フェルメールを予習しよう。「図学」で読み解くフェルメール鑑賞ガイド
17世紀オランダ絵画を代表する画家ヨハネス・フェルメールの傑作を中心に、マウリッツハイス美術館所蔵の名品を紹介する「フェルメール《真珠の耳飾りの少女》展 17世紀オランダ絵画の名品、奇跡の再来日」が大阪中之島美術館で開催される。会期は8月21日〜9月27日。展覧会に先立ち、フェルメールを図学の観点から読み解き、深くその作品世界を知ることができる予習方法を、図学研究者の佐藤紀子に教えてもらった。 ※8月21日24時まですべての方に全文お読みいただけます

時代を超えて多くの人々を惹きつける、ヨハネス・フェルメール(1632〜75)の作品群。このたび大阪中之島美術館で開催される「フェルメール《真珠の耳飾りの少女》展 17世紀オランダ絵画の名品、奇跡の再来日」(8月21日〜9月27日)でも、事前チケットが早々に完売するなど非常に高い関心を集めている。展覧会へ足を運ぶのが難しい方や、鑑賞前にしっかり理解を深めておきたいと考えている読者も多いはずだ。
そこで本稿では、これまで多く語られてきたフェルメールの「光の描写」や「モチーフの選択」とは異なる視点から、図学を研究している佐藤紀子にお話をうかがった。フェルメールが画面の中に仕掛けた空間の裏側を読み解く予習ガイドをお届けする。
「図学」とは? 絵画を「図法」で読み解く面白さ
本来、人間は目の前の3次元世界をそのまま他人と共有することはできない。それを共有するために、平面の上に「約束事」として3次元世界を置き換え、洗練させてきた営みの総体が「図学」である。つまり図学とは、人間が「ものの見方」そのものを構築してきた歴史にほかならない。
この図学は、3次元の立体的な空間を2次元の平面上に表現するための技術と法則を扱う学問であり、その裾野は広い。現代の3DCGレンダリングや建築設計のCAD(キャド)に使われる各種の投影図法のほか、絵画で用いられる「透視図法(遠近法)」もこの図学に含まれる。
そんな図学の視点をもって絵画を鑑賞することには、大きく2つの面白さがある。1つ目は、作品の画面の構造を客観的に読み解き、画家が仕掛けた「空間のからくり」を解明できる点だ。どこに視線の中心が置かれ、どのように奥行きが演出されているのかを分析することで、新しい鑑賞アプローチが可能になる。
2つ目は、制作における画家の葛藤と試行錯誤のドラマが見えてくる点だ。フェルメールも最初から完璧な図法で描いていたわけではない。試行錯誤を重ねながら自分なりの作図技法を確立していったストーリーが、時代ごとの作品の構図を追いかけることで、画面から浮かび上がってくる。
わたしたちが日常的にスマートフォンで写真を撮るとき、様々な位置からレンズを向けるように、フェルメールもまた「仮想の視点(仮想の眼)」を設定して絵を描いていた。昔のアナログカメラであれば、ファインダーをのぞく自身の視野とトリミングされた画角が直結していたが、自分の目線とは別の角度から撮影することが一般的な現代のわたしたちと同様に、フェルメールも透視図法を用いながら架空の視点を設定していたのである。

この「仮想の眼」とは、画家自身がキャンバスを前にして描いているあいだ実際に立ち続けていた位置ではなく、「ここから見たら良い構図になる」と画家が意図的に設定した視点のことである。わたしたちがカメラの視点を選ぶように、フェルメールもまた「仮想の眼」を配置し、描き出す空間を自在に切り取っていたのだ。
















