2025.5.12

「トランスフィジカル」展が東京都写真美術館で開催。写真の物質性や身体表現に着目

今年総合開館30周年を迎える東京都写真美術館は、「総合開館30周年記念」と題した展覧会や関連イベントを多数開催する。その第2期となる「トランスフィジカル」が7月3日~9月21日に開催される。

小本章 90-23 「Seeing」より 1990 銀色素漂白方式印画
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 東京・恵比寿の東京都写真美術館は、1995年に日本唯一の写真と映像の総合的な専門美術館として総合開館した。総合開館30周年となる2025年は、「総合開館30周年記念」と題した展覧会や関連イベントを多数開催し、年間を通じて写真や映像の未来を様々な角度から考える。

 第1期「不易流行」に続く第2期となる本展は、学芸員4名の共同企画によるオムニバス形式となる。展示タイトルは「トランスフィジカル」。「物質的」「身体的」という意味をもつ「フィジカル」という言葉に表される通り、モノとして存在する写真の「物質性」や、被写体や作家自身の「身体的表現」に着目する。さらに、対象がそのもの自体から、別の形態や位置へ移動していくプロセスや行為をさす「トランス」という接頭辞が表すように、これまでのコレクション作品の新たな読み解き方を紹介しつつ、イメージがつくられる過程に目を向けた展示となる。

 本展では、同館の3万8000点を超える多彩な収蔵作品の中から、選りすぐりの名品約185点を出品予定。主な出品作家は以下。

アンセル・アダムス/ウジェーヌ・アジェ/アンリ・カルティエ=ブレッソン/ルイ・デュコ・デュ・オーロン/ウィリアム・エグルストン/ロバート・メイプルソープ/アーウィン・オラフ/ゲルハルト・リヒターシンディ・シャーマン/チェン・ウェイ/石原友明/出光真子/今井壽惠/岩根愛/瑛九/エキソニモ/オノデラユキ/川内倫子/小本章/小山穂太郎/鈴木のぞみ/田口和奈/多和田有希/東松照明/内藤正敏/野村佐紀子/浜田涼/細倉真弓/森村泰昌/安村崇/山沢栄子/山城知佳子/山本糾 ほか

 本展は全5章構成。第1室は、初期写真から出発して写真と絵画の関係性を探る「撮ること、描くこと」(企画:遠藤みゆき)。互いに影響を与え合ってきた写真と絵画の関係に焦点を当てる。最初期のカラー写真や、絵画と見まがう彩色のほどこされた写真、写真家による絵画、絵画的な画面構成によって制作された写真など、複数の視点から二者間について考察する。また世界最古のカラー写真《アジャンの風景》(1872)も展示される。

ルイ・デュコ・デュ・オーロン アジャンの風景、木と水の流れ 1872 エリオクロミィ

 第2室は、「踊り」という身体表現による衝動と社会性に迫る「dance」(企画:山﨑香穂)。人々が集い、身体をもって自らの想いを表現する「踊る」という行為は、ときに社会を動かす原動力ともなる。時代や目的に応じてかたちを変えながら様々な側面を見ることができる。

山城知佳子 OKINAWA墓庭クラブ  「墓庭シリーズ」より 2004 シングルチャンネル・ヴィデオ

 第3室は、色で広がる視覚表現を体感する「COLORS」(企画:石田哲朗、遠藤みゆき、山﨑香穂、邱于瑄[チィウ・ユーシュェン])。4名の学芸員全員で企画を行うこの展示では、それぞれが選ぶ写真の色彩をテーマにした作品を紹介する。

安村崇 湯かき棒とゴム手袋 「日常らしさ」より 1999 発色現像方式印画
オノデラユキ No.CO-2 「12 Speed」より 2008 インクジェット・プリント

 第4室は、コンセプチュアル・アートに影響を受けたステージド・フォトグラフィ(演劇的に構築された写真)と実験的なビデオアートを取り上げる「虚構と現実」(企画:邱于瑄)。様々な実験的な手法を用いたヴィデオ(映像)の作品群が並ぶこの展示では、「KYOTOGRAPHIE 2021」で注目を集めたオランダの写真家アーウィン・オラフの作品を、東京都写真美術館で初めて展示する。

森村泰昌 創造の劇場/イヴ・クラインとしての私 「なにものかへのレクイエム」より 2010 ゼラチン・シルバー・プリント

 そして第5室は、デジタル時代において写真の物質性とオリジナルプリントの価値を問い直す「ヴィンテージと出会うとき」(企画:石田哲朗)。「写真を焼く」という感覚や「モノとしての写真」の体験が失われつつあるデジタルの時代に、「vintage」(ヴィンテージ)という言葉を手がかりに「本物の」魅力を探る。同館コレクションの中でも、モホイ=ナジの貴重なフォトグラムや、万延元年(1860)に撮影された《野々村忠実像》、明治初期に活躍した河野浅八の作品などがこの展示で公開される。

アンセル・アダムス 月とハーフドーム、ヨセミテ渓谷、カリフォルニア州 1960 ゼラチン・シルバー・プリント ©The Adams Publishing Rights Trust.

 なお本展開催を記念して、スペシャルトーク、対談企画、ギャラリートーク、手話を交えたインクルーシブプログラムなどの関連イベントも行われる。