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2025.8.17

「創造の自由」を支える。ヤナ・ピールが語る、シャネルの文化支援の現在地

ガブリエル・シャネルの精神を受け継ぎ、「創造の自由」を支えるために活動するシャネル文化基金。シャネル アーツ カルチャー & ヘリテージ部門代表であるヤナ・ピールに文化支援の新たなかたちについて話を聞いた。

聞き手・文=王崇橋(ウェブ版「美術手帖」編集部)

ヤナ・ピール © CHANEL
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 ガブリエル・シャネルの遺した芸術支援の精神を継承し、現代における文化活動をグローバルに展開するシャネル文化基金。シャネル アーツ カルチャー & ヘリテージ部門代表を務めるのが、元サーペンタイン・ギャラリーCEOのヤナ・ピールだ。

 同基金は今年7月、中国・上海の上海当代芸術博物館(Power Station of Art/通称「PSA」)と共同で、「新文化プロデューサー」プロジェクトの第3弾となる「劇場」を開幕。翌日には、上海のインディペンデント書店「BANANAFISH」にて、マガジン『CHANEL Arts & Culture Magazine Vol.1』のローンチイベントも開催された。本インタビューはそのローンチ当日に行われたものである。

 アジアをはじめ世界各地で文化支援のネットワークを広げるシャネル文化基金。なぜいま、「文化の未来」に投資するのか。同基金設立の背景やミッション、CHANEL Next Prizeの意義、そして世界中の文化芸術機関とのパートナーシップなどを通じて、ピールは「創造の自由」とは何かを語ってくれた。

フィランソロピックな形式で文化芸術を支援する

──まず、シャネル文化基金を設立した背景やそのミッションを教えていただけますか?

 この基金のミッションは、シャネルの100年にわたる伝統を継承・発展させていくことにあります。というのも、ガブリエル・シャネル自身が非常に熱心なアートのパトロンであり、彼女はイーゴリ・ストラヴィンスキー(作曲家)やセルゲイ・ディアギレフ(バレエ・インプレサリオ)といった、商業的ではない非常に革新的な芸術家たちの活動を支援してきたからです。

ガブリエル・シャネル、ラ・パウザにて 1938
Photo Roger Schall © Schall Collection

 私がシャネル アーツ カルチャー & ヘリテージ部門の責任者として考えたのは、そうした芸術の「友」としての伝統を、現代においていかに拡張できるかということでした。アーティストにとっての究極の贅沢とは、時間と空間、そして制作に必要なリソースを得ることだと考えています。

 ほかの多くのブランドが成功させているように、自前の美術館を開設するという選択肢もありましたが、私たちはあくまでも支援者として、世界でもっとも優れた機関やアーティストと協力し、彼らが自分たちの限界を超えていけるようなパートナーシップの構築を目指してきました。

 中国・上海の上海当代芸術博物館(PSA)、香港のM+、韓国のアートソンジェセンター、ドイツ・ベルリンのハンブルガー・バーンホフなど、現在では15ヶ国にアートパートナーを擁しています。また、隔年で実施しているCHANEL Next Prizeもそのひとつで、今年で第3回を迎えました。

 そのほかにも、今年創刊した『CHANEL Arts & Culture Magazine Vol.1』や、現在第5シーズンを迎えているポッドキャストなど、様々な取り組みを通じて、アーティストが創造性を発揮できる環境を、フィランソロピック(非営利・公益的)なかたちで継続的に提供しています。

ロー・エスリッジが撮影した『CHANEL Arts & Clture Magazine Vol.1』の表紙
Credit: Roe Ethridg. Statue bust of Gabrielle Chanel made by Jacques Lipchitz in 1921

──どのようにして協力する機関やアーティストを選定しているのでしょうか?