2025.6.21

東京都庭園美術館で「永遠なる瞬間 ヴァン クリーフ&アーペル ― ハイジュエリーが語るアール・デコ」が開催。アール・デコ100年を記念

ハイジュエリー メゾンのヴァン クリーフ&アーペルをアール・デコ期の芸術潮流に着目しながら紹介する展覧会「永遠(とわ)なる瞬間 ヴァン クリーフ&アーペル―ハイジュエリーが語るアール・デコ」が、東京都庭園美術館で開催される。会期は9月27日〜2026年1月18日。

絡み合う花々、赤と白のローズ ブレスレット 1924 プラチナ、エメラルド、ルビー、オニキス、イエローダイヤモンド、ダイヤモンド ヴァン クリーフ&アーペル コレクション ©Van Cleef & Arpels
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 ヴァン クリーフ&アーペルのコレクションやアーカイヴを、アール・デコ期の芸術潮流に着目しながら紹介する展覧会「永遠なる瞬間 ヴァン クリーフ&アーペル ― ハイジュエリーが語るアール・デコ」が、東京・白金台の東京都庭園美術館で開催される。会期は9月27日〜2026年1月18日。

 ヴァン クリーフ&アーペルは、1895年にアルフレッド・ヴァン クリーフとエステル・アーペルの結婚をきっかけに創立されたハイジュエリー・メゾン。1906年、パリのヴァンドーム広場22番地に最初のブティックを構えて以来、詩情が込められたデザインや革新的な技巧で評価を得てきた。

パリ、ヴァンドーム広場22番地に創業したヴァン クリーフ&アーペル最初のブティック 1906 Van Cleef & Arpels Archives ©Van Cleef & Arpels

 本展は、1925年に開催された「現代装飾美術・産業美術国際博覧会(通称 アール・デコ博覧会)」から100周年を迎えることを記念した展覧会となる。同博覧会でヴァン クリーフ&アーペルは、宝飾部門において複数の作品を出品。グランプリを受賞した。本展は、アール・デコの意匠をふんだんに取り入れた東京都庭園美術館(旧朝香宮邸)で、1910年代から1930年代にかけて制作されたヴァン クリーフ&アーペルのアール・デコ期の作品を中心に、厳選されたジュエリー、時計、工芸品を約250点を展示。さらにメゾンのアーカイブから約60点の資料を紹介するものだ。

東京都庭園美術館 本館 正面外観 画像提供=東京都庭園美術館

 東京都庭園美術館副館長の牟田行秀は、本展の意義について、次のように語った。「東京都庭園美術館は、アール・デコ期の旧朝香宮邸というユニークな環境を活かした展覧会を開催してきた。ここまで往時の佇まいを残したアール・デコ建築は珍しい。出品作品である《絡み合う花々、赤と白のローズ ブレスレット》も、朝香宮夫妻がきっとアール・デコ博覧会で見たものだろう。時代を超えたアール・デコの邂逅を見ることができる特別な展覧会になるはずだ」。

 本展を担当する同館学芸員の方波見瑠璃子は、コンセプトについて次のように説明する。「アール・デコとはなにか、その本質を追い求める展示を目指した。効率化を目指した20世紀初頭において、アール・デコは装飾という遊び心を通じて、日常のなかの遊びを提案した芸術運動だったといえる。そのデザインが現代において共感を呼び起こす普遍性を持つのも、こうした精神がいまと共通するからではないか。ジュエリーと空間の双方を見ながら、アール・デコの装飾原理についての理解を深めてもらえれば」。

 また、会場デザインを担当するのは西澤徹夫建築事務所の西澤徹夫だ。西澤は本展のセノグラフィーについて次のように述べた。「長い歴史を持つヴァン クリーフ&アーペルと東京都庭園美術館が出会う場をどのようにつくるのかを考えた。ジュエリーを演出することでも、建築をよく見せることでもなく、両者が対峙し向き合っていることを示すことができるよう、異なる素材を組み合わせながら設計した」。

 会場は全4章構成。第1章「Emergence of an Art Deco Aesthetic アール・デコの萌芽」では、アール・デコ博覧会グランプリ受賞作品を含む、アール・デコ期に制作されたハイジュエリーの数々を紹介。

 本章では、メゾンがアール・デコ期に抱いていたビジョンを読み解く重要な鍵となる《絡み合う花々、赤と白のローズ ブレスレット》(1924)や《ローズ ブローチ》(1925)を展示。これらの作品には、つぼみや葉、棘といった植物の持つ要素が巧みに組み込まれており、自然のモチーフを幾何学的に様式化する、アール・デコの美学が体現されているといえる。

絡み合う花々、赤と白のローズ ブレスレット 1924 プラチナ、エメラルド、ルビー、オニキス、イエローダイヤモンド、ダイヤモンド ヴァン クリーフ&アーペル コレクション ©Van Cleef & Arpels

 また、東洋のイメージに着想を得た、色彩豊かな宝石があしらわれた《ロングネックレス》は、幾何学模様と生け花を想起させるモチーフが調和し、東洋の精神性とアール・デコの様式美が融合した作品といえる。

ロングネックレス 1924 プラチナ、エメラルド、ルビー、サファイア、オニキス、エナメル、ダイヤモンド ヴァン クリーフ&アーペル コレクション ©Van Cleef & Arpels

 第2章「Evolution to a Singular Style 独自のスタイルへの発展」では、ダイヤモンドやプラチナが巧みにあしらわれたホワイトジュエリーを中心に、1920年代以降ヴァン クリーフ&アーぺルが追い求めた立体感のある造形的展開を紹介。

 1920年代末に制作された《コラレット》(1929)は、1935年のブリュッセル万国博覧会ではフランス館に展示されたものだ。ネックラインには壮麗なダイヤモンドがあしらわれており、鮮やかなエメラルドは総計165カラットにもおよぶ。立体感と素材の多様性を追求した本作は、大きな注目を集めたという。

コラレット 1929 プラチナ、エメラルド、ダイヤモンド エジプト女王ファイーザ旧蔵 ヴァン クリーフ&アーペル コレクション ©Van Cleef & Arpels

 幾何学的な八角形を中心に、スズランのモチーフが様式化され、左右対称に配された《ブローチ》(1927)。その構成からは、秩序と幾何学を重視するアール・デコの美学を見て取ることができる。チョーカーやブレスレットとしても使用可能な多用途性を備え、連結部の精巧な技により、身体の曲線にしなやかに寄り添う着け心地を実現していることも特徴だ。

ブローチ 1927 プラチナ、ダイヤモンド ヴァン クリーフ&アーペル コレクション ©Van Cleef & Arpels

 第3章「Modernism and Functionality モダニズムと機能性」では、社会の変化に応じてヴァン クリーフ&アーぺルが制作した抽象的かつ幾何学的造形と機能性を備えた、モダニズムの魅力を伝える多様な作品を紹介する。

 鏡をはじめ、女性が外出時に必要となる、口紅、パウダーコンパクト、ライター、ノートなどを収めるケース「ミノディエール」(1938)。洗練されたデザインと高い機能性を追求したミノディエールは、ヴァンクリーフ&アーペルを象徴する作品のひとつだ。

カメリア ミノディエール 1938 イエローゴールド、ミステリーセット ルビー 、ルビー ヴァン クリーフ&アーペル コレクション ©Van Cleef & Arpels

 「南京錠」を意味する「カデナ」をかたどったリストウォッチは、1935年に誕生して以来、メゾンを代表するコレクションとして人気を博してきた。、一見ブレスレットのようにも見えるデザインは、女性が公の場で時刻を確認するべきではないと考えられていた時代、さりげなく時刻を確認することができる工夫の現れでもある。

カデナ リストウォッチ 1943 イエローゴールド、ルビー ヴァン クリーフ&アーペル コレクション ©Van Cleef & Arpels

 最後となる第4章「Garden of Savoir-faire サヴォアフェールが紡ぐ庭」は、新館で展開される。本章はヴァン クリーフ&アーペルに現代まで継承され続けている「サヴォアフェール(匠の技)」の数々を5つのセクションに分けて紹介する。コンセプトを「庭園」とし、草花や動物を新たな視点で考えることができる章となる。

 躍動的に咲く菊の花をかたどった《クリサンセマム クリップ》(1937)は、ヴァン クリーフ&アーペルが1933年に特許を取得した、石を留める爪を表に見せずに宝石の滑らかな質感を実現する「ミステリーセット」と呼ばれる宝飾技法が用いられたもの。1937年にパリで開催された「現代生活における芸術と技術の国際博覧会」に出品され高い評価を得た。

クリサンセマム クリップ 1937 プラチナ、イエローゴールド、ミステリーセット ルビー、ダイヤモンド ヴァン クリーフ&アーペル コレクション ©Van Cleef & Arpels

 房飾りのついたタッセルをスライドさせてジップを閉じるだけで、ネックレスからブレスレットへと変容するデザインをもつ《シャンティイ ジップ ネックレス》(1952)。服飾業界で用いられたジッパーから着想を得たもので、ヴァン クリーフ&アーペルの作品におけるファッションからの影響を裏づけるものといえる。

シャンティイ ジップ ネックレス 1952 イエローゴールド、プラチナ、ダイヤモンド ヴァンクリーフ&アーペル コレクション ©Van Cleef & Arpels

 アール・デコの建築空間で、ヴァン クリーフ&アーペルの作品を通じて、その思想を知ることができる、貴重な展覧会となりそうだ。