藤田嗣治15作品が約13.5億円で落札。サザビーズ香港、両セールで約148億円の落札総額を記録
サザビーズ香港で藤田嗣治の作品15点を集めた単独オークションが開催され、全作品が落札された。落札総額は手数料込み約13.5億円。同日に行われたイブニングセールとの合計額は約148億円となり、2023年秋以来の高水準を記録した。

藤田嗣治の作品15点が集結したオークション「The Foujita Lexicon: Works from the Lewis Collection」が9月28日、サザビーズ香港で開催された。全15点が落札される「ホワイトグローブ・セール」となり、ハンマープライスの総額は4895万香港ドル。事前予想落札総額1650万〜2430万香港ドルの最高値の2倍を超え、手数料込みでは6722万4000香港ドル(約13億4700万円)に達した。
出品されたのは、イギリスの個人コレクション「ルイス・コレクション」が30年以上にわたって収集してきた藤田作品。1920年代から晩年まで、絹、紙、キャンバスなど異なる支持体による作品を含み、藤田の約60年にわたる画業を横断する構成となった。サザビーズ・アジアにとって、ひとりのアーティストに特化した単独オークションを開催するのは今回が初めてとなる。
オークションに先立ち、美術手帖の取材に応じたサザビーズ・アジアのプライベートセールス・ディレクター、ニック・バックリー・ウッドは、このコレクションを藤田の画業を俯瞰する「ミニ回顧展」と表現。「絹、紙、キャンバスと異なる媒体があり、様々な時代の作品が揃っている」とし、藤田作品を多数所有するコレクターでさえ見たことのないシリーズが含まれていると、その幅広さを強調した。
また藤田は、2028年夏にアメリカ・マサチューセッツ州のクラーク美術館で、同国初となる大規模な回顧展が予定されており、今回出品された作品のうち7点も同展への出品が予定されている。
予想価格の5倍超。《Le rêve》に約5.3億円
セールは、1924年に制作された藤田の自画像《Mon portrait》からスタートした。藤田がエコール・ド・パリの寵児として頭角を現した時期の作品で、80万〜120万香港ドルの予想落札価格に対し、220万香港ドルで落札。手数料込みでは281万6000香港ドル(約5640万円)となり、最初のロットから最高予想落札価格を大きく上回った。

続く猫を描いた《Chatte et chaton》(1932)も、200万〜300万香港ドルの予想落札価格に対し450万香港ドル、手数料込み576万香港ドル(約1億1530万円)で落札された。
そして、この日もっとも激しい入札合戦となったのが、ロット3の《Le rêve (Hommage à La Fontaine)》(1949)だ。藤田が1949〜50年に約10ヶ月間滞在したアメリカで制作した、ジャン・ド・ラ・フォンテーヌの『寓話』に捧げられた希少なシリーズのひとつ。400万〜600万香港ドルの予想落札価格から始まった入札は約7分間にわたり競り上がり、最終的にサザビーズ・ジャパンのデピュティ・ディレクター、山脇英恵が電話でつないだクライアントが落札した。ハンマープライスは2100万香港ドルと最低予想落札価格の5倍を超え、手数料込みでは2652万香港ドル(約5億3110万円)。同セールにおける最高落札価格を記録した。

予想を大幅に上回る結果はその後も続いた。藤田が1933年に描いた《Madeleine endormie》は、30万〜50万香港ドルの予想落札価格に対し340万香港ドルまで上昇。手数料込み435万2000香港ドル(約8720万円)となり、ハンマープライスは最低予想落札価格の11倍を超えた。
1920年代の藤田を代表する裸婦像も高い関心を集めた。ロット7の《Nu assoupi sur la table》(1927)は、当時藤田の妻でミューズでもあったユキを描いた作品。1920年代のモンパルナスの喧騒とは対照的に、静謐な空間のなかに横たわる人物を、藤田特有の繊細な線描と乳白色の肌でとらえている。200万〜300万香港ドルの予想落札価格に対し650万香港ドル、手数料込み832万香港ドル(約1億6660万円)で落札された。

なお、サザビーズによると、《Le rêve (Hommage à La Fontaine)》と《Nu assoupi sur la table》の2点はいずれも、藤田作品のみを専門に収蔵・展示する長野県の軽井沢安東美術館が落札した。
また、166.5×98センチの大作《Le Mexique》(1933)も、100万〜150万香港ドルの予想落札価格に対して340万香港ドル、手数料込み435万2000香港ドル(約8720万円)で競り落とされた。
「意図的に低く設定」したエスティメート
こうした結果は、サザビーズが事前に立てていた戦略とも呼応するものだ。バックリー・ウッドは取材で、今回のエスティメート(落札予想価格)について「より多くの入札者を引きつけるため、意図的に低めに設定した」と説明。藤田の市場は過去10年ほど比較的安定しているとしたうえで、近年出品された類似作品と整合する水準に予想価格を設定し、多数の作品が一挙に市場へ出る今回のセールを通じて「藤田市場全体に動きが生まれることを期待している」と語っていた。
藤田の市場については、日本のコレクターが1980年代から積極的に作品を収集してきたと指摘するいっぽう、今回のセールでは日本のみならず、中国、ヨーロッパ、アメリカ大陸からも入札を見込んでいると説明。実際、バックリー・ウッドは藤田の市場を「非常に国際的だが、とくにアジアで強い」と位置づけていた。
また、「これは藤田の作品を多くの新しいコレクターに紹介する最初の一歩になり得る」と期待を寄せるとともに、既存のコレクターにとっても、「10年に一度しか市場に出ない」ような希少なシリーズを取得する機会だと語っていた。








