• HOME
  • MAGAZINE
  • NEWS
  • REPORT
  • 「直島新美術館」がついにオープン。「世界に誇れる美術館」目…
2025.5.30

「直島新美術館」がついにオープン。「世界に誇れる美術館」目指す

5月31日、直島に新たな美術館「直島新美術館」が開館する。館長は三木あき子。建築設計は安藤忠雄。

文=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)

直島新美術館 上空写真 撮影=GION
前へ
次へ

 5月31日、直島に新たな美術館「直島新美術館」が開館する。館長は三木あき子。建築設計は安藤忠雄。

 1980年代後半から直島を拠点に活動を行ってきた「ベネッセアートサイト直島」は、自然・建築・アートの共生、地域との協働によるコミュニティの発展などを念頭に、複数の美術館やアート施設群を離島に展開してきた。およそ35年を経て新たに開館するこの美術館は、アイデンティティとしての「直島」、そして「新」の名を冠しており、いつの時代にも新しい価値観や気づきを与える空間としたいという理由が込められているという。

直島新美術館 外観 撮影=GION
ロゴデザインを手掛けたのはデザイナーの祖父江慎。祖父江は、ベネッセアートサイト直島の主要美術館である地中美術館や豊島美術館のロゴも手掛けてきた

 まずは建築についてのポイントをいくつか紹介したい。直島の集落のなかに佇むこの建物は、地上1階、地下2階の3階建て。丘のうえに位置しており、その稜線を緩やかにつなぐ大きな屋根が建築的な特徴とも言えるだろう。

直島新美術館 外観 撮影=GION
この直島新美術館は、ベネッセアートサイト直島における安藤忠雄設計の10番目の施設でもある

 トップライトから自然光が差し込む階段は地上から地下まで直線状に続いており、階段の両側には4つのギャラリーが配置されている。また、地上フロアの北側にはカフェを併設。テラスからは瀬戸内海を一望することができ、豊島や漁船の往来など、自然と人の営みも垣間見ることができる。

 ベネッセアートサイト直島を長年牽引してきた名誉理事長・福武總一郎より今回のプロジェクトの依頼があったという安藤。オープンに際し、当時のやり取りや心境について次のように語っている。「福武さんから世界に誇れる美術館にしたいと要望を受けた。作品と建築がぶつかり合いながら調和してゆく空間になることを期待している」。

直島新美術館 階段室 撮影=GION
直島新美術館 カフェ 撮影=GION
直島新美術館 カフェのテラスから見える景色 撮影=編集部

 館長の三木によると、直島新美術館はアジアの現代アートを紹介する美術館として機能するとともに、ほかのベネッセアートサイト直島の恒久的な美術館とは異なる、定期的な展示替えやトークイベント、地域住民とともにワークショップを実施するなどといった、変化のある場を目指していくという。そのような方針のもと、こけら落としとして開幕したのは「直島新美術館 開館記念展示―原点から未来へ」。日本、中国、韓国、インドネシア、タイ、フィリピンなどアジア地域出身の12組による新作や代表作が、地下2階、地上1階の複数のギャラリー空間やカフェといった各エリアで紹介されている。

 まず来館者を迎えるのは、エントランス傍に展示される下道基行とジェフリー・リムによる「瀬戸内『漂泊 家族』写真館」だ。ふたりは直島への漂流物からピンホールカメラを制作し、直島の風景とともに住民を撮影。同館が方針として掲げた「地域とのつながり」を表す重要な作品となっている。

直島新美術館「開館記念展示―原点から未来へ」展示風景より、下道基行+ジェフリー・リム「瀬戸内『漂泊 家族』写真館」(「瀬戸内「   」資料館」プロジェクトより、2024) 撮影=編集部

 ギャラリー1では、マルタ・アティエンサ、ヘリ・ドノ、インディゲリラ(ヘリ・ドノとの合作)、パナパン・ヨドマニーらによる、現代アートと伝統的なアートのつながりを示すような作品をそれぞれ展示している。とくにベネッセアートサイト直島がアジアの現代アートコレクションをするきっかけとなったインドネシアの作家 ヘリ・ドノによる10枚組の大作絵画は、数十年にわたる作家の画業とその背景にある自国の近現代史が読み取れるものとなっている。

直島新美術館「開館記念展示―原点から未来へ」展示風景より、ギャラリー1 撮影=編集部
直島新美術館「開館記念展示―原点から未来へ」展示風景より、ヘリ・ドノ《ヘリ・ドノ論の冒険旅行》(2014) 撮影=編集部

 続くギャラリー2では、韓国のソ・ドホによる代表的なシリーズ「Hub」を紹介。ソウルやニューヨーク、ロンドンなど、作家自身が暮らしてきた家の玄関や廊下などを布で再現したこのシリーズに、直島の民家の廊下部分を新たに加えた8連作を展示している。

直島新美術館「開館記念展示―原点から未来へ」展示風景より、ソ・ドホ《Hub/s 直島、ソウル、ニューヨーク、ホーシャム、ロンドン、ベルリン》(2025) 撮影=編集部

 ギャラリー3では、会田誠、Chim↑Pom from Smappa!Group、村上隆といった日本出身の作家やグループによる作品が並ぶ。ここでは、撮影が可能であったChim↑Pom from Smappa!Groupと村上隆による作品を紹介する。

 Chim↑Pom from Smappa!Groupは、「Sukurappu ando Birudo プロジェクト」(2016〜)の一環で、高円寺キタコレビルに制作された《道》をビルの解体を見据えた移設構想のもと、「輸送中」の状態で展示している。輸送中という経過を見せることで、「スクラップ」が「ビルド」される可能性を持つことを示唆しているかのようだ。

直島新美術館「開館記念展示―原点から未来へ」展示風景より、Chim↑Pom from Smappa!Group《スウィート・ボックス(輸送中の道)》(2024-) 撮影=編集部
直島新美術館「開館記念展示―原点から未来へ」展示風景より、Chim↑Pom from Smappa!Group《スウィート・ボックス(輸送中の道)》(2024-) 撮影=編集部

 村上隆は、2024年に京都市京セラ美術館で開催された「村上隆 もののけ 京都」展で初公開された《洛中洛外図屏風 岩佐又兵衛 rip》に、さらに手を加えたものを出展。細やかな色彩や細部の表現は圧巻で、細部はオペラグラスを利用して見ることも可能だ。

 さらに、村上が大きな影響を受けたことでも知られている辻惟雄の『奇想の系譜』に関する資料やインタビューもあわせて紹介することで、「スーパーフラット」との関係性にも焦点を当てるものとなっている。

直島新美術館「開館記念展示―原点から未来へ」展示風景より、村上隆《洛中洛外図屏風 岩佐又兵衛 rip》(2023-25) 撮影=編集部
©︎2023-25 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co.,Ltd. All Rights Reserved.
直島新美術館「開館記念展示―原点から未来へ」展示風景より 撮影=編集部

 ギャラリー4には、2023年に国立新美術館で大規模個展が開催されたことでも記憶に新しい、蔡國強による大型のインスタレーション《ヘッド・オン》が展示されている。奥に見える透明なガラスはベルリンの壁と同じ高さ。99体ものオオカミの群れが果敢にもこれらを越えようとする姿は力強く、新しい未来を手繰り寄せるパワーすら感じさせる。

直島新美術館「開館記念展示―原点から未来へ」展示風景より、蔡國強《ヘッド・オン》(2006) 撮影=編集部

 ほかにも、インコたちが「結婚式」「調理」「食事」を行う、N・S・ハルシャの《幸せな結婚生活》がカフェスペースを彩るほか、屋外には、サニタス・プラディッタスニーによる展示が2026年を目処に完成予定となっている。

直島新美術館 多目的カフェスペース「&CAFE」より、N・S・ハルシャ《幸せな結婚生活》(2025)

 同プロジェクトを牽引してきた名誉理事長・福武總一郎は、この新たな美術館のオープンに際し、次のように心境を語った。「私にとって集大成となる美術館。自然とアート、そして人々の営みがともに素晴らしいコミュニティを築き上げており、ベネッセアートサイト直島は、非常に特色のある場になったと考えている。展覧会の出展作品が、未来へのメッセージとなることを期待したい」。

 ベネッセアートサイト直島のプロジェクトが掲げるのは、“真に「よく生きる」について考察すること”。いま力を増すアジアの現代作家らの表現や、そこに内包される現代社会や環境に対する鋭い洞察。それらを通じて、直島新美術館は、その名の通り「新たな」価値観や気づきを未来の来館者に与える場所となってくれるだろう。

左から、福武英明(福武財団・理事長)、福武總一郎(福武財団・名誉理事長)、三木あき子(直島新美術館 館長)、安藤忠雄(建築家)