2026.4.24

「波板と珊瑚礁 - 建築を遠くに投げる八の実践」(WHAT MUSEUM)開幕レポート。模型を通じて建築家たちの思考の「断片」を垣間見る

東京・天王洲アイルのWHAT MUSEUMで、建築を問い直すグループ展「波板と珊瑚礁 - 建築を遠くに投げる八の実践」が開幕した。会期は9月13日まで。会場の様子をレポートする。

文・撮影=三澤麦(編集部)

GROUP「都市と眠り」(2026) 映像=稲田禎洋 撮影=編集部
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 東京・天王洲アイルのWHAT MUSEUMで、建築を問い直すグループ展「波板と珊瑚礁 - 建築を遠くに投げる八の実践」が開幕した。会期は9月13日まで。なお、本展では外部キュレーターとして、建築コレクティブ・SUNAKIメンバーの砂山太一が参画する。

 WHAT MUSEUMの建築倉庫では、建築家が制作した800点以上の建築模型を保管しており、展示などを通じて、模型に込められた建築的思考の発信を行ってきた。昨年3月のリニューアルオープンでは、新たに体験型スペースも増設されている。

建築倉庫の建築模型展示 Photo by Katsuhiro Aoki

 本展では、模型をたんなる完成予想の縮尺物としてではなく、概念や思考の断片を担うメディウムとしてとらえ、その拡張的な側面に焦点を当てる。効率や喫緊の課題解決が求められる現代においては、建築もその例外ではない。模型を通じて長い時間軸のなかで環境や社会との関係を構想することで、建築的思考の射程をあらためて問い直すものとなっている。

 出展作家は、ALTEMY、Office Yuasa、ガラージュ、GROUP、DOMINO ARCHITECTS、畠山鉄生+吉野太基+アーキペラゴアーキテクツスタジオ、平野利樹、RUI Architects。

RUI Architects「Prop」(2026) Photo by Keizo KIOKU
平野利樹「東京箱庭計画」(2026) Photo by Keizo KIOKU

都市のなかにある建築と人の関係性に目を向ける

 ふたつのフロアに渡って展開される建築家たちの試みから、いくつかの展示をピックアップして紹介したい。

 板坂留五が代表を務めるRUI Architectsは、街を観察するための道具「プロップ(小道具)」として建築模型を提示。自身が違和感を覚えた会場近隣の場所を模型としてトレースし、建築物の相互関係や街の変遷をリサーチしている。その関係性から想起されるストーリーを、写真とテキストを用いてナラティブに落とし込み、街を見つめる目に文脈を与えている。

RUI Architects「Prop」(2026)。会場では5つの場所を取り上げ、模型や写真といった様々な視点からその場所について観察することができる Photo by Keizo KIOKU
RUI Architects「Prop」(2026)。模型を所定の位置から撮影することで、メンバーたちが注目したポイントや建築同士の関係性が浮かび上がってくる Photo by Keizo KIOKU

 建築コレクティブ・GROUPは、都市空間と人間の生理現象である「眠り」の関係性に着目。展示空間には、渋谷にあるマクドナルドの一席、LEDディスプレイに映し出される図面が置かれ、奥の展示室では「都市と眠り」に関する識者へのインタビュー音声が流れている。都市は人間のバイオリズムの何を受容し、何を排除しているのか。それを浮き彫りにするGROUPのリサーチは、都市に生きる私たちが無意識に感じている違和を表出させるもので、非常にクリティカルな視点であると感じた。また、見る者の想像力を刺激する空間構成にも強く惹きつけられた。

GROUP「都市と眠り」(2026)。マクドナルドの一席は、都市のなかにある最小の眠りの場として提示されている 映像=稲田禎洋 Photo by Keizo KIOKU
GROUP「都市と眠り」(2026)。都市空間の光や喧騒のなかで眠ることとはいったいどういうことなのか。奥の展示室では識者によるインタビュー音声も流れている 映像=稲田禎洋 撮影=編集部

建築的思考を生かした、大胆な発想も

 個人の好奇心から出発したユニークな作品も目を引く。空港のターミナルから飛行機に搭乗する際に渡る「搭乗橋」。小さな建築とも、単一の機能を持つプロダクトともいえるこの構造体が気になった経験はないだろうか。DOMINO ARCHITECTSの大野友資は、単一目的のために特化したこの特異な構造体への興味から、搭乗橋が4つ連結した「PULP FICTION (jetway)」を制作した。本来の役割を離れ、どこにもつながることができない架空の浮遊空間は、見知った構造が想像のなかで新たな体験を生み出す装置となる高揚感を生み出していた。

DOMINO ARCHITECTS「PULP FICTION (jetway)」(2026)。模型はすべて手作業で、長い時間をかけて制作された Photo by Keizo KIOKU
DOMINO ARCHITECTS「PULP FICTION (jetway)」(2026) 撮影=編集部

 建築研究者の平野利樹は、生成AIを用いた「東京箱庭計画 - A Hakoniwa Plan for Tokyo」を提示した。東京湾のゴミ埋立地に位置する「海の森公園」の敷地に、新たな都市計画を提案するものだ。

 特徴的なのは、この計画に「箱庭療法」の手法を取り入れている点にある。設計において必要な条件を一度すべて取り払い、極めてパーソナルな領域から建築都市を立ち上げる試みとなっている。

平野利樹「東京箱庭計画」(2026)。箱庭療法によってつくられたイメージを用いて3次元モデルを生成。それをさらに生成AIに読み込ませて建築的な意図を付加していくことで、パーソナルな都市空間の提案を行っている Photo by Keizo KIOKU
平野利樹「東京箱庭計画」(2026) Photo by Keizo KIOKU

 本展で提示されているのは、建築として結実する手前の「思考」や「リサーチ」、あるいは「個人の関心」だ。これらが将来、実際の建築にどう生かされていくのか。そのプロセスを想像しながら会場を巡るのも面白い。

 私たちが普段何気なく利用している建築が、いかに多層的な思考の上に成り立っているのか。本展は、世界を異なる視点、または異なる時間軸で見つめるための新たなきっかけを与えてくれるだろう。