• HOME
  • MAGAZINE
  • NEWS
  • REPORT
  • 泉屋博古館がリニューアル開館。戦後モダニズム建築とともに住…
2025.4.22

泉屋博古館がリニューアル開館。戦後モダニズム建築とともに住友コレクションの傑作を楽しむ

京都・鹿ヶ谷の泉屋博古館が、約1年間の改修工事を経て、4月26日にリニューアルオープン。「中国青銅器の時代」(青銅器館、4月26日〜8月17日)と「帰ってきた泉屋博古館 いにしえの至宝たち」(企画展示室、4月26日〜6月8日)の2つの展覧会も開幕する。

文・撮影=安原真広(ウェブ版「美術手帖」副編集長)

螺旋階段とホール
前へ
次へ

 京都・鹿ヶ谷の泉屋博古館が、約1年間の改修工事を経て、4月26日にリニューアルオープン。こけら落としとして「中国青銅器の時代」(青銅器館、4月26日〜8月17日)と「帰ってきた泉屋博古館 いにしえの至宝たち」(企画展示室、4月26日〜6月8日)の2つの展覧会も開幕する。

泉屋博古館

 泉屋博古館は1960年、住友家旧蔵の美術品を保存・公開するため財団法人として設立。その10年後の70年に京都本館1号館(青銅器館)が竣工、86年には2号館も竣工した。同館のコレクションの中核をなすのは15代当主・春翠が収集した青銅器となっている。

展示室2

 外観に大きな変更はないものの、門から館に向かう石畳はリニューアルされ、車椅子やベビーカーが通れるバリアフリー構造となっている。また、エントランスには、現代のニーズに対応する大きなインフォメーションカウンターを設置。インバウンドをはじめとした観光客の大きな荷物を預けることも可能だ。また、新たに設けられたグッズコーナーでは同館のオリジナルグッズが取り扱われる。

エントランス

青銅器館

 今回のリニューアルにおける最大のトピックは青銅器館だろう。本館は70年の大阪万博における迎賓館として建設された経緯を持ち、京都における戦後モダニズム建築のひとつとして知られている。今回の改修では、竣工当時の意匠を生かすかたちでのリニューアルが行われ、「中国青銅器の時代」がこけら落としとして開催される。

展示室1

 本館の特徴である、吹き抜けと回廊状の階段が目を引くホールは、中央にあった車椅子用のリフトを撤去。竣工当初の意匠をできるだけ再現するかたちで改修することで、その独特の空間を体感できるようになった。

螺旋階段とホール

 螺旋階段を上った先には展示室1があり、室内の展示ケースをリニューアル。より反射が少なく、照明も最適化された。本展示室では「中国青銅器の時代」の第1章「住友コレクション 名品大集合」と名打たれ、同館がコレクションする古代中国の青銅器のなかからとくにユニークなものを紹介している。

展示室1

 展示室2は「種類と用途」として、青銅器の大まかな用途を紹介。展示室3「文様・モチーフの謎」では青銅器に描かれた文様やモチーフの由縁を解説している。なお、展示室3では同館のマスコット的存在として人気を集める、フクロウ・ミミズクをモチーフとした《戈卣(かゆう)》(前12世紀、殷時代)や《鴟鴞尊》(前13〜12世紀、殷後期)なども見ることが可能だ。

展示風景より、《戈卣(かゆう)》(前12世紀、殷時代)
展示風景より、《鴟鴞尊》(前13〜12世紀、殷後期)

 展示室4も大きくリニューアルされた。展示ケースが新しくなっただけでなく、東山側に新たに窓を2つ設置。外光が入るとともに、季節ごとに表情が変化する東山の木々を展示室から眺めることができる。この展示室4では「東アジアへの広がり」と題して、秦漢時代に多く作られ東アジア世界全体にもたらされた青銅鏡が展示されている。

展示室4
展示室4

 なお、展示室の出口には、新たな車イス用のリフトを用意。ここは、小さいながらも中庭や東山を望むことができる「眺めのいい部屋」となった。さらにその下に位置する休憩室も、新たに「透徹の間」と名づけられ、中庭を眺めながらゆったりとした時間を過ごすことができる空間として再定義された。

眺めのいい部屋
透徹の間

企画展示室

 企画展示室(2号館)は、青銅器館から伸びた、中庭を横断する渡り廊下の先にある。中庭では東山の山肌を存分に眺めることが可能で、ここも同館のフォトスポットのひとつといえるだろう。

渡り廊下から眺める中庭と東山

 企画展示室ではリニューアル記念展となる「帰ってきた泉屋博古館 いにしえの至宝たち」を開催。これは同館コレクションのなかから、絵画、書跡、茶道具、仏教美術など、広範にわたるジャンルをセレクトして展示するものだ。

展示風景より、企画展示室

 企画展示室には収蔵スペースを改良することで、新たな展示室も誕生。広い空間ではないものの、展示ケースも壁沿いに設置され、より多くの展示物を見ることができるようになった。

展示風景より、企画展示室の新たな展示室

 「帰ってきた泉屋博古館 いにしえの至宝たち」は、明確な章立てこそされていないものの、同館のコレクションを読み解くうえでの5つのキーワードが用意されている。

 キーワード1「神仏のかたち–光の国から」では、仏教や神道をはじめとする、東アジアの仏教美術の名品の数々を展示。重要文化財の徐九方《水月観音像》(1323、高麗)や、運慶に連なる慶派仏師の手によると思われる《毘沙門天立像》(13世紀、鎌倉時代)などの名品が並ぶ。

展示風景より、徐九方《水月観音像》(1323、高麗)
展示風景より、《毘沙門天立像》(13世紀、鎌倉時代)

 キーワード2「山は呼んでいる」では、古来中国の神仙思想や、日本における山岳信仰など、山をモチーフとした絵画を中心に紹介。国宝の伝閻次平《秋野牧牛図》(13世紀、南宋)や、重要文化財の石濤《黄山図巻》(1699、清)といった傑作を見ながら、人々のあいだで紡がれてきた山への思いを感じることができる。

展示風景より

 キーワード3「花鳥–生けとし生けるもの」は、花や鳥といった生命力を感じさせる存在をモチーフとした画や工芸品を紹介。執拗なまでの花弁のディティールと、枝に止まる可愛らしいメジロの姿が目を引く伊藤若冲《海棠目白図》(18世紀、江戸時代)をはじめとする、彩り豊かな品々が展示されている。

展示風景より、伊藤若冲《海棠目白図》(18世紀、江戸時代)

 キーワード4「つどいの悦楽、語らいの至福」は、茶の湯、煎茶、書画会といった集いの場で愛された名品を展示。大名茶人・小堀遠州が愛用した《小井戸茶碗 銘六地蔵》(16世紀、朝鮮)など、人々の「見立て」によって文物に文脈が付与されていった歴史を感じたい。

展示風景より、《小井戸茶碗 銘六地蔵》(16世紀、朝鮮)

 キーワード5「小さきものたち」は、手に取ったり、身につけたりすることで愛用されてきた品々を紹介。印や金具、嗅ぎたばこを入れておく鼻煙壺など、小さいからこそ際立つ造形が目にも楽しい。

展示風景より、鼻煙壺など

 なお、館外にある無料で楽しむことができる庭園「泉屋博古の庭」は、変わらず東山を仰ぎ見ながら、四季の植栽を楽しめる。また、収蔵庫を新たに館外に増築し、保管機能も強化した。

泉屋博古の庭

 青銅器や書画、茶道具など、理解するために専門的な知識が必要な名品の数々を、わかりやすく伝えるための工夫が詰まった2つの展覧会。リニューアルし、四季折々の東山の自然をより楽しめるようになった同館でゆっくりと楽しみたい。