2025.11.1

「GOOD DESIGN EXHIBITION 2025」(東京ミッドタウン)開幕レポート。はじめの一歩から広がった、持続するデザインの在り方にも注目

六本木の東京ミッドタウンで、今年度のグッドデザイン賞受賞プロジェクトを紹介する展覧会「GOOD DESIGN EXHIBITION 2025」がスタートした。会期は11月5日まで。

文・撮影=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)

東京ミッドタウン地下1階ホールA 展示風景より。かつて「G展」とも呼ばれていたグッドデザイン賞。その愛称が今年のメインビジュアルとして蘇った。デザインは菊地敦己
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 六本木の東京ミッドタウンで、今年のグッドデザイン賞受賞プロジェクトを紹介する展覧会「GOOD DESIGN EXHIBITION 2025」がスタートした。

 今年度は、「はじめの一歩からひろがるデザイン」をテーマに応募があった5225件のうち1619件が受賞。メイン会場となる地下1階ホールをはじめ、東京ミッドタウンの各所にその受賞プロジェクトがずらりと並んでいる。

 今回、開幕前に取材ができたのは「グッドデザイン大賞・金賞」「グッドデザイン・ベスト100」などが展示されている地下1階ホールだ。グッドデザイン賞は、領域別にグループ分けした全20の審査ユニット(*)で構成されており、各ユニットでもっとも優れたプロジェクト20件が金賞として選出され、そのうち1件が大賞となる。また、ベスト100は各ユニットのベスト5で構成されている。

 今年の展示空間では、中央にそびえる祝祭的な櫓がひときわ目を引く。櫓の周囲には大賞・金賞に輝いたプロジェクトが並び、その周りを主にベスト100のプロジェクトが囲んでいる。昨年までは、長いテーブルに受賞作品を並べる直線的な会場構成の印象が強かったが、今年は中心を設けることで、視覚的にも見どころがわかりやすくなっている点が特徴だ。

東京ミッドタウン地下1階ホールA 展示風景より。空間は設計事務所「オンデザイン」によるもの

*──審査ユニットは全20で構成される。「身につけるもの」「パーソナルケア用品」「文具・ホビー」「生活用品」「生活家電」「映像 / 音響機器」「情報機器」「産業/医療 機器設備」「住宅設備」「家具・オフィス/公共 機器設備」「モビリティ」「建築(戸建て住宅〜小規模集合・共同住宅)」「建築(中〜大規模集合・共同住宅)」「建築(産業/商業施設)」「建築(公共施設)・土木・景観」「インテリア空間」「メディア・コンテンツ」「システム・サービス」「地域の取り組み・活動」「一般向けの取り組み・活動」。

 主に「グッドデザイン大賞・金賞」「グッドデザイン・ベスト100」から気になったプロジェクトやその傾向を紹介したい。

 最高賞である「グッドデザイン大賞」(内閣総理大臣賞)に選ばれたのは、能登半島地震における仮設住宅の建設で、解体せずに恒久的に使い続けられる新たな仮設住宅のモデルを実現した、坂茂建築設計等による「DLT木造仮設住宅」だ。このプロジェクトに関する模型やパネルは中央の櫓で紹介されている。

 ウェブ版「美術手帖」では、珠洲市で実施された坂茂による「被災地支援プロジェクト」を昨年7月に現地取材している。当時の状況や建築の内部についての詳細レポートもあわせてご覧いただきたい。

東京ミッドタウン地下1階ホールA 展示風景より、グッドデザイン大賞を受賞した、坂茂建築設計+株式会社家元+株式会社長谷川萬治商店による仮設住宅「DLT木造仮設住宅」。効率的で安定した居住空間に加え、入居者が離れたくなくなるほどの快適さを実現した。簡素で劣悪になりがちな被災地の仮設住宅を、実際に利用する被災者の視点から設計した点が高く評価された

 金賞に選ばれたプロジェクトには、長年にわたって続けられてきた取り組みを新たな価値創造に活かしたものや、手に取った人々に豊かなコミュニケーションをもたらすもの、そして最新技術を取り入れながらも、人々がそれらとどのように向き合い、人間らしい感性や温もりを保ちながら共存していけるかを探るデザインなどが見受けられた。

 近年、AIを用いたプロダクトの応募が増加傾向にあるという。しかし、たんに新しい技術の導入に重きを置くだけでなく、その技術が我々の暮らしにどのような価値をもたらし、どのような調和を生み出すのかという点が、評価においてより重視されていると担当者は語っている。

東京ミッドタウン地下1階ホールA 展示風景より、金賞を受賞した株式会社豊島屋による「鳩サブレー 1枚入缶セット」は、創業130周年の記念としてつくられたもの。缶やボックスに演出された遊び心が手に取った人の楽しさを引き出し、伝統を活かし新たな価値創造に挑む姿勢、そしてユーモアあふれる体験設計が高く評価された
東京ミッドタウン地下1階ホールA 展示風景より、金賞を受賞したブルーミング中西株式会社によるハンカチーフ「クラシクス・ザ・スモールラグジュアリ」。色を言葉としてとらえた108色のハンカチは、気持ちを伝えるためのツールとしてデザインされている。贈る人と使う人のあいだに、従来の言葉に頼らない新たなコミュニケーションが生み出されることを意図している。品質の確かさはもちろんのこと、今年度のテーマならではの選出だと言える
東京ミッドタウン地下1階ホールA 展示風景より、こちらも金賞を受賞したエゾウィン株式会社によるウェブサービス「レポサク」。数十台の車両が同時に動く農業現場では、その動きは長年従事してきた人たちの熟練技によって受け継がれてきた。本サービスはその動きをリアルタイムで可視化し、次世代へ継承できる。高齢者でもUSBを挿すだけで使える分かりやすいUIが魅力で、担い手不足や高齢化といった課題への貢献も評価された

 ベスト100には、防災や医療現場など、自然災害リスクが高く、少子高齢化という社会課題に対応した日本ならではのデザインや、誰もが安心して暮らせる福祉のためのデザイン、さらに地域産業を新たなかたちで振興するためのシステムなど、課題に向き合った多彩なアイデアが数多く並んでいる。とくに、若年層を中心にライフスタイル化している「推し活文化」を既存の仕組みに取り入れたアイデアは、現代の消費行動やコミュニケーションの在り方を象徴するものとして選出されており、非常に印象的であった。

東京ミッドタウン地下1階ホールA 展示風景より、「cocoe 車いすマークホルダー」。ベビーカーやバギーを車いす代わりに使う方のための表示ホルダー。周囲の誤解を防ぎ、安心して外出できる環境を提供することができる
東京ミッドタウン地下1階ホールA 展示風景より、「ASKUL 大人用おむつ オリジナルシリーズ」。人手不足が深刻な介護施設で、おむつの種類が識別しやすいようデザインされている
東京ミッドタウン地下1階ホールA 展示風景より、「福岡市の屋台公募制度」。福岡市ならではの観光資源である「屋台」の風景を守るため、福岡市が「公募制度」を導入した事例
東京ミッドタウン地下1階ホールA 展示風景より、「推し活キャンセル保険 <国内遠征版・海外遠征版>」

 大阪・関西万博の開催に合わせて設けられた「未来社会デザイン特別賞」は、建築家・藤本壮介がプロデュースした「大屋根リング」が受賞した。ほかにも、万博に関連する受賞プロジェクトがいくつか見受けられたのも、今年度の特徴と言えるだろう。

東京ミッドタウン地下1階ホールA 展示風景より、

 廊下には、大学や専門学校に在学中の学生や、卒業・修了直後の新卒社会人を対象とした「ニューホープ賞」の受賞結果も掲示されている。企業に勤めていないというある種の強みを活かした、柔軟な発想が目立つアイデアばかりだ。

東京ミッドタウン地下1階ホール廊下 展示風景より、「グッドデザイン・ニューホープ賞」

 ほかにも、ホール入り口付近では、金賞のなかから参加者の投票で決まる「みんなの選んだグッドデザイン」の取り組みも実施されている。自分の生活にあったら便利だと思うものや、実際に使ってみたいものなど、審査員とは異なる視点から選んでみるのもよいだろう。

東京ミッドタウン地下1階ホールA 展示風景より、「みんなの選んだグッドデザイン」

 受賞したプロジェクトはいずれも既存の課題を解決しようとするアイデアにあふれていた。そのいっぽうで、金賞やベスト100に選ばれたものには、課題解決にとどまらず、そこに温度感を持たせることによって、「いかに人を幸せにするか」といった視点が見受けられた。また、一見「これがデザイン?」と思うような地域やコミュニティでの取り組みも増加し、「デザイン」の意味や参加者の広がりも感じられた。

 なお、本展は、この地下ホール以外にも、アクアリウム、4階カンファレンスルーム、5階デザインハブ、と各所で展示を行っている。会期中には、これらを巡るスタンプラリーも実施されており、展示会場9ヶ所にあるスタンプを集めることで、G展オリジナルステッカーを手に入れることができる。ぜひ、受賞作品展を楽しみながら、こちらもゲットしてみてほしい。

G展オリジナルステッカー