2025.11.7

“アートフェア再考”。EASTEAST_TOKYO 2025が提示する制度のアップデート

2020年に始動したアートフェア「EASTEAST_TOKYO」が第3回の開催を迎えた。前回同様、東京都千代田区の科学技術館を舞台にしつつ、パワーアップした今回の見どころとは?

文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

会場風景
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 「EASTEAST_TOKYO」が、東京都千代田区の科学技術館で第3回の開催を迎えた。このイベントは、2020年に東京・馬喰町で「EAST EAST_Tokyo」として誕生。23年には北の丸公園内の科学技術館で「EASTEAST_TOKYO 2023」として開催され、1万人を動員するなど大きな反響を呼んだ。

 その理由のひとつに、本イベントがアートフェアでありながらも、既存のフェアの構造から脱却し、フェアのありかたそのものを問いかける試みだったことが挙げられるだろう。出展者はギャラリー単位であるものの、ホワイトキューブのようなブースではなく、科学技術館というユニークな会場を存分に生かしたブース構成となっており、迷路に迷い込んだような感覚で様々なプレゼンテーションと出会うことができる。

 また、狭いアート業界に閉じるのではなく、東京のカルチャーシーン、国内外のアーティストたち、そしてそこに訪れる人々を有機的に接続させている点も、「EASTEAST_TOKYO」の大きな特徴と言えるだろう。

会場より、AKIINOUEブース
会場より、PARCELブース

 同フェアファウンダーの武田悠太は、「SNS時代において価値観は多様化しているが、ともに同じ場にいないと分断は進む。EASTEAST_TOKYOは運営側も違う意見がそのまま存在し、受け入れることを目指している。それぞれが違うけれども、同じ場所でともに過ごすことの大切さを伝えたい」と語る。

ユニークな26の出展者

 出展ギャラリーは、初参加となる13の国内ギャラリー/スペースに加え、海外からは3つのギャラリーを招聘し、総勢26スペース。小山登美夫ギャラリーANOMALYGALLERY TARGET、PARCELなどアートフェアの「常連」も名を連ねるが、それはむしろ少数だ。2023年7月に発足し、若手から中堅作家による“共生/自活”を理念に掲げ、公共に開かれた美術活動を展開するTwo Monologueや、個人や少人数で活動している小さな規模のブランドを中心に取り扱うセレクトショップ「見た目!」、ソウルからの初参加となるCYLINDERなど、強い個性を放つ出展者たちが集結する会場のバリエーションの幅広さはほかのフェアには見られない特徴だ。

 科学技術館の中央にある五角形の空間から各ホールに放射状にアクセスでき、AからEの5セクションを自由に回遊できる会場構成となっている。

会場より、Gallery Traxブース
会場より、Two Monologueブース
会場より、手前はCOHJUブース
会場より、Nozza Serviceブース

 これらに加え、キュレーターに JACKSON kakiとnon-syntaxを招き、「弱いナラティブ」をテーマにビデオ、サウンド、パフォーマンスアートを発表するプロジェクト「EE_V/S/P Program」や、身体を通じて人間の存在や関係性を探るパフォーマンスプラットフォーム「Stilllive(スティルライブ)」によるパフォーマンス、参加者の交流の場としての「EE_Kitchen& Bar(キッチン & バー)」など多彩なプログラムが来場者を楽しませてくれる。

「EE_V/S/P Program」の様子

必見は「獸」

 また今年は、会場が科学技術館に隣接する北の丸公園第一駐車場へと拡大。「EE_Park」と題した展示が広がる。ここは東京をはじめ、能登やアジア各地など、ローカルな文脈から立ち上がる新たなアートの実践を紹介するもので、入場無料となっている。アートフェアをより多くの人々に開く試みだ。

 なかでも存在感を放つのは、若手を中心としたアーティストコレクティブ・GCmagazineによるインスタレーション《TURN OFF THE 5 PARADIGM LIGHTS》だろう。本作は、真夏の鈴鹿サーキットを手押しで一周するパフォーマンスと、その過程を記録した映像・写真を軸に構成されており、パフォーマンス中に撮影された写真でラッピングされた車両と、カラーチャート機能をもつ特製レーシングスーツを用いて、「写真における過程や労働の価値」を問いかけるものだ。

GCmagazineの《TURN OFF THE 5 PARADIGM LIGHTS》

 またこちらは有料となるが、都市と青年をテーマに制作を続けるアーティストGILLOCHINDOX☆GILLOCHINDAEによるアートプロジェクト「獸(第 3 章 / EDGE)」は必見だ。

 建築コレクティヴ「GROUP」が手がけた会場は、約6万本のススキと全長15メートルの人工の土手、そして小川が流れる壮大な“インスタレーション”。GILLOCHINDOX☆GILLOCHINDAEの多摩川の原体験を再現したというこの場所を舞台に、映像作品の上映や、様々なアーティストによる連続的なパフォーマンスなど、ジャンルを越境する表現が会期中絶えず展開される。要注目のプログラムとなっている。

「獸(第 3 章 / EDGE)」の会場外観
「獸(第 3 章 / EDGE)」の会場風景
「獸(第 3 章 / EDGE)」の会場風景

 経済効率を求めるのであれば、決してこのようなスタイルは取らないであろうEASTEAST_TOKYO。武田は個人の意見としながらも、「東京という都市は効率化が強く求められ、アートで生き残れるものは限られてしまう。経済や効率にもなびかないアーティストたちが社会に存在することは必要であり、そのための場と時間をつくりたい」と、このフェアの意義をあらためて強調した。

 日本のみならず、世界でもアートフェアは活況だが、マーケット優位のアート界の構造に疑問を抱くアーティストも少なからず存在する。そうしたなか、EASTEAST_TOKYOは次世代のアートフェアのあり方を考えるきっかけを提示するプラットフォームとして、今後も重要なプレーヤーであり続けるだろう。