2026.2.7

「CONNEXIONS | コネクションズ ー接続するアーティストたち」(鳥取県立美術館)開幕レポート。「つながり」を通じて描くアートと社会の未来の姿

鳥取県立美術館で、「CONNEXIONS | コネクションズ ー接続するアーティストたち」が開幕した。会期は3月22日まで。

文・撮影=大橋ひな子(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より、高嶺格《脱皮的彫刻ー鳥取編》(2026)石膏、麻布、パイプ椅子、反射ビーズ、写真(一部)
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 鳥取県立美術館で、「CONNEXIONS | コネクションズ ー接続するアーティストたち」が開幕した。会期は3月22日まで。担当は同館主任学芸員の赤井あずみ。

 同館は、2025年3月に「未来をつくる美術館」として開館した。新しい価値を育み、文化をともに育てていく場として、同時代の表現を紹介することに力を入れている。その一環として開催される本展は、「つながり」「関わり」を意味する「コネクションズ」をテーマに掲げ、アートと社会の未来の姿を描く企画として構想された。音楽や演劇、パフォーマンスなど異なる領域を横断し、社会や市民とのつながりを生み出そうとする表現や、多様な文化的背景を持つ人々と、世界を越境しながら共生の道を探る取り組みが、国内外からの7組のアーティストの作品を通じて紹介される。

 会場は、アーティストごとにセクションで区切られており、それぞれ新作ないしは新作に準ずる作品が展示されている。

 まずはじめに、公共空間や路上を舞台としたアートプロジェクトを展開するアートチーム・SIDE CORE(サイドコア)の作品が紹介されている。今回SIDE COREは、会場をトンネルや土の中といった「地下世界」に見立てた。暗い部屋の壁面を、新作の巨大なドローイング《my head under the ground》が囲う。このドローイングは、能登半島地震で被災し、公費解体された家屋の木材を製炭した炭で描かれている。全国各地に赴き制作を行うSIDE COREだが、能登をはじめとした日本海側エリアでの制作の機会も多いという。今回鳥取という日本海側の土地で制作するにあたり、同じく日本海に面した能登の素材を用いることで異なる土地のつながりを生み出した。また、同じく日本海側の京丹後で制作された、灯台の跡地に再び火を点す映像作品《looking for lighthouse》も会場では紹介されている。

展示風景より、SIDE CORE《my head under the ground》(2026)木製パネルに木炭
展示風景より、《my head under the ground》に使用した木炭

 続いて、サウンド・アーティストのmamoru(マモル)の作品が紹介されている。mamoruは、「リスニング」を通じて得た発見を、声、語り、歌、文字、字幕、フィールドレコーディング、音楽、映像などを素材に、パフォーマンスやインスタレーションとして発表している。今回新作として紹介される《声を挙げ、絶やさない一風吹き、霧立ちこめるとき、蜂の羽音がきこえる》は、鳥取で収録したハミングを中心的な素材として制作されたものだ。全23回のワークショップを通じて合計130人以上の声を集めた本作。そのワークショップに参加した人々に声をかけ、会期中に集大成となる公開収録を行うという。

展示風景より、mamoru《声を挙げ、絶やさない一風吹き、霧立ちこめるとき、蜂の羽音がきこえる》(2026)シングルチャンネル・ビデオ、4K ステレオ、11分45秒(ループ)

 mamoruと同様に、鳥取を何度も訪れ制作を行ったのは、アーティストの遠藤薫だ。各地を旅しながら、その地に根ざした工芸と歴史、日常生活、政治の関係性を紐解き、工芸を拡張する活動を展開している。そんな遠藤は、鳥取という土地を、魑魅魍魎が潜む余白のある土地だと表現する。この土地に複数回通ううちに、何度も遠藤は予知夢を見た。リサーチを進めるなかで、自身が見る夢は鳥取に伝わる神話とつながっていることが明らかになったという。会場では、そのリサーチの過程と遠藤の心の動きを示した日記的なテキストも掲示されており、この不思議な出来事を鑑賞者が追体験できるようになっている。

展示風景より、遠藤薫《二十二世紀の睡眠法》(2026)ミクスト・メディア(牛ノ戸焼[五色]、鳥取砂丘の砂、鳥取の藍、神話に出てくる動物たちの剥製、書作品『一二三(の複眼)』[因州和紙]、囲碁盤・石、サイコロ、白昼夢に現れた土器、白昼夢に現れた土器の再現など、夢に現れた物たち)(一部)
展示風景より、遠藤薫《二十二世紀の睡眠法》(2026)ミクスト・メディア(牛ノ戸焼[五色]、鳥取砂丘の砂、鳥取の藍、神話に出てくる動物たちの剥製、書作品『一二三(の複眼)』[因州和紙]、囲碁盤・石、サイコロ、白昼夢に現れた土器、白昼夢に現れた土器の再現など、夢に現れた物たち)(一部)

 キプロス出身のアーティスト/リサーチャーであるマリアンナ・クリストフィデスは、本展のために制作された新作のサウンドインスタレーション《Restor(y)ing Watersー水を復らせ、語り直す》 を展開している。本作はアテネを拠点とする移民・難民女性のための非営利団体に参加するアフガニスタン、コンゴ、エジプト、ガボン、レバノン、フィリピン、ウクライナの各国出身者とともに制作したもの。「水」を切り口に彼女たちの心の傷や記憶、困難な現実について語られる。しかしそれはまた、生き延びるための力についての語りでもあるとマリアンナは捉え、エネルギーを想起させるケーブルや銅線を編み込んだ彫刻とともに空間を構成した。

展示風景より、マリアンナ・クリストフィデス《Restor(y)ing Watersー水を復らせ、語り直す:捧げもの》(2026)ケーブル、銅線、ロープ、磁器(一部)

 1993年から4年間にわたり、「ダムタイプ」のパフォーマーとして活動していたアーティスト・高嶺格は、近年彫刻とパフォーマンスを融合させたような作品を制作している。本展で紹介される作品は1点だが、会場に入った瞬間にその存在感に気押される感覚を覚える。

 2023年から高嶺が発表してきた《脱皮的彫刻》は、全身を石膏で塗り固められた人物が、その「殻」を自ら破って「脱皮」するというパフォーマンス作品であったが、近年は「抜け殻」のみを彫刻作品として展示している。そんな《脱皮的彫刻》の新作である本作は、昨年行われた同館の竣工式に着想を得たもの。櫓の上から作品を見下ろすと、いくつかの像だけ光っていること気づく。この光景を竣工式の写真と照らし合わせてみると、光っている像の場所は式で女性が座っていた席だとわかる。竣工式に参列した130名のうち、女性はたったの6名であった。この事実を受けて制作された本作は、その異様さを直感的に感じられる鑑賞体験を提供している。

展示風景より、高嶺格《脱皮的彫刻ー鳥取編》(2026)石膏、麻布、パイプ椅子、反射ビーズ、写真(一部)
展示風景より、高嶺格《脱皮的彫刻ー鳥取編》(2026)石膏、麻布、パイプ椅子、反射ビーズ、写真(一部)
展示風景より、高嶺格《脱皮的彫刻ー鳥取編》(2026)石膏、麻布、パイプ椅子、反射ビーズ、写真(一部)

 日本と中国のアーティストからなるプロジェクト・刷音(シュアイン)の作品も紹介されている。刷音は2018年に、竹川宣彰の南京滞在をきっかけに立ち上げられ、ミュージシャン、美術家、デザイナー、フォトグラファー、パフォーマーなど、これまでに約40名のクリエーターが活動に参加している。竹川は、刷音が行う活動をパーティーと呼称しているが、それは様々な分野で表現を行う人たちが、自分たち自身が楽しいと思うことを実践し、そこにさらに人を呼んでともに楽しんでもらう時間・空間を生み出すことを目指していることに起因する。かたちには残らない制作過程もパーティーを体現するものであり、会場の随所にはそんなパーティーのかけらが散りばめられている。会期中には、音楽ライブをイベントとして開催するとともに、4回のシルクスクリーン印刷会を開催し、観客が「パーティー」に参加できる機会が設けられる。

展示風景より、刷音《刷音 鳥取》(2026)ミクスト・メディア(一部)
展示風景より、刷音《刷音 鳥取》(2026)ミクスト・メディア(一部)

 館内1階の吹き抜けのスペースには、アルゼンチンを拠点に活動するトマス・サラセノによるプロジェクト、ムセオ・アエロ・ソラールの作品が展示されている。トマスは、芸術、建築、自然科学、天体物理学、工学などの分野から情報を得たリサーチをもとに、浮遊する彫刻、コミュニティ・プロジェクト、インタラクティブ・インスタレーションを制作している。本展では、使用済みのビニール袋を用いた巨大なインスタレーションが登場。これは、鳥取県内から集められた約8000枚のビニール袋で制作されており、それらには作品に参加した人々によって未来に向けたメッセージが書かれている。参加型のプロジェクトである本作は、会期の最後に大きなバルーンとなり、宙に浮かせるパフォーマンスが行われる予定だ。

展示風景より、ムセオ・アエロ・ソラール《風と太陽の美術館 鳥取》(2025-26)使用済みのビニール袋、テープ、木、マジックペン(共同制作)

 「つながり」「関わり」を表す「コネクションズ」をテーマを掲げる本展。その切り口は多様であるが、それだけこの世界には「境界」があるということの表れでもあると感じる。だが、独自の方法でそれらを越境しようと試みるアーティストや作品に触れることは、自らが気づいてもいなかった「境界」を認識し、向き合う機会にもなり得るだろう。会場で作品を直に感じながら、「つながり」「関わり」について、ぜひ思いを巡らせてみてほしい。