レンゾ・ピアノが建築設計。北スペインの現代アートセンター「セントロ・ボティン」が実践する環境と芸術の新しい関係とは
大西洋に面したスペイン北部の地方都市サンタンデールに位置するセントロ・ボティン(Centre Botín)は、芸術を通じて「創造性」を社会全体に拡張することを目的としたユニークな現代アートセンターだ。レンゾ・ピアノによる建築や国際的な展覧会プログラムを通じて、環境・地域・文化の関係を再編する試みを続けてきた。本稿では、3月28日に開幕した毛利悠子のスペイン初個展「Entanglements」を契機に、このユニークな地方型現代アートセンターの国際性と取り組みを読み解く。

ボティン財団の使命──文化から水・農業までを結ぶ視野
ボティン財団は、1964年にスペインの銀行家マルセリーノ・ボティン・サンス・デ・サウトゥオラとその妻カルメン・イジェラによって設立された。北スペインに位置するカンタブリア州の社会的発展を目的に発足し、今日はスペイン全土だけでなくラテンアメリカにも活動範囲を広げている。芸術文化、教育、科学、農村開発、水資源ガバナンスまで、幅広い分野でプログラムを展開し、創造性を核とした社会的・文化的・経済的価値を生み出すことを使命としてきた。
この創造性は、たんに作品をつくるための芸術的能力を指すものではない。社会の包括的な発展に寄与する創造的才能を見出し育てるために、社会の複雑さを洞察し、世界における新たな関係性を発想するための思考の土壌そのものとされている。セントロ・ボティンはこの財団の理念を体現する場として2017年に開館し、創造性の開発を目的とした芸術センターとして財団の最重要プロジェクトと位置づけられている。
具体的には、同館の教育プログラムは財団とイェール大学「Emotional Intelligence Center」の共同研究を基盤に、来館者の「情動知能」、すなわち感情を認識・調整し他者と関係づける能力と、創造性を培うことを目的とする。アーティストが主導するワークショップから家族向けイベントに至るまで、芸術体験が気づきや想像力の跳躍を促すように綿密に設計されているという。
また、その展覧会事業も国際的アーティストの個展だけでなく、財団が1993年から行っている「アート・グラント」(アーティストを対象にした助成制度)の成果展や、国立美術館等との共同研究ベースの企画、ドローイングの歴史を省みるアプローチなど、多様な形式を通じて創造性の幅を照射する。作品は単体で閉じることなく、地域の自然環境や都市の記憶と交差しながら、鑑賞者に新たな視点を開く媒介として提示される。グラント受賞や展覧会を開催したアーティストらによる現代美術作品の収集も拡充中だ。



