EXHIBITIONS
廣瀬智央「From Sky to Sky」
小山登美夫ギャラリー前橋で、廣瀬智央による個展「From Sky to Sky」が開催されている。
開催に際して、廣瀬は本展について次のように述べている。
「2013年、前橋市に誕生した現代美術館・アーツ前橋の開館を機に、コミッションワークとして生まれたのが屋上の看板作品《遠い空、近い空》です。この作品は、前橋市の母子支援施設に暮らす子供たちと、半年間にわたり空の写真を交換し合う対話のなかから生まれました。そこから前橋との深い縁が始まり、やがてグループ展『表現の森』(2016)への参加や、個展『地球はレモンのように青い』(2020)の開催へとつながっていきます。現在も19年間にわたり続ける母子支援施設とのワークショップのため、毎年前橋を訪れて活動を重ねています。今回の小山登美夫ギャラリー前橋(まえばしガレリア2)での展覧会では、原点へと立ち戻り、前橋とのつながりを結び直しながら、私が探究してきた『空』と『青』を軸に、未発表作と新作を中心とした展示を行います。
1991年、日本からイタリアへ渡った私は、初めて空に向けてシャッターを切った瞬間に『空』の作品シリーズを歩み出しました。それ以来30年以上にわたり、私は『青』と『空』をめぐる長い旅を続けています。それはたんなる色や風景の再現ではなく、感覚と存在を深く開いていくための実践にほかなりません。
『青』は、顔料や紙の表面に確かに息づきながら、同時に手の届かない深遠へと私たちを誘います。海や宇宙の記憶を呼び覚まし、沈潜と解放を一度に経験させる色。私はその青を通して、有限の身体が無限の広がりへと触れる瞬間を描き出そうとしてきました。
『空』は、私が撮影し、描き、構成するイメージのなかに現れます。しかしそれはたんなる風景ではなく、私たちをつねに包み、同時に通り抜けていく場そのものです。そこでは個と個が交わり、世界と私が境を失う。仏教の『空性』(*)が示すように、すべての存在は相互依存の網の目のうちに立ち現れます。『青』と『空』は呼応し合い、青は空の深みを物質としてここに呼び寄せ、空は青を色彩の次元から解き放ち、超越的な広がりへと導く。両者は、物質と非物質、有限と無限、想像と現実を架橋する通路なのです。
この展覧会では、青と空が交差する瞬間、有限と無限、可視と不可視が触れ合い、観る人が青に包まれ、空に開かれながら、自らの身体と感覚を越境していく経験の共有を願っています。それは私自身が作品を通じて幾度となく求めてきた『世界と新たにつながる方法』でもあります。
展覧会タイトル『From Sky to Sky(空から空へ)』は、2008年に刊行した空の写真集『Viaggio』に寄せられた、美術批評家アンジェロ・カパッソ氏による深遠なエッセイの題名です。25年ぶりにその文章を読み返し、私の歩みや思索をすでに見事に言い当てていたことに気づき、改めて深い共感を覚えました。その響きこそ、この展覧会にふさわしいものと考え、タイトルとして掲げるに至りました。
*──私は仏教を宗教としてではなく、生きるための智慧と捉えています。仏教でいう『空性』は、この世のどんなものにも、永遠不変の『本体』や『固有の性質』は存在しないという考え方です。すべてのものはほかの多くのものに依存して存在しており、それ自体が独立して存在するものではないとされます。物事に固定的な『実体』があると信じ、『自分はこれである』と物事に固執せず、変化を受け入れる柔軟な心を持つことが、物事への固定観念や執着から解放される知恵とされています」(展覧会ウェブサイトより)。
開催に際して、廣瀬は本展について次のように述べている。
「2013年、前橋市に誕生した現代美術館・アーツ前橋の開館を機に、コミッションワークとして生まれたのが屋上の看板作品《遠い空、近い空》です。この作品は、前橋市の母子支援施設に暮らす子供たちと、半年間にわたり空の写真を交換し合う対話のなかから生まれました。そこから前橋との深い縁が始まり、やがてグループ展『表現の森』(2016)への参加や、個展『地球はレモンのように青い』(2020)の開催へとつながっていきます。現在も19年間にわたり続ける母子支援施設とのワークショップのため、毎年前橋を訪れて活動を重ねています。今回の小山登美夫ギャラリー前橋(まえばしガレリア2)での展覧会では、原点へと立ち戻り、前橋とのつながりを結び直しながら、私が探究してきた『空』と『青』を軸に、未発表作と新作を中心とした展示を行います。
1991年、日本からイタリアへ渡った私は、初めて空に向けてシャッターを切った瞬間に『空』の作品シリーズを歩み出しました。それ以来30年以上にわたり、私は『青』と『空』をめぐる長い旅を続けています。それはたんなる色や風景の再現ではなく、感覚と存在を深く開いていくための実践にほかなりません。
『青』は、顔料や紙の表面に確かに息づきながら、同時に手の届かない深遠へと私たちを誘います。海や宇宙の記憶を呼び覚まし、沈潜と解放を一度に経験させる色。私はその青を通して、有限の身体が無限の広がりへと触れる瞬間を描き出そうとしてきました。
『空』は、私が撮影し、描き、構成するイメージのなかに現れます。しかしそれはたんなる風景ではなく、私たちをつねに包み、同時に通り抜けていく場そのものです。そこでは個と個が交わり、世界と私が境を失う。仏教の『空性』(*)が示すように、すべての存在は相互依存の網の目のうちに立ち現れます。『青』と『空』は呼応し合い、青は空の深みを物質としてここに呼び寄せ、空は青を色彩の次元から解き放ち、超越的な広がりへと導く。両者は、物質と非物質、有限と無限、想像と現実を架橋する通路なのです。
この展覧会では、青と空が交差する瞬間、有限と無限、可視と不可視が触れ合い、観る人が青に包まれ、空に開かれながら、自らの身体と感覚を越境していく経験の共有を願っています。それは私自身が作品を通じて幾度となく求めてきた『世界と新たにつながる方法』でもあります。
展覧会タイトル『From Sky to Sky(空から空へ)』は、2008年に刊行した空の写真集『Viaggio』に寄せられた、美術批評家アンジェロ・カパッソ氏による深遠なエッセイの題名です。25年ぶりにその文章を読み返し、私の歩みや思索をすでに見事に言い当てていたことに気づき、改めて深い共感を覚えました。その響きこそ、この展覧会にふさわしいものと考え、タイトルとして掲げるに至りました。
*──私は仏教を宗教としてではなく、生きるための智慧と捉えています。仏教でいう『空性』は、この世のどんなものにも、永遠不変の『本体』や『固有の性質』は存在しないという考え方です。すべてのものはほかの多くのものに依存して存在しており、それ自体が独立して存在するものではないとされます。物事に固定的な『実体』があると信じ、『自分はこれである』と物事に固執せず、変化を受け入れる柔軟な心を持つことが、物事への固定観念や執着から解放される知恵とされています」(展覧会ウェブサイトより)。
