2026.8.1

「蒐集がアートになるとき」(京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA)レポート。「民具」はいかにして現代美術と交差するのか

京都にある京都市立芸術大学ギャラリー@KCUAで、民具ラボによる企画展「蒐集がアートになるとき」が開催されている。会期は8月23日まで。会場の様子をレポートする。

文・撮影=三澤麦(編集部)

「蒐集がアートになるとき」の展示風景。手前は身体0ベース運用法(安藤隆一郎)による《木の岐のすすめ》(2026)
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 京都にある京都市立芸術大学ギャラリー@KCUAで、民具ラボによる企画展「蒐集がアートになるとき」が開催されている。会期は8月23日まで。

 NPO法人アーツセンターあきたによる「民具ラボ」(民具とアートとアーカイブの研究所)は、研究者や表現者、ボランティアらが集い、ネットワーク型で研究に取り組むプロジェクト。その活動のひとつとして2024年に始動したのが、「1/1000 油谷コレクション」の立ち上げだ。秋田市在住の蒐集家・油谷満夫(1934〜)が築いた膨大な収集品の「分類整理」、そして新たな活用方法の模索を続けている。

 油谷は70年以上にわたり古い生活用品などを集め、じつに50万点におよぶコレクションを形成してきた。秋田の地で蒐集と公開を精力的に行ってきたほか、2012年には「特定非営利活動法人 油谷これくしょん」を設立。現在も同市を拠点に資料の整理・保存に取り組んでいる。

 コレクションは、かつて秋田で使われていた農具から現代の玩具までと多岐にわたる。しかし、民具ラボの活動に携わる國政サトシ、岩根裕子によると、これまでの取り上げられ方は「昭和レトロ」というひと言の文脈で完結してしまいがちであったという。

「蒐集がアートになるとき」の展示風景

 本展は、油谷の蒐集人生にスポットを当てるとともに、その膨大な「もの」たちを起点にアーティストや研究者が介入。民具と美術、そしてアーカイブが交差する新たな場を立ち上げる試みだ。民俗資料は当時の暮らしを知る「生の資料」としての価値を持ついっぽうで、昨今はミュージアムの収蔵庫ひっ迫や資料の廃棄問題が各地で浮上している。そうした時代において、この膨大なコレクションが個人の情熱によって秋田に残されている意味は大きい。集められた「もの」たちは、美術の視点と出会うことでどのような新しい価値を生み出すのだろうか。

圧倒的なコレクションと50年の蒐集活動を目の当たりにする

 本展に参加するのは、アウト・オブ・民藝(軸原ヨウスケ、中村裕太)、イタイミナコ、岩根愛、内田聖良、國政サトシ、身体0ベース運用法(安藤隆一郎)、服部浩之、藤浩志、山岸耕輔・瀬戸彩花。秋田でのレジデンス経験者や油谷とゆかりのある表現者など、9組の作家が名を連ねている。本展のコンセプトにあわせて展開された多様なアプローチのなかから、いくつかピックアップして紹介したい。

尾花賢一によるメインビジュアル
2回吹き抜けからの展示風景。民具ラボによって分類整理されてきた「1/1000 油谷コレクション」がずらりと並ぶ

 会場に足を踏み入れると、まず目を奪われるのが、ギャラリーの壁面に沿って奥へと広がる蒐集品の数々だ。独特のリズム感を持って陳列された品々を眺めるだけでも、コレクションの幅広さに圧倒される。

 この展示を手掛けたのは、国内外で活動する美術家でありアーツセンターあきた理事長も務める藤浩志だ。おもちゃの分類や分解、集積を通じたプロジェクトで知られる藤は今回、民具ラボのメンバーとともに、秋田で整理されてきた「1/1000 油谷コレクション」をこのギャラリー空間に再配置した。目の前に広がる「もの」の群れを前にすると、鑑賞者の内側には「これはいったいなんなのか」「自身の視点からどう捉えることができるか」といった、能動的で自由な問いが自然と湧き上がってくる。

服部浩之と岩根愛による《油谷さんの声が聞こえてくる》(2026)

 壁面を進むと、キュレーターの服部浩之と写真家の岩根愛によるプロジェクト《油谷さんの声が聞こえてくる》(2026)が掲示されている。倉庫の様子や蒐集品の写真、そして油谷自身の言葉。50万点の「もの」を集め続けてきた油谷の「蒐集の哲学」が、言葉とビジュアルを通して立体的に立ち現れる。なお、これは2022年から服部が続ける油谷へのインタビューの記録からの抜粋であり、9月末には書籍『蒐集がアートになるとき When Collecting Becomes Art』として刊行を予定している。会場では、その予告編であるZINEの試し読みや購入も可能だ。

油谷満夫の人物像と、過ごしてきた時間や場所にもせまる

 ギャラリー中央で存在感を放つ垂れ幕は、アウト・オブ・民藝(軸原ヨウスケ、中村裕太)による《アウト・オブ・民藝のユートピアだより|油谷満夫の蒐集曼荼羅》(2026)だ。「民藝」の周辺をリサーチするふたりは、2020年に秋田のギャラリーBIYONG POINTで展覧会を開催した際に、油谷と出会ったという。

奥は《アウト・オブ・民藝のユートピアだより|油谷満夫の蒐集曼荼羅》(2026)

 本展に向けて油谷の自宅で行われたインタビューの音声を、会場のQRコードから聴くことができる。前後編で1時間ほどあるのだが、その声と人生観に耳を傾けながら、油谷が掲げる《人生観図》(1985)や会場に並ぶ品々を読み解くこともおすすめしたい。

山岸耕輔・瀬戸彩花の《めまいのなかに - 秋ノ宮倉庫 - 》(2026)
イタイミナコによるパフォーマンス映像《てどり》(2026)。周辺に置かれるのは、油谷コレクションを保管している段ボールの数々

 会場奥では、油谷の倉庫を映像と3Dデータで記録した山岸耕輔・瀬戸彩花による《めまいのなかに - 秋ノ宮倉庫 - 》(2026)が上映されている。さらに興味深いのは、参加作家のなかで唯一油谷との接点がなかった美術家・イタイミナコの試みだ。イタイは、油谷との対話や蒐集活動の様子を「自らの身体に憑依させて再現する」パフォーマンス映像を発表。他者を自身の身体に落とし込む独特のコミュニケーションを通じ、油谷の活動を丁寧に咀嚼しようとする姿勢が伝わってくる。

民具ラボの活動に携わる國政サトシによる《生活業》(2026)。食品や日用品の包装を用いて半纏を制作した
内田聖良は、民具ラボと油谷の活動をもとに物語《バーチャル民具講》(2026)を制作した。鑑賞者はQRコードより「バーチャル民具」を持ち帰ることができる

 会場にはこのほかにも、各作家がそれぞれの視点から油谷の足跡とコレクションを受け止め、新たな表現へと昇華させた思考の痕跡が並ぶ。

 戦前に生まれ、激動の消費社会を生き抜いてきた油谷満夫の蒐集活動は、庶民の生活史の記録でもある。「もの」そのものの雄弁さを大切にする油谷のコレクションには、いまだ解き明かされていない豊かな「余白」が残されているとも感じられる。それらの余白がアートと出会ったとき、どんな新しい視点が生まれるのか。本展を起点として、今後さらなる展開が広がっていくことに期待したい。

 なお、会期中にはワークショップや油谷本人によるトークイベントも実施されるため、参加の際はギャラリーのウェブサイトよりチェックしてほしい。