「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2026」見どころレポート
京都の春の風物詩となっている芸術祭「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2026」が開幕。14回目となる今年は「EDGE」をテーマに、世界8ヶ国から13組が参加する今回のハイライトをお届けする。
文・撮影=橋爪勇介(編集部)

レボハン・ハンイェ「記憶のリハーサル」(東本願寺)

写真にとどまらず、アニメーション、インスタレーション、テキスタイルなど幅広い作品を手掛ける南アフリカ出身のレボハン・ハンイェ。
東本願寺の大玄関では、ハンイェにとって日本初の大規模個展となる「記憶のリハーサル」が展開される。展示は「Mosebetsi wa Dirithi」など4つのシリーズで構成。写真、シルエットのカットアウト、ライトボックスを用いたジオラマ、布のパッチワークなど多様なメディウムで展開される作品には、南アフリカ共和国の歴史、亡き母の記憶、そしてポストコロニアルの現実が重層的に絡み合う。


イヴ・マルシャン&ロマン・メフェール「残されるもののかたち」(重信会館)

イヴ・マルシャン&ロマ・メェッフェルは、近代建築の廃墟を大判カメラで撮影した作品で知られるフランスの写真家ユニット。本展「残されるものたち」では、マルシャン&メェッフェルが長年取り組んできた廃墟建築にフォーカスした「 The Ruins of Detroit」「軍艦島」「Les Ruines de Paris(パリの廃墟)」などのシリーズから選ばれた作品が展覧。いまは使われていない昭和初期の建築である重信会館の空間は作品が映し出す廃墟と強く共鳴する。



なおここでは京都で新たに制作したシリーズ「Les Ruines de Kyoto」も展示。AIによって古都を荒廃した廃墟へと変貌させた新作からは、写真が持つ真正性、AIのテクノロジーによって振り回される現代人、建築の儚さ、現実と虚構の境界のあわいが問いかけられる。
福島あつし「灼熱の太陽の下で」(ygion)


2004年に大学を卒業後、高齢者専用の弁当屋で配達員として10年間働き、《ぼくは独り暮らしの老人に弁当を運ぶ》(2019)でKG+SELECT Awardでグランプリを受賞した福島。2018年からは農業に転向し、その様子を写真に収め続けてきた。
「灼熱の太陽の下で」と題した今回の展示では、夏の収穫期を撮影した作品群を展覧。過酷な気候のなかで繰り広げられる農業の現実、そして様々な生き物の生と死のエネルギーが独自の目線で切り取られ、鮮やかに提示される。
柴田早理「DOTOK DAYS」(ASPHODEL)


KYOTOGRAPHIE2025でルイナール・ジャパン・アワードを受賞した柴田早理。本展では、フランス・ランスにあるシャンパーニュ・メゾン「ルイナール」の本拠地ランスに滞在した成果が発表される。
メゾンを囲む畑や森のなかで季節のうつろいを見つめながら、柴田の故郷である富山の記憶と、遠いランスの地が巧みなセルフポートレイトによって結びつけられる。
森山大道(京都市京セラ美術館)


モレイラ・サレス研究所(ブラジル)のチアゴ・ノゲイラがキュレーションする森山大道の大規模回顧展。同展はこれまで、モレイラ・サレス研究所、C/O Berlin( ド イ ツ )、フィンランド写真美術館、フォトグラフィア・エウロペア写真祭(イタリア)、エリゼ写真美術館(スイス)でも開催され、ロンドンのフォトグラファーズ・ギャラリーでの展示はガーディアン紙の「年間最優秀写真展」に選出された。

本展では、『にっぽん劇場写真帖』(1968)を皮切りに、強い色彩を放つ「Pretty Woman」(2017)まで、200点以上の写真を時系列で展示。また100点以上の出版物を展示することで、森山が出版の歴史に寄与してきた歴史も通覧できる構成となっている。
アーネスト・コール「囚われの地」(京都市京セラ美術館)


南アフリカで最初期の黒人フォトジャーナリストのひとりであり、アパルトヘイトの実態を世界に明らかにした最初期の写真集『 House of Bondage(囚われの地)』(1967)で知られるアーネスト・コール。
日本初の大規模個展となる今回は、アパルトヘイトの時代を想起させる「White」「Non White」に分けられた入口が設けられ、その先にコール自身が撮影した写真、雑誌の表紙、そしてコールの個人的なノートを展示。作品はオリジナルの写真集に沿って15のチャプターに分けられており、抑圧的な差別政策を世界に向けて告発した同書の精神をいまに伝える。


ピーター・ヒューゴ「光が降りそそぐところ」(京都市京セラ美術館)


2008年にアルル国際写真祭のディスカバリー賞とKLMポール・ハフ賞の両方を受賞し、12年にはドイツ銀行写真賞のショートリストに選出されたピーター・ヒューゴ。15年にはプリ・ピクテの最終候補に選出されるなど、国際的に高い評価を得ている。
本展では、生と死に対する思索を核とする「光が降りそそぐところ」シ リ ー ズを展示。作家の第一子の誕生と父の死が展示の始めと終わりを結び、20年以上にわたり撮影した人物のポートレイト、風景、静物(作家はこれらもすべてポートレイトと語る)が交差する。
リンダー・スターリング「LINDER: GODDESS OF THE MIND」(京都文化博物館 別館)

イギリスでもっとも影響力があり、型破りなアーティストであるリンダー・スターリング。1970年代後半のパンクシーンから登場した彼女は、写真やフォトモンタージュを大胆に用い、欲望や女性の身体に関する既成概念に挑み、それを再構築してきたことで高く評価されている。
アーティスト本人との綿密な協働のもと構成された本回顧展は、半世紀におよぶ軌跡をたどることができるもの。英国アートシーンにおいてフェミニズムの先駆者として独自の地位を築いてきた彼女の存在を強く裏付けるものとなる。

例えば「Pretty Girls」シリーズ(1977)は、印刷物をコラージュして新たなイメージを生み出す彼女の手法を象徴する作品。タイトルは素材となった成人向けグラビア誌に由来するもの。ポルノグラフィーのモデルたちの目をありふれた家電製品で覆い隠すことで、男性のものとされていた領域を破壊するだけでなく、女性に課されてきた家庭的役割も転覆させた。
タンディウェ・ムリウ「CAMO」(誉田屋源兵衛 竹院の間)、「一如」(出町桝形商店街)
西アフリカで幅広く使用される鮮やかな布「アンカラ」や、東アフリカの「カンガ布」といったテキスタイルの物語から着想を得て、それらの布をキャンバスとして再定義し、称え、記憶するために作品に用いムリウ。今回、KYOTOGRAPHIEのアフリカン・アーティスト・イン・レジデンスとして招聘され、2会場で作品を展示する。

誉田屋源兵衛 竹院の間では、鮮やかなテキスタイルを使い、被写体を背景へと埋没させることで女性のアイデンティティを問いかける「CAMO」シリーズを数多く展覧。作品の女性たちはすべて目を独特のアイウェアで覆っており、そのことによって個性を消し、すべの女性を象徴する存在となっている。

いっぽう出町桝形商店街では、「More Than Half」シリーズを展示。ふたつの文化にまたがるアイデンティティを持つプレイジアン(アフリカンやアフリカン・アメリカンなどの「黒人」とアジア人のミックス)の女性たちにフォーカスした新作が、巨大なバナーとなって商店街を彩る。
ジュリエット・アニュエル「光の薫り」(有斐斎弘道館)


世界を全体的な視点から捉え、写真を通して、風景にひそむ不可視の霊性を追い求めるジュリエット・アニュエル。本展では、ヴァンクリーフ&アーペルとのコラボレーションによって制作した2つのカラー写真のシリーズ、「ダホメの精霊」と「石の感受性」に加えて、新たに制作された映像作品《悠久》を展示。
例えば「石の感受性」では、科学的な知識を地球の内部へと向け、ソルボンヌ大学の鉱物標本コレクションを人物のポートレイトのように撮影。屋久島で撮影した映像作品《悠久》ではスーパー8mmフィルムを使用し、神聖な屋久島の森の苔に覆われた静謐な世界をモノクロームで捉えた。
フェデリコ・エストル「シャイン・ヒーローズ」(誉田屋源兵衛 黒蔵)


ウルグアイ出身のアーティスト兼アクティビストであるフェデリコ・エストル。本展「シャイン・ヒーローズ」では、ボリビア・ラパスで社会の周縁に追いやられる靴磨きに従事する人々にフォーカスした作品を展示する。
靴磨きの人々が正体を隠すために着用するスキーマスクを、スーパーヒーローのマスクと同様のものととらえ、スティグマからの解放、新しいアイデンティティの再考を試みたエストル。フィクションに惹かれる現代の人々の目を向けるために工夫されたコミックのような構図や色彩にも注目だ。
アントン・コービン「PRESENCE」(嶋臺ギャラリー)

デペッシュ・モード、U2、ローリング・ストーンズ、ゲルハルト・リヒター、アイ・ウェイウェイなど、数多のアーティスト・ミュージシャンたちのポートレイトを手がけてきたオランダの写真家アントン・コービン。今回の展示は選集的回顧展となり、半世紀にわたるそのキャリアを象徴する静謐なモノクロ作品群が時系列で並ぶ。
アーティストたちがいる場所に出向き、その場の光で撮影することを貫いてきたコービン。そのドキュメンタリーに近いアプローチによってしか生まれない、よりリアルな雰囲気を感じ取ってほしい。
ファトマ・ハッスーナ「THE EYE OF GAZA」(八竹庵[旧川崎家住宅])

パレスチナの写真家でありアクティヴィストだったハッスーナは、2025年4月16日、25歳の若さで、彼女自身を狙った爆撃により家族数名とともに命を落とした。
過酷な状況の中でガザの現実を撮り続け、世界にその様子を届け続けたハッスーナ。本展では本人のインタビュー動画とガザで撮影された遺作をスライドショーで発表することで、その活動に敬意を表するとともに、多くの命を落としたジャーナリストたちへの追悼の場ともなっている。
会場に響くいまハッスーナの声、写真、そして飛行機などの音は、鑑賞者と戦争の距離を物理的に近づける。































