2024.9.21

「art stage OSAKA 2024」開幕レポート。10ヶ国のアーティストの映像作品が集結

大阪・中之島のグランキューブ大阪で、10ヶ国の駐日大使館が推薦したアーティストによる映像作品を展示販売するアートイベント「art stage OSAKA 2024」が開幕した。会期は9月23日まで。

文・撮影=安原真広(ウェブ版「美術手帖」副編集長)

「art stage OSAKA」の参加作家たち
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 大阪・中之島のグランキューブ大阪で、アートイベント「art stage OSAKA 2024」が開幕した。会期は9月23日まで。

 「art stage OSAKA」の前身は、諸外国との連携を強化し国際的交流を生み出すことを目的に2018年に初開催された「World Art Tokyo」。映像作品を中心に構成された展覧会で、今回も映像作品が中心となる。

 3回目の開催となる今年のテーマは「World Art Osaka - 映像がつなぐ」。前回はディレクターやキュレーターを招聘し、大規模な展覧会形式で開催した本フェアだが、今回は10ヶ国の駐日大使館が推薦したアーティストによる、地域背景が色濃く反映される映像作品に触れる場を提供。国際交流や文化への理解を促進し、2025年の大阪・関西万博への機運醸成を図るものとなっている。

展示風景より、ウクライナ《A Moment of Peace》(2023)

 会場には壁面の巨大なプロジェクターのほか、9つのキューブがならび、それぞれの内部で映像が上映、来場者はヘッドホンをつけてそれぞれの作品を鑑賞するという構成となっている。参加しているのは、フランス、シンガポール、イラク、エルサルバドル、パナマ、ベナン、ブルネイ・ダルサラーム、カンボジア、ウクライナ、コロンビアの各国代表のアーティストだ。その一部を紹介したい。

「art stage OSAKA」の参加作家たち

 まず、大型のモニターで上映されているのがウズベキスタンとフランスを拠点に活動し、「ヴェネチア・ビエンナーレ 2022」や「ドクメンタ15」(2022)などに参加したサオダット・イズマイロボの作品《18000 Words》(2023)だ。イスラム教の神秘思想を題材にした映像作品で、ウズベキスタンの先祖伝来の知識や伝統的な精神的慣習、そして映画史の記録映像を交錯させることで同国の現代史を紡ごうとしている。

展示風景より、サオダット・イズマイロボの作品《18000 Words》(2023)

 エルサルバドルのフレディ・ソランは、石でできた「石の塔」とガラスでできた「光の塔」のあいだに、存在しない第三の塔を光とファイバー製の布によってつくりだす、巨大なインスタレーションを作成する作家。本展では同作を映像としてとらえた《Horizon without Body on the Hedjuk Towers》(2017)を見ることができる。

展示風景より、フレディ・ソラン《Horizon without Body on the Hedjuk Towers》(2017)

 コロンビアのカルデロン&ピニェロスは、同国のマグダレナ川に白いカバがただようインスタレーションを映像化した《Hippos in Gravitas》(2022)を展示した。コロンビアで麻薬王として絶大な権力を持ったパブロ・エスコバルが私有地に建設した動物園は、エスコバルの死後、野放しとなった。逃げ出したカバは野生化して繁殖して住民に被害をもたらしており、保護と駆除をめぐって社会問題となっている。カルデロン&ピニェロスは本件に代表されるような、人間の身勝手さと自然の問題を映像で問いかける。

展示風景より、カルデロン&ピニェロス《Hippos in Gravitas》(2022)

 カンボジアのカヴィッチ・ニアンはある日、自身の両親がポル・ポト率いるクメール・ルージュにより強制的に結婚させられたことを知ったショックから映像作品を制作。当時のことを教育のレベルでは知ることが少ないと語るニアンは、いまなおカンボジア社会に影を落とすかつての独裁政権の影響を、静かな物語として紡ぐ《THREE WHEELS》(2015)をつくることで歴史を省みた。

展示風景より、カヴィッチ・ニアン《THREE WHEELS》(2015)

 いまなおロシアとの戦闘が続くウクライナのヴェラ・ブランシュは日本で制作した作品《A Moment of Peace》(2023)を展示。ロシア占領軍によって拉致された100万人のウクライナの子供たちや、両親や親戚と引き離された子供たちに思いを馳せながら、子供たちをはじめとした日本の平和な風景を撮影した。

展示風景より、ウクライナ《A Moment of Peace》(2023)

 各国の現在の状況を映像として接続しようとする、アーティストそれぞれの多様な視点が感じられる作品が揃っている。今年の「art stage OSAKA」は会場で腰を据えつつ、それぞれの作品をじっくりと見て、各国の文化や歴史に思いを馳せるといいだろう。

 なお、同一の入場券で同一会場で開催されている、隈研吾やコシノジュンコ、野原邦彦などが参加するアートフェア「OSAKA ART Showcase Leading To 2025」(主催:大阪府・大阪市・大阪文化事業実行委員会)も開催されている。

「OSAKA ART Showcase Leading To 2025」