2025.6.11

渋谷慶一郎×サー・ウェイン・マクレガー、国際舞台制作を始動。舞台美術に妹島和世を迎え、2027年の世界初演を目指す

音楽家・渋谷慶一郎と振付家・サー・ウェイン・マクレガー、そして建築家・妹島和世という異なる分野のクリエイターが集結し、音楽、ダンス、建築、そしてテクノロジーの領域を横断する国際共同制作の舞台作品が始動した。

文・撮影=王崇橋(ウェブ版「美術手帖」編集部)

6月10日、同プロジェクトに関する記者発表会が都内で開催された。左からサー・ウェイン・マクレガー、渋谷慶一郎、妹島和世
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 音楽家・渋谷慶一郎が代表を務める「アタック・トーキョー株式会社(ATAK)」と、イギリスのロイヤル・バレエ団常任振付師であり、「スタジオ・ウェイン・マクレガー」芸術監督を務めるサー・ウェイン・マクレガーによる新作舞台作品の国際共同制作プロジェクトが始動した。

 本作は、音楽、ダンス、身体表現、AI/テクノロジー、建築といった複数の領域を横断しながら創作される総合舞台芸術作品で、2027年に世界初演が予定されている。演出・振付はマクレガーが、作曲は渋谷が手がける。また、出演には「カンパニー・ウェイン・マクレガー」のダンサーに加え、渋谷が開発を進めている最新の「アンドロイド・マリア」が予定されており、人間とアンドロイドによる身体表現の交錯にも注目が集まる。

 さらに、舞台美術には、建築ユニットSANAAの共同代表として国際的に活躍し、日本建築学会賞、ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展金獅子賞、高松宮殿下記念世界文化賞、プリッカー賞などを受賞した建築家・妹島和世を迎える。舞台空間と身体、音楽、テクノロジーが融合することで、従来のジャンルを超えた舞台表現が実現されることが期待されている。

渋谷慶一郎

 6月10日に都内で開催された記者発表会に登壇した渋谷は、「今回はダンスやバレエの身体表現と、音楽による断片的なストーリーをミックスさせた作品になる予定です。オペラとバレエはヨーロッパでは明確に分けられているが、そうしたジャンルの境界をあえて越えていくことに意味があると思っています」と語った。身体表現と音楽が融合した新たな舞台のかたちを模索するなかで、「ラジカルな提案こそが国際共同制作において重要」との考えを示した。

 いっぽう、マクレガーは本プロジェクトに対して「非常にエキサイティングで光栄な取り組み」と語り、「渋谷さんの作品にはクラシック音楽に匹敵する豊かな音響的イメージがあり、身体を動かすきっかけを与えてくれる。それがダンスにとって極めて重要な要素だと感じました」と述べた。また、妹島による建築空間についても、「人の身体がその中でどのように動くかをつねに新鮮な方法で提示してくれる。今回のプロジェクトは、空間と身体の関係性を探求する絶好の機会になる」と期待を寄せた。

サー・ウェイン・マクレガー(左)

 なお、渋谷と「カンパニー・ウェイン・マクレガー」のダンサー5名による初のコラボレーション・パフォーマンスは、6月7日・8日に大阪で開催された「PRADA MODE 大阪」にて披露された。マクレガーは「協働とは直感のようなもの。渋谷さんと過ごした数日間で、すでに美しいフィーリングが生まれている。素晴らしいスタートを切ることができた」とし、今後の制作に向けた強い手応えを語った。

 今回の国際共同制作プロジェクトは、文化庁が設置する「文化芸術活動基盤強化基金(クリエイター支援基金)」の助成を受けて行われ、この基金は日本の若手アーティストやクリエイターの積極的な参加も促していく予定だ。国内外の創作現場をつなぐ国際的なネットワークの形成と、次世代の育成にもつながる取り組みとなる。

 2026年には、イギリスを含むヨーロッパでの公演に関する詳細が発表される予定であり、27年の世界初演に向けて、本格的な準備がすでに進められている。ジャンルや国境を超えた連携により実現する本プロジェクトは、現代における舞台芸術の新たな可能性を切り拓く試みとして、今後も大きな注目を集めていくだろう。