン、もう1つは19世紀イギリスにおいて手仕事と中世ギルド(職工組合)への回帰を唱えたウィリアム・モリス(1834〜1896)によるアーツ・アンド・クラフツ運動だ。

シェーカー教徒 ストレートチェア 1700年代後半(再制作1998) ハードメープル・キャンバステープ 109×47×43cm

 いずれも、都市を中心とした機械による大量生産と経済効率に傾く大衆社会に対して労働=美=共同体を求めており、本展ではここにポストモダンのルーツを見る。2つの運動とその結実としての用品の数々の展示から、ポストモダンの時代へとその態度がつながっていく思想を考える。

ウィリアム・モリス他『ジェフリー・チョーサー作品集』 1896 43×29.5cm

 また、本展では政治や労働運動とポストモダンとの関わりにも着目する。20世紀後半にかけては、1968年のパリ五月革命をはじめとして、ベトナム反戦運動とヒッピー文化、全共闘運動など、世界各地で若者と労働者がそれまでの権威や秩序に「異議申し立て」を行った。これに前後して、後のポストモダン・デザインにつながるラディカルな表現が現れている。合理的・機能的なものを信じたモダニズムの楽観的な進歩主義への反省から、建築家やデザイナーたちは、個人の物語の広がり、歴史や社会への批評を備えた新たな造形を模索した。

エットレ・ソットサス シックスティーン、フォーティーン、サーティーン、フィフティーン 1986 木・ガラス 219.5×50×50cm、206×50×50cm、201×50×50cm、193×50×50cm

 会場では、パリ五月革命に大きな影響を与えたギー・ドゥボールの著作『スペクタクルの社会[原題:La Société du Spectacle]』を基点に制作された映像作品や、若手建築家グループが誌上で建築の解体を志した雑誌『アーキグラム』など、世界で同時的に起こった対抗文化の諸相を展示。また1968年前後のラディカルな表現をきっかけとして展開した、ポストモダンの多様な表現も合わせて紹介する。

 そして本展の中心を成すのが、倉俣史朗(1934〜1991)、小松誠(1943〜)、髙﨑正治(1953〜)の3名の主要作品の公開だ。3名は造形的に表立った共通項はないが、各人それぞれによる先見性と思想をもとにした造形により、自らが身を置く社会を鋭く批評した。いずれの作品にも「異議申し立て」の精神が滲み出ていることを本展では提示する。

倉俣史朗 ヨセフ・ホフマンへのオマージュ Vol.2 1986 木・布・豆電球 92×90×75cm
小松誠 空シリーズ 2011 磁器 7.8×20.5×17cm 作家蔵
髙﨑正治 天地のいえ ドローイング 2009 59.5×42cm 鉛筆・紙、作家蔵