2025.5.28

ワタリウム美術館で中国人画家チェン・フェイの個展「父と子」が開催へ。家族の記憶から紡がれる絵画世界に迫る

中国・北京を拠点に活動する画家チェン・フェイ(陳飛)の日本初個展「父と子」が、7月3日から10月5日まで東京・神宮前のワタリウム美術館で開催される。

チェン・フェイ PDF 2025 リネンにアクリル 120 x 100 cm
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 中国出身の現代アーティスト、チェン・フェイ(陳飛)の日本初個展「父と子」が、7月3日から10月5日まで東京・神宮前のワタリウム美術館で開催される。

 1983年に中国山西省に生まれたチェンは、北京電影学院で学んだのち、北京を拠点に活動。その作品は、現代中国の急速な近代化とともに変化する人々の生活や、歴史的記憶と現在の断片が交差する日常を丹念にすくい取り、物語的かつ構築的に描き出すのが特徴である。これまでに、上海余徳耀美術館や北京今日美術館、日本の下山芸術の森発電所美術館、ニューヨークやパリ、香港など世界中のギャラリーで個展を開催し、広く注目を集めてきた。

チェン・フェイ 漫画家の出張 2024 リネンにアクリル 290 x 220 cm

 本展では、2022年から25年にかけて制作された新作絵画15点に加え、高さ7メートルの壁画やインスタレーション、ドキュメントが展示される。展覧会の出発点は、ナチス時代のドイツに生きた漫画家E.O.プラウエン(1903〜1944)の名作『Vater und Sohn(父と子)』にある。この無言漫画は、父と息子の日常を通して家族、友情、愛といった普遍的なテーマを描き出しており、極限的な社会状況における人間関係の温かさを示してきた。チェンは、この作品と響き合うかたちで、自身の家族や知人との関係性、さらには中国人画家としてのアイデンティティを自伝的視点で表現している。

チェン・フェイ ラブレター 2024 リネンにアクリル 290 x 220 cm

 展示作品のひとつ《ラブレター》では、早産で生まれた娘の成長を見守る父親としての個人的体験が描かれる。赤ん坊の排便を記録し続けた日々の写真が、後にスマートフォンの中で「詩」として立ち上がるというエピソードをもとに、作家は新古典主義や装飾芸術の要素を取り入れながら、極めて私的な感情を普遍的な造形言語として再構成した。

チェン・フェイ 超自然 2022 リネンにアクリル、金箔 120 x 100 cm

 もうひとつの作品《超自然》では、自身の子供を描くという初の試みに挑戦。描写の完成度以上に、父親としての感情の揺らぎが制作過程に影響を与えたことを作家は明かしている。感情に流されず制作することを信条としてきたチェンは、本作においてはその変化を受け入れ、絵画に想像の余白と生命感を取り入れた。

 10年以上の友情を持つというアーティストの加藤泉は、チェンについて「僕たちは国も世代も作品のタイプも違うけど、絵を通して世界に接続したいと思ってる、同じ種類のペインターだ」としつつ、次のようなコメントを寄せている。「父となった彼が世界をどう見てるのか? 新作の個展を東京で見れるのはホントに楽しみです!」

「父と子」ドキュメントより

 チェンの絵画表現が個人的な経験と深く結びつきながらも、それを普遍的な物語として昇華させる過程を明らかにする本展。鑑賞者にとっても、個人の経験がいかに芸術へと変容し、他者と共有され得るかを考えさせる機会となるだろう。