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2024.9.14

「塩田千春 つながる私(アイ)」展(大阪中之島美術館)開幕レポート。伝えるのは多様な「つながり」のかたち

大阪中之島美術館で、塩田千春の大規模個展「塩田千春 つながる私(アイ)」がスタートした。コロナ禍を経て改めて多様な「つながり」をテーマに据え、大規模なインスタレーションや映像、タブロー、ドローイングなどが並ぶ。

文・撮影=王崇橋(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より、《インターナルライン》(2022/2024)
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 大阪出身で現在ベルリンを拠点に国際的に活動しているアーティスト、塩田千春。その大規模個展「塩田千春 つながる私(アイ)」が大阪中之島美術館で始まった。会期は12月1日まで。

 本展は、塩田にとって出身地・大阪での16年ぶりとなる大規模個展であり、巡回なしの開催となる。タイトル「つながる私(アイ)」について、塩田は開幕前の記者会見で「コロナ禍を強く意識した」と明かしつつ、次のように話した。

 「コロナ禍では、距離を保ち、つながってはいけないという状況で、1.5メートルの距離をとって接することが求められていた。そのなかで私が感じた『人とつながる』というテーマを軸に、『つながる私(アイ)』として作品を制作した」。

塩田千春

「私(アイ)」について本展の担当学芸員・國井綾(大阪中之島美術館 主任学芸員)は、「私(I)」「目(Eye)」「愛(Love)」の3つの意味が込められているとし、「自身を通じて、目を通じて、愛を通じて、私たちは様々な人やものとつながっているということを伝える展覧会だ」と説明した。

 本展では、塩田の大規模なインスタレーション6点とともに、映像作品やタブロー、立体、ドローイング、そして小説家・多和田葉子が新聞で連載している『研修生(プラクティカンティン)』のために描いた268点の挿絵が展示。挿絵の作品は会期中にも増えていき、最終的には361点を展示する予定となっている。

 展覧会は、赤いドレスと糸で構成されるインスタレーション《インターナルライン》(2022/2024)から始まる。ナチス政権下のエーベンゼー強制収容所(オーストリア)に収容されていた囚人と、彼にパンをあげた女性職員が終戦後に再会して結婚したというエピソードに基づいてつくられたこの作品は、「つながるアイ」の「愛」というテーマをもっとも象徴したものだ。

展示風景より、《インターナルライン》(2022/2024)
展示風景より、《インターナルライン》(2022/2024)

 次の展示室では、ふたつ目のインスタレーション《巡る記憶》(2022/2024)が登場。編み込まれた無数の白い糸が空間に張り巡らされ、そこからは水が水盤に滴る。水盤は水滴に揺らされ、その水がまた循環し、水滴となるという作品だ。

展示風景より、《巡る記憶》(2022/2024)
展示風景より、《巡る記憶》(2022/2024)

 その先に進むと、塩田が20歳のときに描いたふたつの絵画作品が出現。これらの作品について塩田こう語っている。「その当時、絵を描くことに行き詰まり、絵をやめて、糸を使って空間を編む表現に転向したことで、現在のような『自分らしい』作品をつくることができるようになった。この絵を展示することによって、自分のターニングポイントを再認識する機会となった」。

展示風景より、左の2作品は《風景》《無題》(いずれも1992)

 次に展示されるインスタレーション《家から家》(2022/2024)は、家や故郷に関わる作品であり、様々なかたちの家を赤い糸で編んだものだ。塩田にとって、赤は血液の色であり、そのなかには家族や国籍、宗教といった要素が含まれている。いっぽうで、家や国家、宗教といったものは超えられない壁のように感じられるという。

展示風景より、赤い作品は《家から家》(2022/2024)
展示風景より、《家から家》(2022/2024)

 壁面に展示されている6チャンネルの映像作品《地と血》(2013)は、塩田が自身の流産と父の死を経験し、「とても落ち込んでいた」時期に制作したもの。しかしこの作品は、後にヴェネチア・ビエンナーレ日本館のコンペに選ばれた、赤い糸や無数の鍵で構成される《掌の鍵》の作品プランにもつながっていった。「その際に、人が大切にしているもの、手に握りしめるようなものとして鍵を集めた作品をつくりたいと思い、赤い糸で鍵と鍵をつなげることを考えた。(ヴェネチアの作品は)当時の辛さや苦しみがあったからこそつくり上げることができた」。

展示風景より、《地と血》(2013)

 5着のドレスと5つのオブジェが回転するインスタレーション《多様な現実》(2022/2024)を通ると、本展のテーマにもっとも近い作品《つながる輪》(2024)が展示されている。同作では、7月末まで一般公募で集めた1500通以上の手紙が使用されており、それぞれの手紙には「つながり」についての様々な人の思いが込められている。

展示風景より、《多様な現実》(2022/2024)
展示風景より、《つながる輪》(2024)
展示風景より、《つながる輪》(2024)

 隣のコーナーでは、塩田が会場でつくった6つ目のインスタレーション《他者の自分》(2024)が展示。多くの人体模型を用いたこの作品は、国際芸術祭「あいち2022」において元看護専門学校の解剖学標本室で発表した作品からインスピレーションを受けたもの。また、友人が腎臓移植後に魚を好むようになり、その腎臓の本来の持ち主もきっと魚が好きだったろうというエピソードから、臓器移植によって他者の存在が自分の中に入り込むこと、そして臓器が自分に与える影響について考えさせられ、この作品をつくることに至ったという。

展示風景より、《他者の自分》(2024)

 「自分自身が抗がん剤治療を受けていたとき、自分の足は地に着いているのに、体がどこか別の場所につながっているような、自分の体ではないような感覚に襲われたことがある」と話す塩田。同作には、他者や宇宙とつながっているような感覚も込められているという。

 インスタレーションや映像、ドローイングなど、多様な実践で「つながり」の意味を本展で問いかける塩田千春。その作品に向き合い、自らにとっても「つながり」とは何か、その答えを探ってみてほしい。