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2026.7.15

「ふたりのアフリカ、手仕事の宇宙」展(世田谷美術館)開幕レポート。暮らしのなかで育まれた「もうひとつのアフリカ」

世田谷美術館で、「ふたりのアフリカ、手仕事の宇宙――人類学者・川田順造と陶芸作家・小川待子のコレクション」が開幕した。人類学者・川田順造(1934〜2024)と陶芸作家・小川待子(1946〜)が収集した約350件の手仕事を通して、西アフリカの豊かな造形文化を紹介する本展をレポートする。

文・撮影=王崇橋(編集部)

展示風景より
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 世田谷美術館で、「ふたりのアフリカ、手仕事の宇宙――人類学者・川田順造と陶芸作家・小川待子のコレクション」が開幕した。会期は9月6日まで。

 本展は、人類学者・川田順造(1934〜2024)と陶芸作家・小川待子(1946〜)が、1970年代に西アフリカ・ブルキナファソ(当時オート・ヴォルタ)を中心とするフィールドワークと生活のなかで収集し、その後も半世紀にわたり育み続けてきたコレクションを紹介するもの。ひょうたんの器や草編みのかご、染織、土器、木彫、仮面、楽器、絵画など約350件を通して、サバンナに根ざした豊かな造形文化を紹介する。

 1980年代にその一部が公開されたことはあったものの、600件を超えるコレクション全体が本格的に調査・紹介されるのは今回が初めてとなる。民族資料として分類・解説するのではなく、川田の言葉と小川の美意識という視点を手がかりに、「手仕事」の背後にある世界観を読み解こうとする展覧会だ。

 担当学芸員の塚田美紀は、展覧会実現の経緯について、「当初は当館の現代美術コレクションと組み合わせた展示も考えていました。しかし実際にご自宅を拝見すると、まだ世の中にほとんど知られていない膨大なコレクションがあることがわかり、まずは愚直に調査し、その全体像を世に紹介することがいちばん大切だと考えました」と説明した。

人類学者・川田順造と陶芸作家・小川待子が収集した約350件を通して、サバンナに根ざした豊かな造形文化を紹介する本展

川田順造の言葉を手がかりに展覧会を構成

 本展の構成にあたって大きな手がかりとなったのが、川田の代表的エッセイ『サバンナの博物誌』(1979、新潮選書)だ。塚田は、「本を教科書のように読み込み、そこに描かれたものを実際のコレクションと照らし合わせながら調査を重ねました。川田さんの言葉を導きの糸として展示構成を考えています」と語る。また、2024年に川田が逝去した後も、小川待子が全面的に調査と展示制作に協力し、自身の体験や記憶を数多く語ったことが、本展の重要な基盤となったという。

 イントロダクションでは、「赤・白・黒」という3つの色から展示が始まる。川田はこれらを「文化の三原色」と捉え、文化や地域を超えて人々が特別な意味を託してきた色として論じている。本展では、赤土や草木による染色、革製品、草編みなどを通して、その思想を視覚的に紹介。ひょうたんを用いた儀礼用太鼓やバオバブの実なども並び、サバンナの自然環境と人々の営みとの結びつきが浮かび上がる。

イントロダクション「赤・白・黒」の展示風景より、赤土や草木による染色、革製品、草編みなどを紹介している

 第1章「アフリカとの出会い」では、1960年代の川田とアフリカとの出会い、そして結婚後に小川と旅した北アフリカ・マグレブ諸国での経験を紹介する。なかでも、小川が旅先で描いたスケッチの原画が初公開される点は本章の見どころのひとつだ。これらは後に川田の紀行文「マグレブ紀行」の挿絵として用いられたもので、陶芸家として知られる小川のもうひとつの創作の側面を知ることができる。

「ひょうたん」「草を編む」「土器をつくる」といったテーマごとに構成される第2章「サバンナに暮らす」

 第2章「サバンナに暮らす」では、3年半に及ぶブルキナファソでの生活を軸に、「ひょうたん」「草を編む」「土器をつくる」といったテーマごとに展示が構成される。大小さまざまなひょうたんの器や楽器、精巧な草編みのかごや団扇、素焼きの土器、真鍮製品など、生活のなかから生まれた造形が一堂に並ぶ。

精巧な草編みのかごや団扇が並ぶ
素焼きの土器、真鍮製品なども一堂に展示されている

 また、本章では会場全体に音が流れていることにも気づかされる。これは川田が約20年にわたって現地で収録した歌や太鼓、口承による語りなどの音源であり、1983年に発表したレコード『サバンナの音の世界』から選ばれたものだ。文字によらないコミュニケーションや口頭伝承を長年研究してきた川田の関心を反映した演出であり、意味は理解できなくとも、声やリズムがもつ力強さを身体的に体験できる空間となっている。

布やビーズに宿る、美意識と歴史

 第3章「アフリカの色とかたち」では、染織、革製品、ビーズを紹介する。なかでも圧巻なのは、多彩な染織作品の展示だ。約40年前にはひょうたんやかごの一部が紹介されたことはあったが、今回の調査によって膨大な布のコレクションが確認され、その魅力が初めて本格的に紹介されることになったという。藍染めや泥染めなど、西アフリカならではの力強い色彩が空間を彩る。

染織、革製品、ビーズを紹介する第3章「アフリカの色とかたち」
藍染めや泥染めなど、西アフリカならではの力強い色彩が空間を彩る

 展示には、川田の文章も随所に掲出される。一枚の布を切らずに身体へまとい、風をはらむように身につける文化について綴った一節からは、人類学者としてだけでなく、美術やデザインへの鋭敏な感覚もうかがえる。塚田は、「ファッション・デザイナーの三宅一生とも親交があった川田さんの芸術的な視点の豊かさがよくわかります」と話す。また、布やビーズの選定には小川自身の審美眼も色濃く反映されており、人類学的関心と作家としての感性、その双方が交差するコレクションであることが見えてくる。

100点を超える作品が密度高く配置される第4章「海の見える家――ふたりのアフリカ」
「イマジネーションの場」として新たに再構成されたインスタレーション

 そして最後を飾る第4章「海の見える家――ふたりのアフリカ」は、本展最大の見どころだ。100点を超える仮面や木彫、椅子、楽器、絵画などが密度高く配置され、長年にわたり川田と小川が暮らしのなかで育んできた空間を想起させる。とはいえ、それは自宅の再現ではない。小川自身がディレクションを手がけ、「イマジネーションの場」として新たに再構成されたインスタレーションとなっている。

仮面や木彫、椅子、楽器、絵画などが集結する

 塚田は、「アフリカのものを分類して見せるだけではなく、ご夫妻が日本へ帰ってからも、それらとともに暮らし続け、想像力を育んできた空間そのものを伝えたかった」と語る。約50年にわたるふたりの生活とまなざしが織り成した「手仕事の宇宙」は、アフリカ文化への理解を深めるだけでなく、ものとともに生きることの豊かさをあらためて問いかけている。