2024.10.1

特別展「没後50年記念 福田平八郎×琳派」(山種美術館)開幕レポート。福田平八郎のなかに見る「琳派」

東京・広尾の山種美術館で、日本画家・福田平八郎(1892〜1974)の没後50年を記念し、その画業をたどるとともに琳派の名品を展示する特別展「没後50年記念 福田平八郎×琳派」が開幕した。会期は12月8日まで。

文・撮影=安原真広(ウェブ版「美術手帖」副編集長)

展示風景より、右が福田平八郎《桃と女》(1916、大正時代)山種美術館
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 東京・広尾の山種美術館で、日本画家・福田平八郎(1892〜1974)の没後50年を記念し、その画業をたどるとともに、平八郎が影響を受けた琳派の名品を展示する特別展「没後50年記念 福田平八郎×琳派」が開幕した。会期は12月8日まで。

展示風景より、鈴木其一《四季花鳥図》(江戸時代)山種美術館

 福田平八郎は大分生まれ。京都に出て京都市立美術工芸学校、京都市立絵画専門学校に学び、1919年には帝展に初入選を果たした。大正期はモチーフを入念に観察し、写実的に表した作品を制作。さらに昭和に入ると、単純な色面と大胆な構図による独自の芸術を確立していった。

展示風景より、左から福田平八郎《漣》(昭和時代)、《竹》(1957、昭和時代)ともに個人蔵

 本展は3章構成。平八郎の作品を紹介しつつ、平八郎が影響を受けた琳派の名品を展示、さらに平八郎と同様に琳派に影響を受けた近現代の作家の作品を紹介している。まず、会場の入口‎で来場者を迎えるのは《筍》(1947、昭和時代)だ。背景には竹の葉が意匠的に散りばめられ、いくつもの岩絵具を組み合わせて作った黒い筍と、緑青の鮮やかな葉との対比が鮮烈な印象を与える。

展示風景より、福田平八郎《筍》(1947、昭和時代)山種美術館

 第1章「福田平八郎」では、初期から晩年までの平八郎の作品を展示するとともに、平八郎が琳派からいかに影響を受けたのかにも迫る。例えば《春》(1925頃、大正時代)では、ツバメたちが止まっている石が浮かぶ水面には、尾形光琳の作に見られる光琳紋を思わせる文様が浮かぶ。

展示風景より、左が福田平八郎《春》(1925頃、大正時代)山種美術館

 《桐双雀》(1942、昭和時代)にも、琳派からの連続性を見出すことができる。桐の木の枝に雀が2羽止まっている本作だが、右端の桐の花は見切れているように描かれている。こうした構図も琳派が多用したもので、モチーフの画面外への広がりを想起させる。

展示風景より、右が福田平八郎《桐双雀》(1942、昭和時代)山種美術館

 福田の作品の変遷を見ることができるのも本章の楽しみだ。大正期の福田の最高傑作とされる《牡丹》(1924、大正時代)は、その牡丹の花びらの微細なフォルムまで写し取ろうとした高い描写力を、迫力ある構図とともに感じられる屏風絵だ。

展示風景より、右が福田平八郎《牡丹》(1924、大正時代)山種美術館

 いっぽうで平八郎はポール・ゴーガンをはじめとした近代の西洋絵画を愛し、自身の作品にもそのエッセンスを取り入れた作品を残している。《花菖蒲》(1957、昭和時代)は、尾形光琳の《燕子花図》(江戸時代)を意識しつつも、菖蒲の花弁はポスト印象派の作品を思わせるような大胆な厚塗りで、立体感を強調している。岩絵具を使いながらも、まるで油彩のような質感を出しており、平八郎の手数の多さを感じさせる。

展示風景より、左から福田平八郎《桃》(1952頃、昭和時代)個人蔵、《花菖蒲》(1957、昭和時代)山種美術館

 第2章「琳派の世界」では、俵屋宗達、酒井抱一、鈴木其一といった琳派の名品が並ぶ。

 伝俵屋宗達《槙楓図》(江戸時代)のやわらかく曲がった槙の幹のデザイン的な表現は、琳派らしさを強く感じさせる。その隣に並ぶ酒井抱一《秋草鶉図》(江戸時代)は、月やススキを配した大胆な構図のなかに、写実にもとづいた躍動感あふれるウズラが配置される。こうした、意匠的な構図の妙と、写実的表現との同居は、まさに第1章で見てきた平八郎の作品とも通じるものがある。

展示風景より、右が伝俵屋宗達《槙楓図》(江戸時代)山種美術館
展示風景より、左が酒井抱一《秋草鶉図》[重要美術品](江戸時代)山種美術館

 鈴木其一となると、構図の妙と写実がより融合しているかのような印象を受ける。《牡丹図》(1851、嘉永4年)は、其一らしい緻密な描写を積み重ねたことで、牡丹の花弁たちの迫力がより強調された印象深い作品だ。

展示風景より、右が鈴木其一《牡丹図》(1851、嘉永4年)山種美術館

 第3章「近代・現代日本画にみる琳派的な造形」では、琳派からの影響を受けた、小林古径、速水御舟、奥村土牛、橋本明治、小野竹喬といった、日本画壇の巨匠たちの作品を展示。平八郎のみならず、多くの日本画家たちが、琳派の造形を巧みに取り入れ、そこから新たな日本画の可能性を探っていたことがわかる作品が並んでいる。

展示風景より、左から山口蓬春《新宮殿杉戸楓4分の1下絵》(1967、昭和時代)、富取風堂《丘の畑》(1939、昭和時代)、小林古径《秌采》(1934、昭和時代)いずれも山種美術館
展示風景より、左から菱田春草《月四題のうち秋》(1909-10、明治時代)、正井和行《庭》(1966、昭和時代)いずれも山種美術館

 福田平八郎の生涯を振り返り、その巧みな構図と繊細な描写力を存分に感じられる本展。琳派の名品とともに、その影響関係について考えることができる展覧会だ。