2026.9.29

藤田嗣治15作品が約13.5億円で落札。サザビーズ香港、両セールで約148億円の落札総額を記録

サザビーズ香港で藤田嗣治の作品15点を集めた単独オークションが開催され、全作品が落札された。落札総額は手数料込み約13.5億円。同日に行われたイブニングセールとの合計額は約148億円となり、2023年秋以来の高水準を記録した。

文=王崇橋(編集部)

藤田嗣治《Le rêve (Hommage à La Fontaine)》(1949)が手数料込み2652万香港ドル(約5億3110万円)で落札された Courtesy of Sotheby's
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 藤田嗣治の作品15点が集結したオークション「The Foujita Lexicon: Works from the Lewis Collection」が9月28日、サザビーズ香港で開催された。全15点が落札される「ホワイトグローブ・セール」となり、ハンマープライスの総額は4895万香港ドル。事前予想落札総額1650万〜2430万香港ドルの最高値の2倍を超え、手数料込みでは6722万4000香港ドル(約13億4700万円)に達した。

 出品されたのは、イギリスの個人コレクション「ルイス・コレクション」が30年以上にわたって収集してきた藤田作品。1920年代から晩年まで、絹、紙、キャンバスなど異なる支持体による作品を含み、藤田の約60年にわたる画業を横断する構成となった。サザビーズ・アジアにとって、ひとりのアーティストに特化した単独オークションを開催するのは今回が初めてとなる。

 オークションに先立ち、美術手帖の取材に応じたサザビーズ・アジアのプライベートセールス・ディレクター、ニック・バックリー・ウッドは、このコレクションを藤田の画業を俯瞰する「ミニ回顧展」と表現。「絹、紙、キャンバスと異なる媒体があり、様々な時代の作品が揃っている」とし、藤田作品を多数所有するコレクターでさえ見たことのないシリーズが含まれていると、その幅広さを強調した。

 また藤田は、2028年夏にアメリカ・マサチューセッツ州のクラーク美術館で、同国初となる大規模な回顧展が予定されており、今回出品された作品のうち7点も同展への出品が予定されている。

予想価格の5倍超。《Le rêve》に約5.3億円

 セールは、1924年に制作された藤田の自画像《Mon portrait》からスタートした。藤田がエコール・ド・パリの寵児として頭角を現した時期の作品で、80万〜120万香港ドルの予想落札価格に対し、220万香港ドルで落札。手数料込みでは281万6000香港ドル(約5640万円)となり、最初のロットから最高予想落札価格を大きく上回った。

藤田嗣治《Mon portrait》(1924) Courtesy of Sotheby's

 続く猫を描いた《Chatte et chaton》(1932)も、200万〜300万香港ドルの予想落札価格に対し450万香港ドル、手数料込み576万香港ドル(約1億1530万円)で落札された。

 そして、この日もっとも激しい入札合戦となったのが、ロット3の《Le rêve (Hommage à La Fontaine)》(1949)だ。藤田が1949〜50年に約10ヶ月間滞在したアメリカで制作した、ジャン・ド・ラ・フォンテーヌの『寓話』に捧げられた希少なシリーズのひとつ。400万〜600万香港ドルの予想落札価格から始まった入札は約7分間にわたり競り上がり、最終的にサザビーズ・ジャパンのデピュティ・ディレクター、山脇英恵が電話でつないだクライアントが落札した。ハンマープライスは2100万香港ドルと最低予想落札価格の5倍を超え、手数料込みでは2652万香港ドル(約5億3110万円)。同セールにおける最高落札価格を記録した。

藤田嗣治《Le rêve (Hommage à La Fontaine)》(1949) Courtesy of Sotheby's

 予想を大幅に上回る結果はその後も続いた。藤田が1933年に描いた《Madeleine endormie》は、30万〜50万香港ドルの予想落札価格に対し340万香港ドルまで上昇。手数料込み435万2000香港ドル(約8720万円)となり、ハンマープライスは最低予想落札価格の11倍を超えた。

 1920年代の藤田を代表する裸婦像も高い関心を集めた。ロット7の《Nu assoupi sur la table》(1927)は、当時藤田の妻でミューズでもあったユキを描いた作品。1920年代のモンパルナスの喧騒とは対照的に、静謐な空間のなかに横たわる人物を、藤田特有の繊細な線描と乳白色の肌でとらえている。200万〜300万香港ドルの予想落札価格に対し650万香港ドル、手数料込み832万香港ドル(約1億6660万円)で落札された。

藤田嗣治《Nu assoupi sur la table》(1927) Courtesy of Sotheby's

 なお、サザビーズによると、《Le rêve (Hommage à La Fontaine)》と《Nu assoupi sur la table》の2点はいずれも、藤田作品のみを専門に収蔵・展示する長野県の軽井沢安東美術館が落札した。

 また、166.5×98センチの大作《Le Mexique》(1933)も、100万〜150万香港ドルの予想落札価格に対して340万香港ドル、手数料込み435万2000香港ドル(約8720万円)で競り落とされた。

「意図的に低く設定」したエスティメート

 こうした結果は、サザビーズが事前に立てていた戦略とも呼応するものだ。バックリー・ウッドは取材で、今回のエスティメート(落札予想価格)について「より多くの入札者を引きつけるため、意図的に低めに設定した」と説明。藤田の市場は過去10年ほど比較的安定しているとしたうえで、近年出品された類似作品と整合する水準に予想価格を設定し、多数の作品が一挙に市場へ出る今回のセールを通じて「藤田市場全体に動きが生まれることを期待している」と語っていた。

 藤田の市場については、日本のコレクターが1980年代から積極的に作品を収集してきたと指摘するいっぽう、今回のセールでは日本のみならず、中国、ヨーロッパ、アメリカ大陸からも入札を見込んでいると説明。実際、バックリー・ウッドは藤田の市場を「非常に国際的だが、とくにアジアで強い」と位置づけていた。

 また、「これは藤田の作品を多くの新しいコレクターに紹介する最初の一歩になり得る」と期待を寄せるとともに、既存のコレクターにとっても、「10年に一度しか市場に出ない」ような希少なシリーズを取得する機会だと語っていた。

奈良美智2作品に計26億円超

 続いて、同日に行われた「Modern & Contemporary Evening Auction」では、複数の日本人作家による作品も出品された。

 同セールの目玉のひとつとなったのが、ロット107の奈良美智《Present》(1994)だ。5000万〜7000万香港ドルの予想落札価格に対し、5800万香港ドルで落札。手数料込みでは7166万香港ドル(約14億3600万円)となった。

奈良美智《Present》(1994)が7166万香港ドル(約14億3600万円)で落札された Courtesy of Sotheby's

 また、奈良が2009年にレイキャビク美術館で開催された個展のために制作したインスタレーション《The Crated Room in Iceland/Drawing Room》も、4500万香港ドルの最低予想落札価格を上回る5000万香港ドル、手数料込み6190万香港ドル(約12億4000万円)で落札された。

 8月に97歳で逝去した草間彌生の作品も2点が登場した。《Infinity-Nets (LHLUJ)》(2017)は1200万香港ドル、手数料込み1536万香港ドル(約3億770万円)、《Pumpkin (TWPOT)》(2010)は4900万香港ドル、手数料込み6068万香港ドル(約12億1600万円)でそれぞれ落札。前者の予想落札価格は800万〜1200万香港ドル、後者は4800万〜6800万香港ドルで、いずれも予想落札価格の範囲内に収まった。

草間彌生《Pumpkin (TWPOT)》(2010)が6068万香港ドル(約12億1600万円)で落札された Courtesy of Sotheby's

 このほか、石田徹也の《Can't Fly Anymore》(1996)は手数料込み1216万香港ドル(約2億4400万円)、西村有の《at night》(2022)は230万4000香港ドル(約4620万円)で落札。同イブニングセールに出品された日本人作家の作品はすべて落札された。

ロスコは直前に撤回

 いっぽう、イブニングセールでは複数の出品作がセール開始直前に取り下げられた。なかでも当初、同セール最高額となる7800万〜1億2800万香港ドルの予想落札価格がつけられていたマーク・ロスコ《Untitled (Plum and Dark Brown)》(1964)が撤回されたことで、セールの構成は大きく変わった。同作はサザビーズが事前に今季の目玉として発表していた作品でもある。

 高額作品を含む複数のロットが直前に取り下げられたことは、不透明感の残る市場環境のなか、売却のタイミングや落札価格の水準をめぐって慎重な判断が続いていることを示す一例とも言える。

 それでも「Modern & Contemporary Evening Auction」の落札総額は手数料込み6億7133万400香港ドル(約135億円)を記録。藤田の単独セールと合わせた落札総額は7億3855万4400香港ドル(約148億円)に達した。サザビーズによると、これは香港での同カテゴリーのセールとして2023年秋以来の最高額で、今年3月から35パーセント増。2セールを通じた落札率もロット数ベースで91パーセントとなった。