ワタリウム美術館で中国人画家チェン・フェイの個展「父と子」が開催へ。家族の記憶から紡がれる絵画世界に迫る
中国・北京を拠点に活動する画家チェン・フェイ(陳飛)の日本初個展「父と子」が、7月3日から10月5日まで東京・神宮前のワタリウム美術館で開催される。

中国出身の現代アーティスト、チェン・フェイ(陳飛)の日本初個展「父と子」が、7月3日から10月5日まで東京・神宮前のワタリウム美術館で開催される。
1983年に中国山西省に生まれたチェンは、北京電影学院で学んだのち、北京を拠点に活動。その作品は、現代中国の急速な近代化とともに変化する人々の生活や、歴史的記憶と現在の断片が交差する日常を丹念にすくい取り、物語的かつ構築的に描き出すのが特徴である。これまでに、上海余徳耀美術館や北京今日美術館、日本の下山芸術の森発電所美術館、ニューヨークやパリ、香港など世界中のギャラリーで個展を開催し、広く注目を集めてきた。

本展では、2022年から25年にかけて制作された新作絵画15点に加え、高さ7メートルの壁画やインスタレーション、ドキュメントが展示される。展覧会の出発点は、ナチス時代のドイツに生きた漫画家E.O.プラウエン(1903〜1944)の名作『Vater und Sohn(父と子)』にある。この無言漫画は、父と息子の日常を通して家族、友情、愛といった普遍的なテーマを描き出しており、極限的な社会状況における人間関係の温かさを示してきた。チェンは、この作品と響き合うかたちで、自身の家族や知人との関係性、さらには中国人画家としてのアイデンティティを自伝的視点で表現している。

展示作品のひとつ《ラブレター》では、早産で生まれた娘の成長を見守る父親としての個人的体験が描かれる。赤ん坊の排便を記録し続けた日々の写真が、後にスマートフォンの中で「詩」として立ち上がるというエピソードをもとに、作家は新古典主義や装飾芸術の要素を取り入れながら、極めて私的な感情を普遍的な造形言語として再構成した。