ミュージアムの「外国人二重価格」は誰を救うのか? 価格差だけでは終わらない、本当に問われていること
国立の美術館・博物館で、訪日外国人を対象に入館料を上乗せする「二重価格」の導入が検討されている。背景にあるのは交付金依存率の低下と収益増加の必要性だ。いっぽうで、誰を「外国人」とみなすのか、どのように本人確認を行うのかといった実務上の難題に加え、文化施設の公共性と公平性をめぐる議論も避けられない。本稿では、文化政策や博物館制度の専門家である太下義之氏、瀧端真理子氏の2人に話を聞き、制度導入の狙いと論点、海外事例や代替策を手がかりに、日本のミュージアムにとって現実的な選択肢を考える。

なぜいま「二重価格」なのか──国からの強いプレッシャー
日本に11ある国立の美術館・博物館。これらの運営に対して、国から大きなプレッシャーがかかっている。
財務省は昨年11月11日、財政制度等審議会・財政制度分科会に、国立博物館・美術館の財務状況に関する資料を公開した(*1)。そのなかでは、国立ミュージアムは全体的に公費収益に対して入場料収入が不十分であること、国立美術館は7割以上の館が交付金依存率が5割を超えていることが指摘されている。人口減少社会において、「将来世代の負担を軽減するためには、法律を見直し、現在の受益者から適切な入場料を徴収し、サステイナブルな収益構造にしていく必要」があるというのが、財務省の見解だ(ここで「法律を見直し」とあるのは、そもそも博物館法では、公立博物館は入場料を徴収しないことが原則となっているからだ)。
財務省はこの資料のなかで、訪日外国人を対象とした価格設定、いわゆる「二重価格」の導入にも触れている。そこでは経常費用を入場料収入で賄う場合の入場料として、次のような試算が示されている。

二重価格が注目される理由としてしばしば挙がるのが訪日客の増加だ。コロナ禍からのインバウンドの回復に伴う対応として、一部の大型ミュージアムは多言語対応などのコストが増える局面を迎えている。また近年、展示や保存、施設維持のコストは上昇し続けるなか、それらを税金(交付金)だけでは賄いきれなくなっている現実もある。
このような状況で、「受益者負担」の観点から訪日外国人の料金を上げることは、一見すると合理的に見える。実際、財務省の試算では、外国人料金を大きく引き上げれば収支改善が見込めるとする考えが透けて見える。
ただし、ここで問うべきなのは「理屈として成り立つか」だけではない。制度を導入したとき、現場は回るのか。そもそも来館者は減らないのか。そして、その価格に見合う体験を提供できるのか。議論はすぐに複雑さを帯びる。

