2025.11.6

森美術館で「ロン・ミュエク」展が来春開催。巨大な頭蓋骨の彫刻100点によるインスタレーションも

オーストラリア出身の現代美術家、ロン・ミュエク。その大規模個展が森美術館で開催される。会期は2026年4月29日〜9月23日。

マス 2016-17 合成ポリマー塗料、ファイバーグラス サイズ可変 ビクトリア国立美術館(メルボルン) フェルトン遺贈(2018) 「ロン・ミュエク」韓国国立現代美術館ソウル館 2025 撮影=ナム・キヨン 写真提供=カルティエ現代美術財団、韓国国立現代美術館 
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 オーストラリア出身の現代美術家、ロン・ミュエク(1958〜)。その大規模個展が森美術館で開催される。会期は2026年4月29日〜9月23日。

 ロン・ミュエクはオーストラリア・メルボルンに生まれ、革新的な素材や技法、表現方法を用いて具象彫刻の可能性を押し広げてきた人物だ。1986年よりイギリスに在住し、映画・広告業界で20年以上のキャリアを積んだ後、90年代半ばに彫刻の制作を開始。97年、ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツでの「センセーション:サーチ・コレクションのヤング・ブリティッシュ・アーティスト」展に出品した《死んだ父》(1996〜97)が注目を集め、一躍国際的な評価を得た。以来、ミュエクは世界各地の名だたる美術館で作品を発表しており、日本では十和田市現代美術館に《スタンディング・ウーマン》(2007)が常設展示されている。

 カルティエ現代美術財団との共同企画による本展は、2023年にパリで幕を開け、ミラノ、ソウルを巡回した国際展の日本会場となるもので、日本では2008年の金沢21世紀美術館での回顧展以来、2度目の個展開催となる。会場では、巨大インスタレーション《マス》(2016〜17)を中心に、初期の代表作から近作までの11点を展示。うち6点は日本で初めて紹介されるという。

イン・ベッド 2005 カルティエ現代美術財団 「ロン・ミュエク」韓国国立現代美術館ソウル館  2025
撮影=ナム・キヨン 写真提供=カルティエ現代美術財団、韓国国立現代美術館 
マスクⅡ 2002 個人蔵(ロンドン) 「ロン・ミュエク」韓国国立現代美術館ソウル館  2025
撮影=ナム・キヨン 写真提供=カルティエ現代美術財団、韓国国立現代美術館

 日本初展示となる作品をいくつか紹介したい。例えば、先述の《マス》は、100点の頭蓋骨が山のように積み上げられた、サイトスペシフィックなインスタレーション作品である。頭蓋骨という主題は、「メメント・モリ(死を忘れるな)」というラテン語起源の思想とともに、西洋美術史のなかで繰り返し扱われてきたいっぽう、現代のカルチャーシーンにおいても普遍的に用いられている。

 本作に登場する頭蓋骨は、それぞれ色合いや形状が異なり、個々人の集合体であることを示唆している。しかし同時に、それらが放つ圧倒的な存在感は、“集団”としての迫力を鑑賞者に突きつける。

マス 2016-17 ビクトリア国立美術館(メルボルン) フェルトン遺贈(2018) 「ロン・ミュエク」韓国国立現代美術館ソウル館 2025
撮影=ナム・キヨン 写真提供=カルティエ現代美術財団、韓国国立現代美術館 

 《買い物中の女》は、現代を生きるひとりの母親を表した彫刻作品だ。重たい荷物や赤ん坊を抱えるその姿と、疲れ果てた表情からは、彼女の日常がありありと伝わってくる。実物よりも小さくつくられたその造形は、母親の疲労感や脆さをいっそう際立たせており、大都市のありふれた日常に潜む切なさを表現している。西洋美術史で定番とされる「聖母子像」を、現代的に解釈した作品とも言えるだろう。

買い物中の女 2013 タデウス・ロパック(ロンドン・パリ・ザルツブルク・ミラノ・ソウル 「ロン・ミュエク」韓国国立現代美術館ソウル館  2025
撮影=ナム・キヨン 写真提供=カルティエ現代美術財団、韓国国立現代美術館 

 背中に大きな翼を持つ男性が椅子に腰掛ける《エンジェル》は、ミュエクによる初期の代表作である。ミュエクは、18世紀イタリアの画家ジョヴァンニ・バッティスタ・ティエポロによる《ヴィーナスと時間の寓意》(1754〜58頃)を目にしたことをきっかけに、本作の制作に取り組んだという。原作でヴィーナスの隣に描かれた「時間」を象徴するこの年老いた男性は、私たちが一般に抱く天使のイメージとは大きくかけ離れている。

エンジェル 1997 個人蔵
写真提供=アンソニー・ドフェイ(ロンドン)

 また、フランスの写真家/映画監督のゴーティエ・ドゥブロンドによる、作家のスタジオと制作過程を記録した写真と映像作品もあわせて展示され、ミュエクの作品がどのように生み出されるのかといった過程にも光を当てる。

チキン/マン 2019-25 ハイビジョン・ヴィデオ 13分
監督・脚本=ゴーティエ・ドゥブロンド